1.マンガの「売り切れ」ツイートが人気を加速
週刊少年ジャンプで2016年から連載中の吾峠呼世晴(ごとうげ・こよはる)のマンガ『鬼滅の刃』(集英社)が異例のヒットを続けている。
『鬼滅の刃』は、大正時代を舞台に、鬼に家族を殺された主人公・炭治郎が鬼となった妹を人間に戻すため、仲間とともに死闘を繰り広げてゆく物語だ。
2019年中頃から人気に火が付き、現在、マンガ単行本は既刊19巻、累計発行部数4000万部を突破、一時はマンガ単行本の売上ランキング上位を『鬼滅の刃』が独占する事態となった。
さらに、店頭では一瞬にして在庫がなくなり、「どこに行っても売り切れ」といったSNSの書き込みも話題を呼んだ。
そうした人気の背景には、TVアニメの放送がある。2019年4〜9月にかけて放送された『鬼滅の刃』のアニメは、そのクオリティの高さで大きな話題となり、東京アニメアワードフェスティバル2020のテレビ部門作品賞やYahoo!検索大賞 2019アニメ部門、第12回日本ブルーレイ大賞アニメ賞など様々な賞を受賞。
取次大手の日販が運営する「ほんのひきだし」によれば、『鬼滅の刃』第1巻(2016年6月発売)の売上部数は、アニメ終了時の2019年10月には、同年3月の20倍に達したそうだ。
2. 実力派アニメ制作スタジオが原作の世界観広げる
アニメを制作したのはufotable(ユーフォーテーブル)というアニメ制作スタジオだ。
2000年代に設立されたこの会社は、『Fate/Zero』や『活撃 刀剣乱舞』などのアクション・ファンタジーを代表作に持ち、常に質の高い作品を作ることでアニメファンの間で信頼されている。ダイナミックな画作りと美しい美術描写を得意としており、TVアニメでも劇場アニメ並のクオリティを実現できる稀有な会社だ。
『鬼滅の刃』では、大正時代に合わせた和のテイストを戦闘描写に取り入れなど、新しい表現にも意欲的。妥協を許さぬ制作姿勢は、原作マンガの持っていたポテンシャルを最大限に引き出し、その魅力を多くの人に気づかせることになった。
また、アニメ主題歌を担当したLiSAは2019年末に紅白にも出場し、その人気を決定づけた。
2020年配信予定のアプリゲーム「鬼滅の刃 血風剣戟ロワイアル」製作発表ムービー
3.アニメの放送終了後も配信でブーム拡大
インスタグラムに「#鬼滅カラー」で髪の裾を紫や緑に染めたヘアスタイルが多数アップされるなど、もともとは女性が牽引した『鬼滅の刃』人気。
しかしながら、2019年9月のアニメ放送終了後もAmazonプライムやNetflix、Huluをはじめ20もの配信サイトで見られるため、ファン層が拡大。2020年には劇場版が公開、アプリゲーム化など、続々とニュースが発表され、いまや社会現象と言われるまでに。
現在、新型コロナウイルスによる一斉休校要請で外出できない小・中学生など新たな視聴者を獲得し、その勢いはまだまだ続きそうだ。
マンガ『鬼滅の刃』の魅力は“東洋的な死生観”感じるストーリー
『鬼滅の刃』は、少年ジャンプの王道といえる少年の成長物語だ。舞台は大正時代、鬼に家族を殺され、唯一生き残った妹も鬼にされ、妹を人間に戻すため主人公の炭治郎は強くなることを決意、鬼を狩る「鬼殺隊」への入隊を志願し、個性豊かな仲間とともに幾多の死闘を繰り広げてゆく。
家族を殺されたことから主人公の戦いが始まるが、単純な復讐心だけで行動せず、鬼に対しても思いやりを持てる優しい主人公であるのが本作の大きな特徴だ。
また、主人公や仲間たちだけでなく、敵対する鬼にも人間だった頃の悲しい思い出が描かれることも多く、鬼でありながら人間味を感じさせるのも人気の理由の一端だろう。
炭治郎は、鬼を倒す時にいつも、悲しみを受け止めるかのような切ない表情を見せる。憎い敵を倒した達成感よりも、まるで相手を成仏させることができたことに安堵感を感じているようなその描写に、東洋的な死生観を感じさせるのも本作のユニークなポイントだ。既刊19巻、最新刊20巻は5月1日発売。
(編集:毛谷村真木)