もはや「コロナショック」だ。
新型コロナウイルスの感染拡大による世界経済への影響が止まらない。3月18日のニューヨーク株式市場は大幅値下がりで2週間で4度目となる取引停止。日経株価平均も下落を続けている。
3月17日に生配信された「ハフライブ」では、第一生命経済研究所の首席エコノミスト・永濱利廣さんと、「マザーハウス」の山崎大祐副社長をゲストに迎え、「新型コロナは日本経済をどう変える?」をテーマに日本経済の行方や私たちの生活への影響を考えた。
「カネ」が止まったリーマンショック、「ヒトとモノ」が止まったコロナショック
「一言で言えば、日本経済にとっては最悪のタイミングでコロナが来た」
永濱さんはこう語る。
「米中貿易摩擦などの影響でおそらく日本は一昨年の11月から景気後退に入っていたのに、昨年10月に消費増税があった。そこに新型コロナウイルスが来て三重苦。もしオリンピックが開けないとなれば、四重苦になる」
100年に1度の危機と言われた2008年のリーマンショックと比較し、「恐怖指数(投資家の不安感を示す金融指標)や株価純資産倍率など、すでにマーケットの反応はリーマン級」と指摘する。
さらに、追い討ちをかけているのが、世界的な自粛ムードだ。永濱さんは言う。
「基本的に、経済はヒト・モノ・カネで動く。リーマンショックではカネの流れが止まってしまったが、今回はモノとヒトの動きが止まってしまった。リーマンショックの時のように、金融緩和などの金融政策だけでは立ち直れない」
「世界的に、ここまでヒトとモノが動かない事態はこれまでに経験がなかったのではないか。我々エコノミストも、改めて経済はヒトとモノが重要なんだと再認識した」
オリンピックは「無理に開いても、大変なことになる」
7月に予定されている東京オリンピック・パラリンピックの先行きも不透明だ。もし中止や延期になった場合、どのような影響があるのだろうか。
永濱さんは「延期か中止かでは全然違う。頑張ってきた選手の気持ちを考えればいたたまれないが、経済効果だけを考えれば延期した方がいいと思う」と語る。
「無理に開いても、観光客は来ないし、オリンピックで感染が拡大すれば、もっと大変なことになる」
東京都オリンピック・パラリンピック準備局によると、誘致が決定した2013年から大会10年後の2030年までに見込まれる経済効果は約32兆円とされている。
一方、永濱さんは、オリンピックの直接的な経済効果の大半は施設整備などの建設業などの需要拡大によるもので、開催の有無に関わらず「すでに得られている」とした上で、こう指摘する。
「残りの経済効果は、延期になれば開催のタイミングで取り戻せる。中止となれば、国民が楽しみに期待していたものが失われることになり、心理的にもきつい。『景気は気から』という言葉があるように、中止となれば単純な金額以上の影響が出るだろう」
「今こそリーダーの判断を見極めよ」
観光業や飲食業以外にも、小売にも大きな影響が出ている。
「消費にこれだけインパクトを与えている経済不況は、最近では経験がない」と語るのは、国内外で40店舗を展開し、バッグやジュエリーを生産・販売する「マザーハウス」の山崎さん。新型コロナをきっかけに「お店とお客様のつながりかた」を改めて考えていう。
バングラデシュなどアジア各国に生産拠点を持つマザーハウスを率いる山崎さんは「危機の時こそ、リーダーの判断が大事」と強調する。
「こういう時にこそ、どういう働き方をするか、リーダーが何を発信するか、に耳を傾けて見極めてほしい。悪い時にこそ、会社のスタンスが出ます。オリンピックを延期するにしても、そのタイミングで国のリーダーがどんな発信をするかが大事だと思います」
「今、この社会をどうしたらいいか、というビジョンが問われている。日本が何をするのか、というのもよく見ておきたい。誰に対して、何に対してお金を使うのか。世界が同じような状況に置かれている中、どの国がどんな風に対応を取るのかは注視しておきたい」
状況は3.11よりも「厳しい」
永濱さんの試算によると、2011年の東日本大震災では直後に計画停電などの影響もあり、国内の家計消費は震災後4カ月で約2兆2000億円ほど押し下げられた。今回は、それ以上の経済損失が出ることになると見ている。
山崎さんも「現場の感覚でいうと、震災の時よりもずっと厳しい」と語り、「これから起きるのはサプライサイドショックだ」と指摘する。
ヒトの動きが止まったことでインバウンドが減少し、観光業に打撃を与えているのは分かりやすい。だが、モノの動きが止まった影響は、少し遅れてやってくるという。
「工場の生産が止まって部品がない、商品がない、ということはすでに始まっている。商品がない、作れない、という生産のインパクトは後からやってくる。そうなれば、経済への影響は震災の時よりも長引くかもしれません」
「経済が悪くても人は死ぬ」
3月19日には、政府の専門家会議が開かれ、今後の休校やイベント自粛をどうするかの目安が示される予定だ。
永濱さんは「自粛は感染拡大を防ぐためであり、国民の命を守るため」と理解を示した上で、「経済が悪くても人の命は奪われる。今後は失業率も増えていくだろう。ウイルスも経済も人の命に関わるので、バランスの取れた対策が重要だ」と訴える。
「リアルな繋がり」の価値
今回、新型コロナウイルスの感染拡大を食い止めるために、大活躍したのが、リモートワークやリモート教育、オンラインでのイベントや教材だった。
一方で、永濱さんは「対面で仕事をしたりサービスを提供することの価値を考えるいい機会になった」と指摘する。と指摘する。
「日本は生産性が低いと言われるが、『おもてなし』といわれるフェイストゥーフェイスの丁寧なサービスがいかに価値が高いか。これを機に、『おもてなし』という過剰サービスに対価を求めるような動きも出てくるのではないか」
山崎さんも、共感する。
「リアルに繋がる喜びというのを、こういう状況になって改めて知った。『リアルな店舗の意味』『職場に集まって一緒に働くことの意味』が問われているのだと思います」