新型コロナウイルスの集団感染が起きた大型クルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス号」の感染対策を批判した神戸大の岩田健太郎教授の動画をめぐり、海外は日本への批判を強め、政府は反論に追われている。
そんな中、「声を発することができないスタッフの声を代弁してくれた」と岩田教授に感謝する声も上がっている。
クルーズ船内に派遣されていた医療機関のスタッフが2月20日、「岩田先生の証言は正しいと確信していることを伝えたい」と、ハフポスト日本版の取材に電話で応じてくれた。
「ゾーニングできていないのは明白」
このスタッフは今月、クルーズ船内の救護活動に従事。現在はすでに下船している。
「岩田氏の動画で共感したのは、大きく2点あります」と、真っ先にゾーニングの不備を指摘した。
ーー岩田教授は「どこが危なくてどこが危なくないのか全く区別がつかない」と船内の状況を指摘していますが、同じ意見ですか?
そうですね。区域管理できていないのは明白だと思います。
例えば、メディカルセンターや対策本部のある5階ダイニングルームでは、本来なら何重かの隔離スペースを作って感染防具を着脱して出入りするような場所ですが、サージカルマスクを着けただけの人間が職種関係なく出入りができる状態でした。
クルーズ船のメディカルセンターに従事している医療関係者は疲弊しきっていて、自分たちも感染しているだろうという諦めの境地にあるように見えました。かなり緩い防護で業務に当たっていました。
ーー 加藤勝信・厚生労働大臣は2月19日の専門家会議後の記者会見で、ゾーニングについて「感染防具を脱ぐゾーンを設け、その他の業務区域と分離するゾーニングを行なっていた」と反論しています。20日には、橋本岳・厚労副相も「清潔ルート」「不潔ルート」と張り紙で区分けされた写真をTwitterに投稿しています(現在は削除)。
客室と医療対策本部が置かれた5階に、橋本さんが投稿されていた写真のような防護服を着脱する区域があります。そこで汚染されたマスクや手袋もゴミ箱に捨てるようになっています。
でも、空間が仕切られているわけではなく、エレベーターを降りてその場所にたどり着くまでに色々な方とすれ違うのです。あまり意味があるとは思えませんでした。
「衛生管理の知識が共有されていなかった」
ーー岩田教授は船内の状況について「ものすごい悲惨な状態で、心の底から怖いと思いました」と話していました。同じ感想をお持ちですか?
今振り返ると、たしかにその通りだな、と感じています。でも、当時はそこまで怖いとは思っていませんでした。
ーーそれはなぜですか?
乗船前、全てのスタッフは、船内の避難経路や非常時の汽笛の合図などについてのブリーフィングを受けるよう義務付けられていますが、危険区域と安全区域についての説明など感染管理に特化したブリーフィングはありませんでした。
でも、当時は、乗船業務に当たる上で必要な知識は事前に共有されているものだと思っていたので、色々疑問に思うことはあっても、自分は専門家ではないので、恐いと思ってはいませんでした。
ーー厚労省は乗務員や医療従事者に対しては、感染防止のための指導を行なっていると主張していますが、そうではなかったということでしょうか?
衛生管理の知識は、クルーには特に共有されていないと感じました。
例えば、夕食は船長のご好意でダイニングホールで食事が提供されたのですが、開放された空間でマスクを外して談笑しながら食事をします。そこにはクルーの方たちも入ってきます。
彼らに「マスクを交換している?」と聞いたことがありました。「もちろん、1日1回交換しているよ」と言うんです。汚染されたマスクを一日中つけているのでは、まったく意味がないと感じました。
クルーは手袋もつけていますが、手袋をつけたままゴミ箱を交換したり、あちこち触っているのも見ていました。
「日本政府の後手な対応、改めてほしい」
ーー岩田教授の動画に対しては、船内で対応している感染症の専門医師から「不安と疑念が交錯するときだからこそ、一致団結していかなければ」となだめる声も上がっています。同じく船内で業務に当たった立場として、どのようにお考えですか?
当然講じるべき感染管理の対策が講じられていない、そして、政府がそれを認めようともしていない状況で、専門家の立場から問題点を指摘した岩田先生に対して「一致団結すべき」という感情論で反論するのは適切だとは思えません。
立場上、声をあげることができず苦しい、悔しい気持ちを抱えているスタッフもいます。そういうスタッフにとっては、劣悪な環境を指摘してくれた岩田先生の動画は心強かったです。
私自身も、立場上、匿名ではありますが、日本政府の後手後手な対応を改めて欲しいと願って取材に応じました。