厚生労働省は3月8日、日本での新型コロナウイルスの感染者数の推定について専門家が見解を示した米・CNNとその内容を引用した中央日報日本語版の報道内容を公式Twitterなどで否定した。
CNNは北海道内での感染者数について「実際には(公式統計の)その10倍に上る可能性がある」と言及したが、同省はこの報道について、西浦教授名で「明らかに誤り」と指摘する文書を公開した。
CNNなどの報道は?
CNNは3月6日、「日本で発表の感染者数は『氷山の一角』、専門家が検査態勢の強化促す」という見出しで、日本の新型コロナウイルス感染対策の現状について報道。
緊急事態宣言が出された北海道について、「道内の感染者数は公式統計では80人台とされている」と前置きした上で、新型コロナウイルスに関連した感染症対策に関する厚生労働省対策推進本部事務局員で北海道大学大学院教授の西浦博氏の見解を、以下のように掲載していた。
北海道大学の西浦博教授は、実際にはその10倍に上る可能性があるとの見方を示す。西浦氏は、ウイルスの拡散予想を目的とする統計モデルの作成で政府の対策を支援する立場から、感染者数の推定は、流行の発信源となった中国の武漢市の状況と一致すると話している。
これに対して厚労省は、検知できていない人がいることは認識しているとした上で、日本国内の症例は合計3000例前後だと思われると述べ、西浦氏の推計に反論した。
引用─CNN.co.jp(3月6日11時配信記事より)
一方、韓国の中央日報日本語版は3月7日、このCNNの記事を受け引用する形で「日本の専門家『公式統計の10倍水準と推定』との小見出しで、以下のように報道した。
政府のウイルス拡大シミュレーションモデル構築にも参加した北海道大学の西浦博教授はCNNのインタビューで「日本の新型コロナ感染者は公式統計の10倍ほど」と予測した。
西浦教授は「日本の流行実態は新型コロナ発生地の武漢で起きたものと一致する」とし、予測モデルによると日本の感染者数は1万人を超えると推定されると明らかにした。
引用─中央日報日本語版(3月7日午後1時21分配信記事より)
これに対して厚労省の反論は?
これを受け厚労省は3月8日、公式サイトに西浦博氏の署名でCNNと中央日報の記事内容を反論する文書を掲載。
北海道の感染者数について、「累積確定患者数が 70余名に至らない段階の頃に、 北海道に渡航歴のある外国人の患者情報に基づく推定を実施したところ、患者数が941 名(95%信頼区間:156、2906)と推定されました」と詳細を公表。
「このことから、北海道の感染者は報告の10 倍を超える程度であったことが言えます」と認めた。
これについては、「感染しても極めて軽症で済む方が多いことや、発病しても受診せずに診断されない方が多数いることを反映しています」と説明した。
「北海道に関する推論、全国に適用は困難」
一方で、北海道に関する推定を日本に用いることについては、「同様の推定を日本全体に妥当性をもって適用することは困難です」との見解を示した。
その理由について、「日本の確定患者数のうち 700余名はダイヤモンドプリンセス号の乗船者に基づくデータであり、同様の計算をそれら患者に適用することも困難」とした上で、「『1万人を超える』とする解釈は明らかに誤りであり、 この言及は当方が提供したものではありません」とCNNと中央日報の記事で言及された内容を否定した。
また厚労省は9日、別のツイートで、「新型コロナウイルス感染症の『相談・受診の目安』が、『PCR検査』の能力との関係で厳しく設定されているとの報道がCNNなどでありました。しかしながら、両者は別のものです」としてCNNの報道を否定していた。
新型コロナ、メディアを“名指し”で批判する厚労省
厚労省はこのところ、新型コロナウイルスのメディア報道をめぐって、番組やメディアを“名指し”で批判している。
3月5日には、「医療機関におけるマスク不足」について取り上げた『羽鳥慎一モーニングショー』(テレビ朝日系)の出演者の発言に反応し、マスクの供給について、感染症指定医療機関などに「優先供給を行った」とTwitterで公表。
しかしその後、同番組が全国の感染症指定医療機関へのマスクの供給について取材したところ、マスクが実際に届いていたのは一部の機関のみに留まっていたという。
この事実を受け番組側が厚労省に問い合わせると、「担当者から『優先供給を行った』は『言い過ぎた表現』だったと訂正された」と6日の放送で明らかにしていた。
厚労省がメディアを名指しで批判することについて、ネット上では、「メディアを名指しするのは検閲や圧力に繋がりかねない」「いちいちメディアを批判している暇があるなら、具体的な政策を示すべき」などと疑問の声があがっている。