18歳未満の子どもがゲームをするのは平日60分、休日は90分までー。
ゲームのプレイ時間を制限する内容を盛った「香川県ネット・ゲーム依存症対策条例(仮称)」の素案が議論を呼んでいる。
香川県議会で示された素案では、世界保健機関(WHO)で「ゲーム障害」(=ゲーム依存)が正式に疾病として認定されたことに触れ、子どもたちを依存症から守るための対策であるとしているが、一律で制限することや、科学的根拠を疑問視する声も多い。
表現の自由を守る活動をしているNPO法人「うぐいすリボン」などは2月9日、この条例について考えるイベントを開催し、大阪大学非常勤講師で社会学・精神医学が専門の井出草平さんが講演。およそ70人が参加した。
ゲーム依存は、ゲームにのめり込み過ぎてしまい、学校や仕事などの社会生活に支障をきたす、自分で制御することができない、などの状態を指す。
条例案で時間制限の根拠になっているのは2019年の「香川県学習状況調査」。平日のスマホ使用時間が1時間を超えると、正答率が低くなるという傾向が出ている。井出さんは「これはスマホ利用と成績に関する調査。ゲームの話ではない上に、依存の話でもない。それを根拠にゲーム依存の対策を行うのは二重に間違っている」と指摘。
また、ゲーム依存の問題を抱えるのはゲームをプレイしている人の1割以下で、一律で時間規制を設けることで、9割以上のゲーム依存に関係のない人たちも巻き込むことになるとも述べた。
注目すべきは、ゲーム依存やネット依存には、他の原因が関連している可能性があることだという。
井出さんは、ゲーム依存はうつやADHD(多動性症候群)に関連があり、ネット依存は不登校やいじめ、成績不振、家庭の不和などの経験が関連しているというそれぞれの研究結果を紹介。「ゲームやネット依存の背景にはいろいろあるので、依存だけをターゲットにするのではなく全般的なケアが必要だ」と訴えた。
背景を見ずにゲーム依存の治療をすることで問題が起こったケースもあると指摘。不登校から引きこもりになった男性がゲームばかりしていたために両親が半年間病院に入院させた例では、直後は多少改善したものの、男性が祖父母の家に逃亡、再び引きこもってゲームばかりするようになった。
「このケースでは、問題の原因はゲームではなく、不登校や引きこもり。ゲームというわかりやすいものに飛びついた結果、ひきこもり事案をより困難にしてしまうこともある」と説明する。
ネット・ゲーム依存に関する治療法は確立されておらず、精神医学の分野で予防に成功した例もないとし、条例に対しては「ゲーム依存は口実で、ゲームやスマホ制限が目的ではないか。(時間制限することでゲーム依存を防げるという)科学的根拠やエビデンスはない」と断言。「条例で時間制限することで、『やった気』になることが一番問題。子どもたちをゲーム依存から守りたいのであれば、地道に効果のある方法を行う必要がある」と強調した。