「私たちは声を失くした女性の代弁者だ」「暴力を止めよう!」——。
国際女性デーの3月8日、フランスでも女性の怒りと決意が集結。フェミニストを象徴する紫色の旗や、手書きのプラカードを掲げた女性たちが、時に拳を振り上げ、時に陽気に歌い、雨模様のパリでデモを繰り広げた。エマニュエル・マクロン大統領らも男女平等を訴えるメッセージを発信。パートナーによる女性への暴力(DV)や経済格差など、ジェンダー先進国のフランスでさえ直面する、男女格差問題をお伝えしたい。
■「私たちは闘う女性を支援する」。6万人がデモに参加。
春のような陽気に恵まれた前日から一転、国際女性デー当日のパリは、フランスが抱えるジェンダー問題を表すかのように、どんよりとした寒空に包まれ、時折激しい雨が降った。仏紙ルモンドよると、この日、パリでデモに参加したのは約6万人(主催者発表)。パリ市のアンヌ・イダルゴ市長やナジャット・ヴァロー・ベルカセム元女性権利大臣ら女性政治家も、一般市民とともにパリの街を練り歩き、性暴力への反対や女性の権利向上を訴えた。
インスタグラムで25万人のフォロワーを持つ、フェミニズムのNPO団体「Nous Toutes(We All)」は「私たちは声を失くした女性の代弁者だ」「家父長制に反対!」「闘う女性を支援する」と書かれたプラカードを掲げ行進。トップレスでの抗議活動で知られる女性の権利団体「FEMEN」は、パリ中心部のコンコルド広場で、発煙筒と消毒液のようなものを手に「パリから『家父長制ウイルス』を一掃する!」と過激な抗議を見せつけた。
■フランス人女性が直面する暴力。#JeSuisVictimeの悲痛な叫び。
フランスといえば、個人主義が徹底した愛の国。女性が自立していて、その地位も確立されている、というイメージが強いかもしれない。
実際、世界経済フォーラムが2019年12月に発表した「ジェンダー・ギャップ指数」によると、フランスは世界15位。121位の日本と比べると圧倒的に格差の小さい、ジェンダー先進国だ。国会議員の約4割、閣僚の半数は女性。高等教育の機会など教育分野では性差別はない。さぞかし男女平等が社会に浸透しているのだろうと思いきや、実はそうでもないようだ。
フランスは今、2つの大きなジェンダー問題を抱えている。
ひとつは女性への暴力、もうひとつは、賃金格差や職場での性差別といった経済的な不平等だ。
とりわけ深刻なのが、配偶者やパートナーによる「フェミサイド(女性殺し)」で、大きな社会問題になっている。AFP通信によると、19年の1年間で126人の女性が配偶者や元配偶者によって殺害された。つまり、約3日に1人のペースで、パートナーによって女性の命が奪われていることになる。
フランス映画界にも、女性への性的暴行に対する怒り、フェミニスト旋風が吹き荒れている。19年11月には、フランス人女優アデル・エネルさんが映画監督から受けたセクハラを告発。さらには、2月末に開催された、フランスのアカデミー賞といわれる「セザール賞」の授賞式で、かつて児童性的虐待で有罪となったロマン・ポランスキー監督が最優秀監督賞を受賞したことで、女性たちの怒りが噴出し、出席していた女優らが会場から立ち去り、パリの街には抗議する多くの女性が詰めかける騒動となった。
その後、#JeSuisVictime(私は被害者です)というハッシュタグを付けた投稿がツイッター上で急増。仏メディアによると、3月8日までの1週間で、#JeSuisVictimeとタグ付けし、少女時代の性的暴行の被害を訴えたり、憤りを露にしたりする投稿が20万件を超えた。その多くが悲痛な叫びだ。
「8歳のときでした。私は10年間このことに堪えてきました」
「私は14歳でした。強制され、縛られ、傷つけられ、泣いていました」
「7、8歳の頃、私は義理の父親による被害を受けました。非難しようとしたけれど、証拠がないからと、その問題は闇に葬られました。声を上げるように言われるけれど、私たちの声は聞き入れてもらえないのです」
■男女の給与格差は18% 経済的な不平等も根深く。
一方で、経済的な男女格差への不満もフランス人女性の間でくすぶっている。
4人の子育てをしながら、パートタイムで会計士として働くソニアさん(45)は「今でも家事の多くは女性が負担していて、その上、仕事と育児もある。確かに20年前よりはましになったかもしれないけれど、男女平等とは程遠い」とため息をもらす。
フランス国立統計経済研究所(INSEE)によると、2015年の調査では、フルタイムの場合、女性の給与は男性より18%低く、さらに「父親」「母親」間ではその差が大きかった。子どもがいない男女間では給与差が7%であるのに対し、子どもを持つ男女間では23%と、子育てによる格差拡大を裏付けている。
また、2010年の調査では、育児の65%、掃除や料理といった家事の71%を女性が担っているという結果だった。
■「北京宣言」から25年、ジェンダー節目の年。7月7月、パリで会おう。
そんなフランスにとって、2020年は特別な年になる。
女性と女子の権利とジェンダー平等の実現を謳った、1995年の「北京宣言」と「行動綱領」の採択から25年、フランス政府は7月7日から4日間、UN Women(国連女性機関)と共同で、「Generation Equality Forum (平等を目指す全ての世代のためのフォーラム)」をパリで開催するからだ。
フォーラムでは、ジェンダーに基づく暴力、経済的な権利、フェミニズム運動とリーダーシップなどの6テーマについて、5年以内に目に見える結果を出すために、各国政府や市民団体、民間セクターを巻き込み議論するという。
フランスでも急速に拡大する新型コロナウイルス対策に追われるなか、マクロン大統領は8日、ビデオメッセージで国民にこう呼びかけた。
「人生を壊す暴力や性的暴行、フェミサイド、女子の強制結婚、教育機会の剥奪、ガラスの天井、賃金格差、地位の不平等。このような不平等はいたるところにあり、そして根深い。妨げとなっているのは、蒙昧主義や否認、沈黙、風習です。しかし、もし私たちが決意すれば、これらを変えることができます。さぁ、決意しましょう」
「これは女性のための闘いではありません。これは人としての闘いであり、暴力や不正義、無関心に対する全ての人の尊厳のための闘いです」
「男女平等は、私の5年間の任期における大きな目的です。
後戻りしないこと、結果を出すことを行動で示すために、7月7日、パリで会いましょう。なぜなら、私たちは平等を目指す世代だからです」
(メッセージの一部抜粋、筆者訳)
元ブロガーで二児の母親でもある、マルレーヌ・シアッパ首相付き男女平等差別対策担当副大臣(37)も国際女性デーに先立ち、「3月8日は女性の祭典ではなく、女性の権利の日なのです」とツイッターで強調。2015年にハフポスト仏版に寄稿した自身の記事を「有益なリマインダー」として再掲した。
「夢に描きましょう。今から20年以内に、女性の権利が守られ、男性も女性も、公私ともに自分が思い描く人生にできる(社会を)。そして、3月8日が特別な日ではなくなることを」。
シアッパ副大臣は目下、女性起業家への支援や、父親育休の延長、産休育休を取得した女性の復帰支援などを盛り込んだ「経済分野の女性解放」プロジェクトを進めている。
【参照】
(文:吉田理沙/編集・榊原すずみ)