「知の巨人」と呼ばれる佐藤優さんに、モヤモヤした気持ちや悩みをぶつけ、解決の糸口となるアドバイスをうかがいます。ある一つの事象を通じてものごとの底脈をのぞきます。佐藤さん独自のインテリジェンス視点で、考えるヒントを見つけたいと思います。
Q ノロケていると思われるかもしれないのですが、とても真剣に悩んでいることがあります。彼は自分のことをさしおいて、僕のことをまずケアしてくれようとします。僕は自分が心地よくないと人にも幸福を与えられないタイプ。彼の優しさに居心地の悪さを感じています。愛しているからこそ自分のことをまず大事にしてもらいたいと思うのですが。
その同年代のボーイフレンドとは都内の比較的静かなところに一緒に住んでいます。性別が男性同士の法的な結婚は今の日本ではできません。ずっと一緒にいたいと思っています。どのような展望をもって人生を歩むべきか教えてください。(都内の私立大学4年、20代男性)
●佐藤さんの答え●
まず最初の質問は、思いの非対称性ですが、思っていることをそのまま伝えればいいんじゃないですか。「居心地が悪いんですが、愛しています」と。
対人関係について、煮詰まりそうになった時に、何にでも通じる良い方法があります。私の経験では、それは「逃げる」ことです。
●関係維持のためには「逃げ」
人間はそれぞれ違うのですから。価値観も生活環境違うし、
必ずズレが生じます。完全な一致を求めないで
相手との距離をおいて、逃げましょう。これがきわめて重要です。
この方の場合は、彼は十分にやってくれているのに自分は十分にやっていないと思っていますが、相手はそこに幸せを感じてくれているのかもしれません。そんなに気をつかわないで、自分のことを大事にしてというと、逆に相手が驚き傷つく可能性があります。関係が煮詰まった時は、「逃げる」のです。
逃げるのは、喫茶店でもどこでも良いのです。一人になれる場所を持っておくことが大切です。居心地が悪いときは、自分の空間、部屋をつくることですよ。納戸でも階段の下の小さなスペース、なんでもいいのですよ。自分の空間をつくることです。居心地が悪くなったと感じた時にそこに逃げることです。
●相談ごとはネコに
人は悩む時に、第三者に相談したくなるかもしれません。しかし、プライベートについて信頼のおける人に対してでも、相談すべきではありません。
第三者は基本、「覗き見」ですから。
当事者間のことは当事者間で解決したほうがいい。信頼している人でもかなりの確率で漏れます。
信頼している人でも、人間はみな、覗き見心があると考えた方がよいです。
プライバシーというのは、囲い込んでいる世界の話です。それを人に見せたらのぞき見になるので、人は面白がります。
人は面白い話を聞いたら、プライバシーに関する話は他の人に伝えたくなる。人間は性悪な存在で、原罪をもっていますから。
本当につらい時は、ネコに相談するのをお勧めします。ネコは秘密をしゃべらないからです。
ネコやイヌ、神仏、亡くなった祖先... 思わず喋ってしまう性を抱える人ではない相手に「相談」することが大事な理由をお話しします。
●相談の極意
誰かに相談すると必ず漏れるということを肝に銘じた上で、聞いてください。人は、あと一押しが欲しくて、相談するのです。
人に相談したい時というのは、実は、自分の中で結論は決まっているんですよ。自分が導いた答えの後押しをして欲しいのです。違法なことや極度の反社会的なことを除いては、あなたの思う通りにやるといい。
話すというのは、混沌としていることを対象化することなんです。
対象化するのは、無意識のうちに決まっている。言語化した時点で自分の中で方向性はほぼきまっています。
言語は、膨大な情報のうちから、ある部分をノイズとして切り落とし、ある部分を残す作業でしょう。その時点で、もう編集が働いているわけで、方向性は決まっている。
●ネコに相談する効能
話すというのは、悩んでいる時に、混沌としていることを対象化できて良いことです。言語化した時点で自分の中で方向性はきまっています。人が他者に相談するのは、自分の中で決めたことの後押しをしてもらいたいからだけなのです。
ですから、対象化するために話す相手は、ネコでかまわない。
もしくは、神仏に対して話しかけるのです。
神仏やネコに相談することのメリットは、絶対に漏れないからです。
本当に大事なのは祈ることです。祈りをどの宗教も強調するのは、内在しているものを言語で対象化するという作業だからです。答えは自分の中に内在しているのですよ。人がとるべき道を探るのは、自分の中に内在しているものに気づくという作業です。
進路の話もそうです。自分の中に内在しているものに気づく人が成功する。自分の中にある才能を言語化して引き出すことに成功した場合自分にあった進路が自ずと見えてきます。
ではもう一つの質問ですが、この方は同性婚について漠然と不安を抱えているのでしょうか。
●「結婚」は必要ですか?そもそも結婚とは何か
好きな人と一緒にいるのが一番ですよ。
制度はあとからついてきます。
同性同士の結婚は時間の問題です。同性婚は時代の趨勢によっていずれ法的にできるようになります。
ただ、歴史を振り返ってみると、そもそも、結婚は国家と関係ないはずなのです。
人と人とが結婚する、それが、結婚か結婚じゃないかと認めるのは神様、宗教です。
日本においては、昔は披露宴や祝言をしたかどうかが結婚をしたかどうかと同義でした。いろんな人たちを呼んで一緒に食事をして「この人がパートナーです」とお披露目をすることが、社会的な結婚でした。国に認められることが結婚ではないのです。
結婚という制度は何なのでしょう。文化人類の学者の課題ですが、基本は、人間社会を維持するためのシステムだと言われています。
異性婚しか認めないというのは、子供の生産と絡んでいますが、
同性婚でも、養子制度もあります。
結婚という制度は社会の問題であり、国家の問題で、ひいては、
住民登録や戸籍は、国家の問題です。
旧ソ連では「市民結婚」がありました。市民として、自分たちが結婚すると宣言することに価値がありました。国家や教会から離れて社会的な結婚があったわけです。
現代の日本社会では、法的結婚をしていないが故に不便な面が、
病院や不動産取引などにおいてあります。
こうした現実問題として起きる障害については、弁護士をたてるといい。
法律専門家をたてたほうが話の進み方は全く違い、よっぽど問題解決は早いですね。
マクロの話でいうと、法制度の変更ですが、制度が変わる時間軸と、人生の時間軸が違います。焦っても仕方ありません。
世の中のすべてのことは、自分が思う通りに社会は動きません。変える努力はしないといけないけれど、ほとんどの人は、専従の活動家ではないから見守ることが必要です。何事も自分が望むようなかたちで社会が動くことはないので、そこは待ちましょう。
(編集・構成 ハフポスト日本版 井上未雪)