女性をだまして裸の写真を入手し、それを元に女性を脅迫してさらなる性的搾取画像や映像を送らせる。それをネット上の秘密の部屋で流し、金を払った客数十万人が共有していたーー。「n番部屋」と名付けられた性犯罪事件が韓国で発覚し、社会を揺るがしている。
そもそもこの事件は、2019年7月、「チュジョクタン プルコッ」という大学生記者たちの取材で発覚した。「チュジョクダン プルコッ」公式Youtubeによると、2019年の9月にニュース通信振興会を通して報道されたものの、当時はあまり大きく取り上げられることはなかったという。2019年11月から、ハンギョレを中心に取り上げられるようになり、報道されるようになった。
ニュース1によると、被害者の女性が多数にのぼり未成年の女性も被害にあっていたこと、単純計算で女性たちの性被害の動画や画像を26万人(重複含む)の会員が見ていたことが次々と判明していった。重複を考慮しても10万人以上が密かに見ていたと推測され、韓国社会を震撼させている。
秘密のチャットルーム「博士部屋」で行われていたこと
最初に明るみに出た「博士部屋」事件は、ハンギョレによると、2018年12月から2020年3月にかけておきた。
博士部屋を運営していたチョ・ジュビン容疑者は、TwitterなどのSNSで女性を脅迫し、それぞれの性的な自撮り画像や動画を撮影させ、テレグラム上に作られた秘密のチャットルームでその画像や動画を流出させていた。被害者の女性の中には、未成年女性も含まれていた。
2020年3月17日、この事件の首謀者で、チャットルーム上で「博士」の名前で知られていたチョ・ジュビン容疑者(24)が逮捕された。
容疑は、2018年12月から2020年3月にかけ、児童を性的に搾取した映像などを制作し、チャットルーム「博士部屋」などに流出させた疑いだ。3月24日には、ソウル地方警察庁により身元公開委員会を開かれ、身元の公開が決定した。
事件の詳細はこうだ。
まず、SNSを通じて知り合った女性に対して、まず割の良い「スポンサーアルバイト」があると勧誘し、裸の写真を入手する。いったん写真を手に入れると、その写真を周囲に流出させると女性を脅迫し、さらなる性的な画像や動画を撮影させ、テレグラムの有料会員制のチャットルームで流出させた。
さらに、会員の一部は「職員」と呼ばれ、積極的に性搾取に関わっていた。管理人に「司令」を受けた職員たちは、被害女性を呼び出して性暴力を働いたり、資金洗浄をしたり、性搾取物をチャットルームに流すなど運営任務を任されていた。
「博士部屋」を運営していたチョ・ジュビン容疑者は、ハフポスト韓国版によると、3段階のチャットルームを運営し、それぞれ20万ウォン(1.7万円)、70万ウォン(6.2万円)、150万ウォン(13万円)相当の暗号通貨を入場料として受け取っていた。
この性搾取犯罪を通して得た犯罪収益は、数億ウォンに達しており、性搾取物を販売して不当に得たとされる現金約1億3千万ウォンが警察にすでに押収されている。
ハフポスト韓国版の取材に応じた「チュジョクダン プルコッ」の記者によると、「テレグラム」には、性搾取した映像や不法撮影物の共有、知人の写真を持ちより、会員内で陵辱する部屋もあった。また、一般人や芸能人の顔にディープフェイクのようなポルノ物のようにつくった映像を共有するチャット部屋もあったという。
博士よりも前にいた「創始者」の存在
しかし、テレグラム上のこのようなチャットルームは、最初に「博士」によって作られたわけではないことがさらに事件を複雑にしている。
実は「博士」よりも先にこうしたチャットルームを作ったとみられる存在がいる。 ニュース1、ハフポスト韓国版によると、チャットルームでこのような性搾取を始めた創始者は「ガッガッ」という名前で知られている。テレグラム上に1番から8番の8個の秘密のチャットルームを作り、数百の映像を流出させていた。そのため、事件は総称として「n番部屋」と呼ばれている。
また、2019年2月にそれを引き継ぎ既に逮捕されている「ケリー」とその共犯とみられる「ワッチメン」など別の人物の存在も浮上している。
ハンギョレなどによると、2019年10月、「ワッチメン」で知られる38歳の会社員のチョン容疑者(名前は不明)は、公共の化粧室で女性を密かに撮影した不法撮影物を掲示したインターネットサイトを運営した疑いで起訴されている。
ハフポスト韓国版によると、2020年3月19日に「ワッチメン」に懲役3年6ヶ月が求刑された。容疑は、2019年4月から同年9月まで「コダム部屋」というグループ部屋を開設し、他4つのチャット部屋を共有するリンクを載せ、1万件に及ぶ性搾取物を載せた疑いだ。
4月6日に法廷に姿を表したチョン容疑者は、「社会的物議を起こした点について深く反省している」と述べ、「あの団体チャット部屋に一切関連がなく、金品を受け取ったりどんな利益も受け取ったことはない」と起訴内容を否認した。これに対し、検察は、金融取引情報の提出命令を要請した。
一方、ニュース1、ハフポスト韓国版によると、「n番部屋」の創始者とみられている「ガッガッ」は、3月30日時点で、まだ逮捕はされていない。しかし、警察が有力な容疑者を特定し、追跡中だと報じられている。
ニュース1によると、2019年2月から2020年3月までテレグラムを通して性搾取物映像を制作した人物には他に「コテ」「ロリテジャンテボム」「砂肝揚げ」などが挙がっている。
特に、「コテ」は、自身を学生と名乗っていた。「ガッガッ」のようにTwitterで探しだした未成年者たちの性搾取映像を主に制作し、流出させていた。彼らはこの過程を「奴隷狩り」と呼んでいた。
また、ニュース1によると、ソウル地方警察庁サイバー安全課は3月26日、「太平洋遠征隊」を運営し児童性搾取物などを流出したチャット名「太平洋」(16)を児童青年の性保護に関する法令違反などの疑いで拘束し送致したと明らかにしている。
「博士部屋」の有料会員であった「太平洋」は、2019年10月から「博士部屋」の運営人として秘密部屋に関わっていた。「太平洋」は、運営人としての活動だけではなく、自ら「太平洋遠征隊」という性搾取物共有部屋を作り、去年の2月までに1万人ほどの会員を集めていた。
ハンギョレによると、警察が3月20日までに確認した「博士部屋」での被害者は、74人で、その中の16人は未成年者にのぼるという。
140人を逮捕。そのうち78人が20代
ニュース1によると、警察は4月1日までに本事件捜査の中で140人を検挙し、「博士部屋」チョ・ジュビン容疑者を含む23人を拘束した。
4月2日、警察庁デジタル性犯罪特別捜査本部は、性搾取物を制作し流出した人数は115人で、そのうち運営者9人、拡散者13人、所持者93人であると明らかにした。また、制作された映像を受け取り、他のチャット部屋を作って販売し、再流出した人は5人だった。その他、流出や女性アイドルグループの写真や映像を使用したディープフェイク合成物を拡散した数は20人に達していたことがわかった。140人のうち、4人が自首したという。
検挙された140人のうち、20代が最も多く78人だった。30代が30人、40代が3人、そして10代が25人含まれていた。残り4人は確認中だ。
首謀者だけではなく閲覧者の捜査を。300万人以上の署名も
ハフポスト韓国版によると、韓国政府は、「n番部屋」や「博士部屋」の加担者全員を厳正に調査し、処罰する方針だ。検察は、この一連の犯罪に加担した程度によって、求刑などを検討するとしている。
大統領宛に直接署名ができる「青瓦台請願掲示板」には、徹底した捜査を望む300万人以上の署名が集まっており、文在寅大統領は、首謀者だけでなく会員になって動画や画像を見ていた人々を含めて捜査を行うよう捜査機関に求めている。
ハフポスト韓国版によると、国会科学技術情報放送通信委員会の全体会議に出席したハン委員長は、「会員26万人の身元公開が可能か」という質問に対し、「可能であると考える。行為者に対する厳正な処罰が必要だ」と答え、身元公開を否定しなかった。