エキナカのフードロス問題を解決しようと、1月、東京駅で実証実験が行われた。フードシェアリングサービス「TABETE」による実証実験は、その名も「レスキューデリ」。営業終了後、まだ食べられる食品を、駅で働く従業員に安く販売して食品ロスを減らす取り組みだ。
実験開始からおよそ1週間後の夜。エキナカ商業施設「グランスタ」内にある閉店直後のパン屋さんを、TABETEの社員が訪れた。
TABETEは、廃棄処分にせざるを得ない売れ残りの商品をテナントから買い取って行く。
このパン屋では、キロ当たりでの買い取りになっていた。取材当日は、約30キロのフードロス削減に繋がった。
買い取った商品はスタッフの休憩室で販売される。商品を並べると、続々と従業員らが集まって来た。
話を聞いた多くの人が語ったのは「お得に買えて、びっくり」という喜びの声。フードロスに貢献している感覚はあまりない人も多かった。
一方、閉店15分前に現れたとある男性。「僕、たくさん買います!」と6個入りのパンを3袋購入。
理由を聞くと「こんなすばらしい取り組みを終わらせたくないから!」と力強く語り、「僕はコンビニでバイトしたこともあって、そのときに見た大量の廃棄物にずっとモヤモヤを感じていたんです」と教えてくれた。
「職場のみんなに報告がてらこれらのパンを食べてもらいます!」と笑顔で帰っていった。
また、「いつもコンビニでしか買い物できないから、こんなおいしいパンが買えるのは本当にうれしい!」という人の声も聞かれた。
TABETEのCEO川越一磨さんによると、夜遅くまで働くエキナカ従業員の方たちは、勤務後に自分たちの買い物をしたくても時間がなく、店舗も開いていない状況。従業員のES(Employee Satisfaction:従業員満足度)にもつながる施策としてこの取り組みを捉えているという。
川越さんによると、「すでに他の駅からも問い合わせがきている」という。「この仕組みは百貨店やショッピングセンターなどにも横展開できます。どんどん加速させていきたいですね」と話している。
日本のフードロス問題
改めて、日本でのフードロスの現状をおさらいしておこう。
世界では9人に1人、約8億2100万人が飢えで苦しんでいるが、生産された食品の3分の1が捨てられている。
ちなみに、年間フードロスの643万トンは、2018年に国連WFPが世界中で飢餓に苦しむ人々に行った食料支援量である390万トンの約1.6倍に相当する。
また日本は食料自給率がカロリーベースで約38%、つまり62%は輸入に頼っている。わざわざ海外から輸入した食品を廃棄しているという現実を直視しなくてはならない。そして、それらの一定の廃棄物が想定された状態で、商品価格が決められているという事実も見逃せない。
デンマークでは、1人の女性の活動から、
5年で食品ロス25%削減を実現
最後に同じ課題を抱えた海外での成功例を紹介したい。
デンマークのセリーナ・ユールさんは、2008年からフードロス削減のための活動を消費者の立場で発信してメディアに注目され、国やスーパーを動かした人物だ。TED×にも何回か登場し、その思いを伝えている。
その後、デンマークでは、「TABETE」の川越さんも参考にしたという、フードシェアリングサービスの「Too Good To Go」や、賞味期限切れ食品専門のスーパーまで誕生し、フードロス解決の先進国となった。
消費者1人1人がフードロスの現状を理解し、行動することで企業や政府までが変わっていく好例だ。
「レスキューデリ」の取り組みは、日本でもその大きな波が訪れることを予感させるものだった。
(取材:岩見奈津代、編集:泉谷由梨子)