イギリスが1月31日、欧州連合(EU)から離脱した。加盟国が離脱するのは初めて。
そもそも、なぜ離脱するのか。日本への影響はどうなのか。今さら聞けないブレグジットのポイントを、イギリス在住のジャーナリスト・小林恭子さんの言葉から紹介する。
①なぜ離脱?
「EU加盟国は、国内法よりもEUの法律が上位に来ます。それが取っ払われるのでEUの法律や規則に縛られなくなります。イギリス国民の感情からすると、自分たちが選んだ国会議員ではない人が自分たちの将来のいろいろなことを決めていくことに、納得できない気持ちがあります。
誰とビジネスをして、どんな人や物を入れるのか。通商交渉や移民制限、司法まで、自分たちで自分たちの国の将来を決められるようになることが、最大の利点です」
②問題点は?
「大きな問題は、イギリス国籍を持たないEU市民がイギリスに継続して生活するには“settled status”という新たな資格が必要となることです。
EU市民とって、自分たちに投票権のない国民投票でいきなり決まったことへの不満を感じています。
今ままではひと・ものの往来が自由だった。イギリス市民と同様に社会福祉や医療保険制度などのサービスを享受してきました。全員がEUの中の家族として生きてきたのに、それが急になくなるため混乱が広がっています。
イギリス人と結婚した人で、相手家族のメンバーが離脱に投票した人もいるようです。離脱派が多い所に住んでいるEU市民は、嫌がらせを受けて引越しせざるを得ない人もいたようです」
③日本への影響は?
「イギリスに日本企業が1000社ほどあるそう。前提としていたEUの玄関口という機能が崩れることが、マイナス影響となります。
ホンダも、イギリスでの完成車生産を2021年中にやめると言っています。何十年も生産拠点を持ったのに、まさか日本の企業がいなくなると誰も思わなかったのでものすごい打撃です。
パナソニックもヨーロッパの統括拠点をイギリスからオランダに移しました。関税の追加コストや通関手続きが発生するかもしれないので、先を見る日本企業は生産拠点を移動し始めています。
日本企業の撤退によって、イギリス国内では雇用への影響はすでに出ています。これからどうなるのかという不安感も広がっています」
④なぜこんなにもめた?
「そもそも前提として、下院議会は残留支持派が圧倒的に多い。ただ4年前の国民投票で、自分は残留派でも、選挙区の有権者は離脱を支持した場合もありました。残留派議員たちは、民主主義で決まったので反対してはいけないという気持ちをずっと抑えて来ました。
そこで、表立って残留支持や再度の国民投票を求めない代わりに、いろいろな理由をつけて、テリーザ・メイ前首相やボリス・ジョンソン首相の出す案に反対してきました。
イギリス政府が気にしているのは、国民のことよりも、与党保守党と下院の国内事情です。
2016年の国民投票は、保守党内のEU離脱を支持する議員を黙らせるためにやったと言われています。結果離脱側の投票が上回り交渉が始まった。離脱派をいかに納得させるかが当初からの第一の理由だったのです。
かつ、離脱のマイナス影響を懸念する中道派を満足させようとしました。関税同盟や一部単一市場に入っている案を考えましたが、現状とあまり変わらないのではと離脱強硬派が反対して否決されました。
国民のためということは、ほとんど考えていないのが実情です」
(2019年11月の取材を基に、再編集しました)
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今後は、2020年末まで11カ月の移行期間に突入し、EUとの具体的な通商交渉が始まる。移行期間は最大2年まで延長が可能だが、ボリス ジョンソン政府は延長しない意向を表明している。
移行期間中は、イギリスはEU法を遵守するため、状況が大きく変わることはない見通しです。