ストックホルムで週末、通りを歩く人が吸い込まれていくお店があった。
セカンドハンドショップだ。
ソファやデスク、運動用具や、洋服、装飾品の年代物レースなど様々な中古品が集まる。
セカンドハンドショップは、ストックホルムでは人気の場所なのだと言う。
「既製品と違って、自分なりの味付けをして自分のスタイルになる。前の持ち主に思いをはせることができるのもいい」
と話すスタイリストのカメリア・ペレスさん。家の家具は、全て、中古品だ。
セカンドハンドショップで買ったり、廃棄処分場の前に陣取り、家具を持ち主が手放す前に「下さい」と申し出て受け取ったりするなどして、再利用している。ペンキを塗ったり、補強をしたりして自分らしい家具に仕立て直す。「サステナブルな生活が自分たちの心を豊かにするはず」と話す。自宅は地熱も利用して、電力使用を抑えている。
サステナブルとは、持続可能を意味し、1987年に開催された、国連が設置した「環境と開発に関する世界委員会」の報告書“Our Common Future”の中で、「サステナブル・デベロップメント(持続可能な開発)」という言葉が使われたことをきっかけに広まった。
同報告書の中で、「持続可能な開発とは、次世代の人々のニーズを損なうことなく、現在のニーズを満たすこと」だとされている。
2月に開かれたストックホルムのデザインウィークでも、サステナビリティは主要テーマの一つだった。サステナブルを主軸においた展示には人が多く集まり、関心の高さをうかがわせた。
スウェーデンを代表する世界的な家具関連店IKEAは、サステナビリティを企業活動の柱の一つに置いている。商品の6割以上は再生可能な素材を使用し、事業で使うエネルギーの7割超を自然エネルギーでまかなっている。2020年には100%にすると言う。
■スウェーデンの人々の意識の背景には
国連が採択した、世界をよりよく変えるための17の目標SDGs(持続可能な開発目標)の達成率は、2019年、スウェーデンはデンマークに続き世界2位だった。 持続可能な開発ソリューション・ネットワーク(SDSN)のSDGs達成度ランキングインデックスによる162カ国を対象とした調査だ。
持続可能な開発の意識は、なぜ育まれるのか。
スウェーデンは、北欧の厳しい環境のもと、食やエネルギーなど限られた資源の中で合理的に高品質のアウトプットを出そうとする国民性があるかもしれない。こう説明するのは、スウェーデンの日本商工会長であり、三菱商事ストックホルム駐在員首席の長野彰理さんだ。
限られた地球資源を最大限に利用するというサステナブルの考え。サステナブルの意識が垣間見えるアートがデザインウィーク期間中、ストックホルム市内で展示された。
「ピンクチキン プロジェクト」という作品だ。
ロンドン芸術大学の卒業生レオ・フィジェランドさんとリンナ・バグランドさん(LEO FIDJELAND & LINNEA VÅGLUND)2人が作ったのは、世界中で毎年消費される数十億羽のニワトリの遺伝子を変え、ピンクの羽と骨を持つチキンが誕生するという架空の物語作品だ。ピンクチキンの遺伝子は、容易に子孫に引き継がれる上に、大量生産のもと急速に拡大し、ピンクのチキンは消費されることで、廃棄物によってできた地層の中にもピンク色が出現するまでになるーー。
あくなき大量消費と持続可能性のない社会の毒が、可愛い顔をしたピンクチキンに表されているようだ、と批評家は指摘する。
スウェーデンでは、一般的にサステナブルについての意識は高いのだが、そんなスウェーデンでも、道にプラスチックゴミはよく落ちている。
ただ、地球上で人は「生かされている」という感覚を底流に持ちながら、日々できることをしようという意識を持っているのがスウェーデン流のようだ。
「分別しない人も実は結構います。プラスチック容器が便利だからそればっかり使う人もいます。けれども、何かしようと思っている人も確実にいます。僕はエコロジストではないが、歯ブラシについていうと、プラスチック製をやめてとうもろこしの穂軸を使ったものに変えたり、ペットボトルはお店の所定ボックスに入れると20円程度戻ってくるので、子供たちと一緒に行って捨ててリサイクルしている」と話すのは、元警察官のトマス・ベージュさんだ。
「地球に長生きしてもらうために、みんなそれぞれできることをする。その意識が未来を作るので、大事だと思う」と、中学生の長女エレさんは話していた。(井上未雪)