飛行機に乗り込んで、座席に腰掛けたら、ビニール袋に入ったブランケットと枕を取り出して、くつろげる環境を整える人も多いだろう。
それからプラスチック製のヘッドフォンをして、ペットボトル入りのジュースを貰って、プラスチック製のカップにプラスチック製のマドラーも一緒に貰う。少し経ったら、今度はプラスチック製の容器に入れて盛り付けされた機内食を、プラスチック製のパッケージから取り出したプラスチック製のフォークやナイフで食べる。
飛行機を利用する人にとって、特に長距離フライトの場合、こういった場面には馴染みがあるが、それは環境面にとって大問題だ。
「機内から出る廃棄物の量は衝撃的です」と語るのは米航空会社、アメリカン・エアラインの所有する地域航空会社のキャビン・アテンダントのデイヴィッド氏(偽名)。彼は「プラカップや缶、紙パックなど、中身がたくさん残ったまま捨てられるものもあります。スナック菓子の包みやストロー、そしてナプキンも。これら全てがリサイクルされることなく捨てられているんです。そしてこれらは、飛行機自体が環境に与えている影響とは別の問題です」とハフポストに語った。
飛行機の排出する膨大な量の二酸化炭素ガスについての問題意識は、徐々に高まりつつある。その排出量は、地球全体で人間が排出している二酸化炭素の量の2%を占め、最近では飛行機の利用そのものに疑問を呈する声も上がりつつある。北欧では「Flight Shame(飛び恥)」運動が起こり、飛行機の利用を減らす人々や、一部では完全に利用を辞める人も増えつつあり、世界にもその動きは広がっている。
しかし、「飛び恥」という言葉の認知が広がる一方で、飛行機の乗客利用者の全体数は減っていない。2018年に飛行機を利用した人数は前年に比べ6.1%多い約43億人。そして2019年には約45億人に達した。国際航空運送協会 (IATA) は、2037年までに乗客利用者は約2倍に達するだろうと予測している。
乗客利用者が増えるにつれ、飛行機から出る廃棄物の量も増加し、環境破壊を引き起こしている。
IATAによれば、2018年に飛行機から出た廃棄物の量は670万トン。ある研究によれば、2012年から2013年の間にロンドン・ヒースロー空港で出た廃棄物の平均値は、長短距離両方のフライトを含めて、1人あたり1.4キロだったそうだ。
プラスチックはごみの中でも大きな争点の1つで、地球規模でも特に問題視されている。排出されたプラスチックごみ63億トンのうち、リサイクルされているのは僅か9%だという。プラスチックごみは水や空気、食料などに影響を及ぼす汚染ガスを発し、更に海底や自然の山々、鯨のお腹などの多くの場所から発見されている。
機内から出る食料ロスも問題となっている。IATAによれば廃棄物の20%から30%は全く手のつけられていない食べ物や飲み物だという。乗客の食欲をそそることのなかった食べ物は、他のものと同じようにゴミ箱へ捨てられ、埋められたり、焼却される一兎を辿るのだ。
「飛行機に関して悩ましいのはそこなんです」とハフポストに語ったのは、ハーバード大学公衆衛生学部でサステナブル・ツーリズム・イニシアチブの局長を務めるメーガン・エプラー・ウッド氏。 「全てを1つの袋に投げ入れて、分別をしようとする努力もしないんです。つまり、リサイクルされてないということです。プラスチックなどは汚染されると、もうリサイクルができないからです」と続けた。
ウッド氏は「見落とされがちですが、食料ロスは気候変動にも作用しています」と話し、プラスチックや食べ物など、飛行機からの廃棄物になってしまう物の生産に伴う温室効果ガスの排出について言及した。「これらは実際には『飛行機がどれだけの温室効果ガスの排出を出しているのか』という問いかけからこぼれ落ちてしまっています」という。
問題の最前線に立つキャビン・アテンダントという立ち位置のデイヴィッド氏は、雇用主にその話題を問い掛けること自体が難しいと言う。
「研修期間にリサイクルについて聞いたら、笑われました。『素早く機内を整えなくてはいけない』というプレッシャーがあるからだと思います。27分で乗客を飛行機から下ろして次の便の準備をしなくてはいけないのに、その中でリサイクルをするなんて無理な話、という訳です」
航空会社も努力はしているが...
一部の航空会社ではこの問題の解決に取り組んでいる。オーストラリアのカンタス航空は2019年5月、シドニーとアデリードを結ぶフライトで初の「ごみゼロ」民間飛行機を開始した。このフライトの機内で出た廃棄物は全てリサイクルや再利用、または肥料として転用され、プラスチック製のものを使う代わりに、再利用や肥料として転用が可能な材料を使い、機内で出たゴミは全て客室乗務員が分別しているという。
ヨーロッパでは、エール・フランス航空が機内で使われている2億1000万のプラスチック(食器やカップ、マドラーなど)を削減し、年間で1300トンもの使い捨てプラスチックを無くす誓約をした。プラスチック製品の代わりに紙製のカップや生物原料の食器、木製のマドラーなどが使用される予定だ。スペインのイベリア航空はEUからの資金支援を経て、機内で排出されるごみの80%を削減することを目標とした「機内ごみゼロ」計画を共同でローンチした。その一環として、2019年の5月にはごみを分別するために500台以上の多くの仕切り付きカートを導入した。
アメリカではアラスカ航空が2020年までに、埋められて処理される廃棄物の量を、乗客1人あたり70%削減するステートメントをした。2019年6月5日には、ユナイテッド航空が「航空史上、最もエコフレンドリーな旅客機便」を飛ばし、これには「機内ごみゼロ」計画も導入されていた。JetBlueは機内でのリサイクル計画がを施行し、国内フライト中に機内で使用されたボトルや缶の分別やリサイクルが行われた。
アメリカン航空のスポークスマンは、会社は1989年からはアルミニウムのリサイクルをしているとハフポストに語り、「ストローの使用をやめて、持続可能で環境にも優しい竹製のマドラーを代わりに使用しています」と続けた。そして、予算との兼合いも考慮した微生物分解が可能な素材の取り入れも検討中だという。
しかし、こうした試みの動きの多くは微々たるもので、その場限りのものになってしまっているようで、プラスチックの「軽量で安価」というメリットはやはり大きいようだ。
IATAで環境対策の局長補佐を務めるジョン・ゴドソン氏は「航空会社からは新たな原材料を求める強い声が挙がっている」と語る。しかし、そのような素材を見つけるのは決して簡単ではないようだ。
ロンドン市内に拠点を置くデザイン会社のPriestmanGoodeは航空関係にまつわる分野で20年以上に渡り製品開発をしてきた。そこで今回、この企業はエコノミークラスの機内食で使われる食事トレイをコーヒーかすや藻類、竹や籾殻などといった原材料を元にデザイン開発した。これらの原材料はいずれも食用の植物且つ微生物分解が可能、更に肥料としても転用ができるものとなっている。
同社広報のアナ・メイヤー氏は、食器デザインについて「知って欲しいのは『他にも選択肢がある』ということです」と語る。そして「しかし実際は、これと言ってシンプルな解決策はなく、全てにとって代われるような原材料はないのです」と続けた。
「使い捨てのものを使用しないことが最良の手段です」とゴドソン氏は語る。しかし一方で、例えばグラスや鉄製の食器は重さがあるため、結果として飛行機の燃料が増し、それに伴い排出する二酸化炭素も増えてしまうとも話す。そして、そのような食器を洗う時に使用した洗剤などで、更なる汚染になりえるという危惧もあるそうだ。ゴドソン氏は「代替のものを使うときは、持続可能性の優越性があるという事を示せるようになりたい」と続けた。
航空業界だけの問題ではない
廃棄物に関して、はっきりとした変化をもたらすには、体系的に変わっていく必要がある。機内に限らず、空港そのものでも廃棄物は多く出ているのだ。
「本当に空港次第なんです。廃棄物を置く場所が空港になければ、何もできませんから」とエルパー・ウッド氏は言う。
空港における廃棄物削減の状況も色々だ。「サンフランシスコでは最高の対策を施行しています」と彼女は語る。「他の空港よりも前から『ごみゼロ』運動のポリシーを掲げていて、実際に廃棄物が減らす為の施設も設備しているんです」サンフランシスコ空港は2021年までに世界初の「ごみゼロ空港」になることを目標としているそうだ。リサイクルや肥料としての転用が効くものを使うことで、埋められたり、焼却されたりする廃棄物の90%をなくすという。
また、彼女は「世界で最もグリーンな空港」としている香港空港についても言及した。香港空港は廃棄された食べ物をエネエルギーに変える設備も完備しており、その他にも、機内ゴミの分別を試行するなど、機内のゴミの量を減らすために多くの策に身を徹している。
しかし、廃棄物を減らすための規制は障壁にもなる。特にアメリカやイギリスなどの大規模な農業を誇る国々では、国際便から出た廃棄物は全て危険なものとして扱われ、焼却処分か埋め立てという手段が取られるのだ。これには動物が病気に感染するリスクを防ぐ目的がある。
IATAは、より適切な規制をかけない限り、機内ゴミの量は次の10年で2倍にも上ってしまうだろうと警鐘を鳴らしている。
「単純に廃棄物を減らすことで得られるメリットは大きいです」とゴドソン氏は語り、更に「それはとても重要な事です。しかし、再利用やリサイクルに関しては、世界の動物の健康や規制に直面してしまいます」と続けた。「機内から排出される全てを単純に有害な危険物として処理してしまうのは、容易だがらです」と加えた。
「多くの航空会社が、使い切りのプラスチックをより持続性の高いものに入れ替えるのを見てきました。竹や紙、厚紙の食器など、微生物分解のできる多くの手段を取り入れていましたが、結局は処理の際には燃やされてしまうのです」
個人でもできることはあるが、起こせる変化には限界がある。
何か個人単位でできることはあるだろうか?マイボトルにマイコーヒーカップ、更にマイ箸などを機内に持ち込むこともできる。IATAは座席のポケットにゴミを入れたりしないこと、そして必要のない食べ物や飲み物は断り、可能であれば前もって食事メニューを注文をしておくことを推奨している。
キャビン・アテンダントのデイヴィッド氏も、乗客の中には消費したボトルを持って帰り、リサイクルするという人がいるが、そういった人たちはかなり少数派だと語っている。「乗客の人たちは、機内でどれだけのゴミをそれぞれが出しているかを考えていません。乗客が降りた後の機内の床にはごみが溢れ、座席のポケットにもごみが押し込まれていますが、それについて考えている人はいないんです」と話す。
普段から家でリサイクルを行っている人たちも、旅中はリサイクルを意識していない、という学術的な証拠は数多くある。ウッド氏も「そんなことばかりです。とても良識のある人たちでさえ…」と語っていた。
しかし、個人レベルの行動によって組織的な問題を解決できるような答えを導き出すことは不可能だ。「旅のニーズを満たすのに適した航空機を使い、必要な空港を使う。私たちはそういったシステム体系の中にはまってしまっている状況です」とウッド氏は言う。
デイヴィッドさんは、手の施しようがなくお手上げてあると胸中を明かし、同時にこの問題に対する乗客の意識が高まり、航空会社が更に行動を起こすきっかけになることを切に願っているとも語った。
「飛行機の存在がなくなることはありませんが、飛行機の利用は環境破壊に大きな足音を残します。しかし、リサイクルや乗客の一人ひとりが機内で排出するプラスチックごみの量を削減することで、その被害は多少軽減させることができます。そうなれば私も、埋め立てられると分かっているごみに目を瞑る罪悪感も多少は軽減される気がします」
ハフポストUS版を翻訳、編集しました。