感染が拡大する新型コロナウイルス対策として、首相による「緊急事態宣言」が可能になる法案が3月13日、参院本会議で可決し、成立した。どのような法案なのか。
「私権制限」懸念も...法案成立
成立したのは、2012年に制定された「新型インフルエンザ等対策特別措置法」の対象に、新型コロナウイルス感染症を追加した改正案。新型コロナウイルスのさらなる感染拡大を防ぐために、首相が「緊急事態宣言」を発令することが可能になる。
「緊急事態」が宣言されると、都道府県知事が住民に対して外出の自粛を要請したり、学校や社会福祉施設のほか映画館・劇場などの使用制限、イベント開催の停止などを要請・指示できるようになる。また、所有者の同意が得られない場合にも、臨時の医療施設を開設するために土地や建物を使用できるようになる。
国民の「私権制限」を伴う法律のため、与野党からは慎重な検討を求める声が出ていたが、宣言にあたり国会への「事前報告」が付帯決議に盛り込まれたことから、立憲民主党や国民民主党でつくる野党統一会派は賛成に回った。
安倍晋三首相は3月9日の参院予算委員会で、「国民の私権を制約する可能性もあるので、どのような影響を及ぼすのか、十分に考慮しながら判断していきたい」と述べたという。
共産党は、「市民の自由と人権の幅広い制限をもたらし、その歯止めがあいまいだ」として、法案に反対していた。
一方、立憲民主党の山尾志桜里氏は、同法が「強大な私権制限」にあたるとして、同党の方針に反して、法案に反対を表明。宮下一郎・内閣府副大臣の答弁を受け、「緊急事態」が宣言がされると、民放のテレビ局などを指定公共機関とし、首相が報道内容について指示を出すことが可能になると指摘した。(宮下氏は13日午後、答弁を撤回し、謝罪した。)
山尾氏は、国民の権利を守るためには、事前報告ではなく、国会での「事前承認」(緊急の場合は事後)を必須とするよう求め、「野党も責任を持って緊急事態宣言が本当に必要なのかどうか賛否を通じて態度を示すことが、国民に代わって国会議員が権力を統制するという意味だ」と訴えていた。
「緊急事態宣言」、生活への影響は...
「緊急事態宣言」が発令されると、何が起きうるのだろうか。
特措法の条文を元に、生活に影響が大きそうなところをまとめてみると、以下のようになった。
01.外出自粛の要請
都道府県知事は、「生活の維持に必要な場合を除きみだりに当該者の居宅又はこれに相当する場所から外出しないこと」を、期間と区域を決めて住民に要請できる。(第45条)
02.学校、社会福祉施設、イベント会場の使用制限
都道府県知事は学校、社会福祉施設、興行場(映画、演劇、音楽、スポーツ、演芸などの施設)の管理者に対し、施設の使用制限もしくは停止を要請できる。また、イベントの主催者にイベント開催の制限もしくは停止を要請できる。施設管理者等が正当な理由がないのに要請に応じないときは、指示することができる(第45条)
03.臨時医療施設のための土地使用
都道府県知事は、臨時の医療施設を開設するため、土地、家屋または物資を使用する必要があると認めるときは、当該土地等の所有者および占有者の同意を得て、当該土地等を使用することができる。また、正当な理由がないのに同意をしないとき、同意を得ないで、土地等を使用することができる。(第49条)
04.医薬品や食品など、物資の売渡しの要請
都道府県知事は、緊急事態措置の実施に必要な物資(医薬品、食品その他の政令で定める物資に限る)であって生産、集荷、販売、配給、保管または輸送を業とする者が取り扱うものについて、その所有者に対し特定物資の売渡しを要請することができる。正当な理由がないのに要請に応じないときは、特定物資を収用することができる。(第55条)
05.生活関連物資等の価格の安定
指定行政機関の長らは、国民生活との関連性が高い物資などに価格の高騰や供給不足が生じたり、生じる恐れがあるときは、法令の規定に基づく措置などを講じなければならない。(第59条)