新型コロナウイルスの感染が急速に拡大する中、日本の検査体制の不備を指摘する声は少なくない。厚生労働省が発表している4月3日時点の暫定値では、国内の1日当たりのPCR検査件数は3月28日以降は毎日2000件を超えているものの、海外と比べれば桁違いに少ない。
在日アメリカ大使館は4月3日、日本に滞在するアメリカ国民に対して帰国を促す注意情報を掲載。
その中で、英語版のみ「日本政府が検査を広範には実施しないと決めたことで、罹患した人の割合を正確に把握するのが困難になっている。今後感染が急速に拡大すれば、日本の医療保険システムがどのように機能するのか、予測するのは難しい」と警戒を呼びかけている。
3月に新型コロナウイルスに感染し、入院した女性も「検査体制に問題があるのではないか」と不信感を訴える。すでに退院している都内に住む50代の女性に、症状出現から退院までの様子を聞いた。(取材はオンラインで行いました)
「どうしても検査してほしい」と懇願
女性は仕事で訪れた欧州から3月上旬に帰国。1週間後に関節痛と倦怠感の症状が出た。「時差ボケかな」と思っているうちに、帰国から10日後に約38度の熱が出た。通常の風邪よりも倦怠感が非常に強く、咳などの呼吸器症状はなかったが「新型コロナかもしれない」と感じたという。
当初は「まさか」「でも…」と半信半疑だったものの、その後も熱は上がったり下がったりを繰り返し、鼻は詰まっていないのに匂いや味が分からなくなり、食事がとれなくなった。
発熱した翌日と翌々日には帰国者・接触者相談センターに電話をしたが、つながらなかった。
発熱から3日後、保健所に電話で相談したが、軽症のため「ウイルス検査はできない」と取り合ってもらえなかった。仕方なく近所のクリニックに連絡し、他の患者に会わないように受診。「人と会う仕事だから、どうしても何らかの検査をしてほしい」と懇願したという。
女性はCT検査を受け、軽い肺炎と診断された。医師から大学病院を紹介された女性は、その日のうちに救急外来を受診した。だが、ここでも1時間半待たされた後で、「検査はできない」と帰された。
「自分では感染を疑っているのに検査してもらえないのも、熱があってだるいのに病院を回るのも、辛かった」
女性は当時の心境をこう振り返る。
PCR検査を受けることができたのは、発熱から6日後。外来用の正面玄関を通り、受付をするよう言われた。「大丈夫なのか」と女性から確認し、受付は免除されたという。検査翌日に陽性と連絡があり、その翌日に入院した。
症状が出現してから10日、発熱から8日が経過していた。女性の症状はすでに軽快しつつあった。
「不安と罪悪感でいっぱいだった」
新型コロナウイルスに感染しているかもしれない、と思った時、頭をよぎったのは職場のことだった。海外には仕事の関係者複数人と訪れていたし、発熱前には職場にも立ち寄っていたためだ。同居する夫のことも心配だった。女性は「最初は不安と罪悪感でいっぱいだった」と語る。
陽性と判明した後、女性は濃厚接触者のリストを作って医師にPCR検査をしてほしいと伝えた。だが、女性が知る限り、「症状はない」という理由で結局1人も検査を受けることはできなかったという。
「検査なしで2週間待機してもらい、精神的な負担をかけてしまった。患者としては、感染してしまったことで不安や罪悪感を抱えているのに、他の人にも負担をかけることが本当に心苦しかった」
PCR検査をめぐっては、政府の専門家会議が3月19日に公表した「提言」の中で、「医師が感染を疑う患者には、PCR検査が実施される。また、積極的疫学調査において検査の必要性がある濃厚接触者にもPCR検査が実施される」とされている。最近では検査数も増えているが、現場では「提言」通りに運用されているとは言えない状況が続いている。
「私はかなり強く検査してほしいと訴えて、CT検査で分かりましたが、反論せずに医師に従う人も多いと思います。今のように検査数を絞るやり方では、検査するかしないか、患者や医師の性格など合理的でない理由に左右されることも多いのではないでしょうか」
女性は、味覚と嗅覚が戻り、回復するにつれて「怒り」が湧いてきたという。
「 『感染しているかもしれない』と言い出せる雰囲気づくりを」
女性は、さらに「感染したかもしれない、と周囲に伝えたり、検査を受けたりするのはとても勇気がいる」と指摘する。
「検査を受けることが当たり前になり、感染経路を抑えることが大事だという雰囲気づくりが必要です。感染した人が責められるような空気では、自分が『感染しているかもしれない』と言い出すことができない。陽性だと言えるような社会的合意を作るために、メディアの役割も重要だと思います」