「いいからやれ」「人脈なんて言葉を使ってるヤツはクソ」「ぜんぶ自分次第」…。いずれも、広告会社「GO」の代表、三浦崇宏さんの言葉だ。
大人気マンガ『キングダム』を「今、一番売れているビジネス書」と売り出し、渋谷で生理ナプキンを配布するモード誌『SPUR』のキャンペーンを仕掛けた三浦さん。
1月22日には、書籍『言語化力』を出版した。言葉の力で数々の企業のPRやブランディングを成功に導いてきた三浦さんが、今度は「言葉で人生をどう変えるか」についてまとめたのだという。
言葉のパワーを強調し、その巧みな使い方を伝える三浦さん。
でも…ちょっと厳しすぎませんか?
――言葉が力を持ってるのはわかってはいるんですが、三浦さんみたいな強い言葉ってむしろ分断を生んだり際立たせる側面もあります。言葉のもつ暴力性や排他性をどう考えているんですか。
もっともな指摘ですね。
SNSがあっていつでも誰でも発信できる時代、言葉は人を殺すピストルです。
僕は自分の持っているピストルがけっこう飛距離があって、”殺傷能力”が高いことも自覚しているつもりです。ツイートする前に内容を書き換えたこともありますし、「誰かを傷つけそうだ」と下書きを消したこともあります。そういう逡巡はいつもしていますね。
――やっぱりSNSがいけないんですかね。
SNSが問題ではない。SNSによって弾の飛距離や威力が増幅され、気づかないところで誰かが撃たれて死んでる、みたいなことが起きうる状況の中で、あなたはそのピストルをどう使いますか、ということなんです。
言葉の持つ「破壊力」は、人生の行き詰まりを打破するパワーにもなるし、誰かをうち砕く凶器にもなる。
まずは、全ての人が、自分の言葉が人を”殺す”ピストルであるということを自覚し、その破壊力に敏感になるべきだとは思います。
――ピストルがこの手にある、と思うとやっぱり怖いです。もしも誰かを傷つけたら、どうしたらいいんでしょうか。
謝りましょう。
僕は、人は間違うし、だからこそ価値観を変化させていくこともできると思う。
2019年、名古屋PARCOさんの恋愛をテーマにした広告キャンペーンを弊社で担当した時に「押してダメなら押し倒せ」というコピーが、SNS上でよくないものとして指摘されました。
今振り返れば、このコピーは意図はどうであれ絶対ダメだと思います。
それこそ言葉のプロとして反省しましたし、「根本的にわかってないんだな、俺」とすごく落ち込みました。
間違えてしまったら、反省して、自分の価値観を更新していくしかないですよね。僕たちの仕事は作ること、生み出すこと、そして変えていくことなので。
発言や行動って、撤回はできないです。でも、謝罪や付け足しはできる。補足もできるし、失敗から学ぶこともできる。そうやって前に進むしかない。
――三浦さんは普段、広告クリエイターとして色々な企業のブランディングを支援しています。言葉が”ピストル”になった時代、企業のコミュニケーションはさらに難しくなっていると感じますか。
以前より難しい、と一概には言えないですが、企業が何かを言い切ることで生じるハレーション(摩擦)を、ケアしたりフォローすることの重要性は増しています。
僕は普段からどんなクライアントにも、アウトプットするときは「何か一つタブーを破らなくてはいけない」と進言します。これは、メッセージが遠くに適切に届くためのある種のテクニック。
昔はそれだけで良かったんです。でも今は同時に、言葉の”ピストル”が傷つけるかもしれない人たちに対して、どう説明責任を果たすのかをセットで考え、戦略を立てなければ、良い広告にはなりません。
例えば、クラウドファンディングサービス「CAMPFIRE」のキャンペーンで「夢を諦めてはいけない」というコピーを書いたことがあります。これもある種のピストルです。企業に「諦めるな」なんて言われたくない人もいる。不快に感じる人だっている。そういう人に、この企画を世に出す真意、あるいはその過程で生まれた迷いを丁寧に伝えるために、客観的な立場のメディアに取材をしてもらう機会を作る。単にコピーを作って山手線ジャックして終わり、ではないのです。
昔は「面白くて、商品が売れればそれでいい」というスタンスの広告もたくさんありましたが、今は、「広告は面白いもので商品が売れて、かつ、社会に対して最大限配慮が行き届いたものでなくてはいけない」というふうに変わってきたと感じます。
――広告業界も変化してるんですね。
ここ3、4年だと思います。
2017~18年ごろは「こんなに窮屈な世の中だったら、もう表現なんてできないよ」という広告クリエイターもいました。
恥ずかしながら僕自身も、3年ほど前に、ちょっと下品で野蛮なニュアンスを狙った広告のコピーを提案をして、クライアントに却下されたことをかなり根に持っていました。
でも今の僕があのコピーを提案するかといったら、やっぱりしないかな。
言葉の強さと正しさ、その両立を狙うべきだと自然に考えるように変わってきましたね。
ーーなるほど。価値観を常に変化させ続けるためにも言語化力が必要ってことなんですね。
まさにそうです。かつては良かったことが、今はダメだってことが現にたくさんあるのだから、自分も一緒に変化していかなきゃ。テクノロジーと同じように、人間のモラルや感性も進歩する。
とにかく僕は、減点法じゃなくて加点法で世界を見たいと思うんですよね。自分や世界が日々変化していくことに寛容でありたいし、変化できるというのは、人類の最大の希望だと思うから。
……でも、こういう考え方って、「三浦さんは勝ち組だからそういうことが言えるんですよね」って思われちゃうのかな。
ーー結構ウジウジしているんですね。ところで言語化力ってどうすれば鍛えることができるんですか。
誰しも日々、思考を言葉にしたり、言葉を使って他人と意思疎通していますよね。その1回1回が実はチャンスです。
特に、仕事や恋愛などのリアルな場面で真剣勝負を重ねることは大事。
「この一言が伝われば来年は年収が5倍になる」、「イケてる表現が見つかれば10億円の利益が上がる」、「思いをうまく伝えれれば目の前の人と恋人になれる」といった具合に、ヒリヒリしたシーンで、ものすごい量の思考を重ねて言葉を生み出す経験を詰めば、「言語化力」はきっと磨かれると思います。
――とにかく「ものすごくいっぱい考える」ということでしょうか。
思考の量と言語化のスキルはある程度比例すると思います。
ただ、闇雲に考えるだけでは時間の無駄で、言語化にはテクニックもある。まずは小手先でもテクニックを使いながら、思考と言語化のクセをつけていくのがいいと思います
――テクニックというのは例えばどんなものですか。
映画の感想を聞かれて、つい「よかった」で済ませてしまう時ありませんか?これってほぼ何も言っていないのと同じです。相手の記憶にも記録にも残りません。
そういう時、僕はまず自分が映画を見て感じた「よかった」という直感について、もう一段階、具体的に噛み砕いてみます。
俳優の表情がよかったのか、ストーリーがよかったのか、そもそも物語の設定がよかったのか。思いつく言葉をすべて洗い出し、自分なりに「ランキング」化します。そして「よかったランキング1位」になったことについて、さらに具体的に「なぜそのポイントがよかったのか」「これまでの似た映画とどこが違うのか」「そのよさをどう伝えようか」と考えていくんです。
これを僕は「思考の因数分解」と呼んでいます。
――言葉遣いの巧みさって、センスの問題だと思いがちですが、ちゃんとテクニックがあるんですね。
あります。しっかり考え抜いて渾身の言葉を生み出すことも大事ですが、適宜、自分なりの「発言のフォーマット」を決めておくのも一つのテクニックです。
例えば僕の場合には、どんなことを説明するときもまずはじめに「3つあって…」と言ってしまうんです。あってもなくても「3つあって」から始めると決めとけば、いつのまにか3つ言えるようになるんですよ。
3つ目が思いつかないという窮地に陥った時の対処法については、ぜひ本を読んでください(笑)。
――三浦さんが培ってきたノウハウを、こうして本にまとめようと思ったのはなぜですか。秘密にしておいた方が得なのでは?
36年間生きてきて、プロのクリエイターとしてそれなりの結果も残させていただきました。ここらへんで一度、培ってきたノウハウや技術を体系的にまとめたいな、と。
大げさかもしれませんが、この本を通じて日本人の生産性と幸福感を高めたいと思っているんです。
「言語化力」は、仕事におけるブレークスルーをもたらしたり、もっと金持ちになるための近道になるかもしれない。でもより本質的には、個人が世界をより豊かにとらえるための方法だと思ってるんです。
例えば「ダイバーシティ」という言葉がなかったら?
気づかなかった課題や見えなかった景色ってたくさんありますよね。ジェンダー、LGBTQ……などの言葉も同様です。言葉があることで、今まで知らなかった価値観に触れたり、思考の補助線を引いたりできる。
一人一人の言語化力が高まれば自然と、社会に新しい価値観がもたらされるスピードをあげることができるし、僕はそういう社会を生きたいんですよね。
(聞き手・編集:南 麻理江 @scmariesc)