こども宅食を行っている文京区は、20人に1人が外国人。こども宅食の利用者にも、外国人の家庭は少なくありません。
周囲に外国⼈だと気付かれないことで⽀援の⼿が差し伸べられない家庭、⾔葉の壁によって「つらいが⾔えない」家庭に、積極的なアウトリーチが求められているのではないか――こども宅食はこのように考えています。
今回は、こども宅食を運営する駒崎弘樹と「ニッポン複雑紀行」編集長・望⽉優⼤さんが、貧困に陥る外国人家庭の課題について議論。外国人家庭の現状と、そのような家庭に⽀援を届ける方法について語りました。
( 取材、文:小晴 )
1千人が不就学、2万人が就学状況不明 外国人の子どもの現状とは
駒崎弘樹(以下、駒崎):日本には300万人の外国人がいます。300万人というとかなりの数ですが、なんとなく「いないこと」にされており、そのうち多くの人がさまざまな公的支援から漏れて貧困に陥っている。
望⽉優⼤さん(以下、望月):問題の根底には、「日本でずっと暮らす人を受け入れたいわけではないが、技能実習生、留学生のアルバイトなど、数年間働いてもらう安い労働力がほしい」という政府や企業の考えと、日本で長く暮らし、家族を作って定住していく人がたくさんいるという現実との間の大きな乖離があるように思います。
これまでの「移民政策」では、「人を受け入れよう」という姿勢が小さすぎ、「都合のいい労働力、材料を受け入れよう」という部分が強すぎる。だからこそ、生活者として定住する人へのサポート、制度の整備が追い付いていないのではと思います。
駒崎:近年は定住する人や、日本生まれだが国籍は違うという人もどんどん増えていますよね。現在、そういった方のサポートはどこが担っているんでしょうか?
望月:基本的には、それぞれの地域やエスニックコミュニティ任せになっています。ただし、そうしたコミュニティによって全員が包摂されているわけではもちろんなく、孤立を深めている人たちもいます。
駒崎:なるほど。こども宅食の利用者に中国人のひとり親の方がいたのですが、彼女の場合も、近所のセーフティネットでなんとか生活が成り立っている状況でした。子どもを預けたくても、ショートステイという制度があることを知らない。日本の公共サービスの利用を薦めても嫌がられる。
望月:外国人というだけで通常の仕組みから排除されている場合もあれば、使える仕組みが合っても知らない、わからない、行くのが怖いという場合もあります。外国人が増え続けるなか、この現状は変えていかなければいけません。
駒崎:我々が運営する保育園では、12人定員中7人が外国籍の子どもだったことがあります。その子たちの親は英語も日本語も通じず書類が出せないので、いろんな制度から漏れてしまっていました。
しかし、世間ではこの事実についてほとんど知られていない。有識者会議でも、外国人の子どものことは話題にも上らないんです。
望月:そもそも外国籍の子どもは、義務教育の対象にすらなっていないんですよね。義務教育期間に相当する年齢の子どもは12万人いますが、そのうち1千人が不就学だという調査結果が文科省から出たばかりです。
さらに、同じ調査によれば、2万人近くの子どもたちが就学しているかどうかすらわからない、そのわからないということが国として初めてわかった、ということでした。まだそういうレベルなのです。自治体ごとの取り組みの度合いにもかなりの差があります。
駒崎:そう考えると、保育園卒園後はますます社会からはみ出るリスクが高そうですね。ヨーロッパなど海外の事例でも、移民の二世が社会的な排除を受けた結果、非行に走ったり貧困が再生産されるというケースも聞きます。
支援の手を差し伸べなかったことで、社会が報いを受ける。誰にとっても得がない状況なのに、なぜか放置されてしまう。
外国人家庭にソーシャルワークの介入が不可欠な理由
駒崎:日本では子どもが生まれたときに「こんにちは赤ちゃん事業」というソーシャルワークがありますが、次にソーシャルワークが入るのは小学校に入学してからです。
小学校にはスクールソーシャルワーカーがいますが、就学前の保育園・幼稚園には設置されていません。つまり、6年間の空白期間があるということになります。
望月:6年間は長いですね。
駒崎:この空白期間は日本人の家庭でも社会から孤立しやすくなりますが、日本語が苦手で地域とのつながりがなく、貧困などの問題を抱えがちな外国人家庭は、なおさら孤立のリスクが高まります。世間は不就学や虐待などの深刻な事態が起こって初めて気が付きますが、それでは遅いんです。
望月:確かに、外国人のいる家庭は他の家庭よりもそうしたリスクがさらに高いかもしれません。適切なソーシャルワークによって、使える制度や場所の情報を伝えること、横のつながりづくりを支援することも大切だと思います。
駒崎:例えば言葉が通じない家庭も、通訳ボランティアを介入させれば地域コミュニティに入れるかもしれません。しかし、実際には子どもが小さいうちからすでに地域コミュニティから弾かれているので、成長後も属することができない。
最初からボタンの掛け違いが起こっているんです。もっと早いうちから関われるよう、制度を整えるべきではないでしょうか。
望月:日本語が不自由なことで、さまざまな資源へのアクセスが悪いという根本的な問題があります。日本語はこの国では普遍的なインフラなので、外国人に対する学習機会の公的な保障について検討すべきだと思います。
駒崎:そうですね。ちなみに、フローレンスの保育園では日本語が不自由な親のためにポケトーク(音声翻訳機)を導入したり、保育園だよりを日本語と英語で書いたりとさまざまな工夫をしています。
ただ、そもそも外国人であっても既存の資源を使えるよう、不合理な制度そのものを変えていく必要があると思います。
「日本で生まれ育った人=日本人」になれば状況は大きく変わる
駒崎:現在は外国人の人権が大きく制限されている。たとえ日本で生まれ育った人でも、日本国籍が付与されていなければ、就学の義務や出国の自由、選挙権などの「当たり前の人権」を持っていない。いわば「フルスペックの人権」が保障されていない状況だと思います。
過酷な労働、つらい経験、制限された権利……このままでは、日本にいる外国人は日本を嫌いになってしまいます。そんな人を増やさないためには、どうすべきでしょう?
望月:この課題の根っこには、国籍制度の問題があると考えています。現在の国籍法は血統主義で、たとえ日本生まれで日本育ちであったとしても、両親ともに外国籍で日本国籍を持たない場合にはその子どもも外国籍になります。それによってさまざまな権利が制約されてしまうわけです。
血統主義的な国籍制度を出生地主義的なそれへと切り替えることで、海外にルーツを持ち、同時に日本で生まれ育った人たちを包摂することが可能になります。
また、日本国籍による包摂が他のルーツ、もう一つの国籍の放棄を迫ることにならないために、複数国籍を認めていくことも重要です。これだけ人の動きが活発になっている今、世界的には複数国籍を肯定する流れがトレンドになっています。
外国人や海外にルーツを持つ人々が、この社会で当たり前に暮らしていくには、国籍法など阻害要因になっている制度を適切な形に作り直していくことが必要です。「日本人」を「日本人の血を受け継ぐ人」から「ルーツに関係なく日本で生まれ育った人」、「日本で実際に長く暮らしている人」という、より実態に近い形へと捉え直していくべきではないでしょうか。
駒崎:確かにそうですよね。「日本人=血でつながる国民」ではなく、「ここで生まれ育つ人はみんな日本人」というふうになれば、彼らの人権を守ることができるはずです。
日本人はこのままだと確実に減っていくので、人口を維持したいなら増やしていくしかない。そんな中で、日本で生まれて日本で育つ子を日本人にしないのは不合理そのものです。
望月:1985年施行の国籍法改正によって、血統主義が父系のみから父母両系へと変わりました。そのとき一定期間内に生まれた人には、さかのぼって日本国籍を取得できる権利が与えられましたが、出生地主義への転換に際しても同じことは可能だと思います。そうすれば、現在は「外国人」とカウントされている人の中から投票する人や、選挙に出馬できる人が多く出てくることになる。政治家も、現実的な観点から無視できなくなってきます。
駒崎:2019年は「ワンチーム」という言葉が流行しましたが、「みんなで力を合わせよう」と言いながら、実際には外国人への人権侵害が放置されている。本当にワンチームを目指すなら、外国人が参加し、ちゃんと働けて差別されないような国にしていくべきですね。
「つらい」が言えない親子の声を聞く――今、私たちにできること
駒崎:次世代が本当のワンチームになるためには、声をあげていかなければなりません。しかし、今はまだ、ムーブメントがあまり広がっていないように思います。
望月:80年代以降に入ってきた「ニューカマー」と呼ばれる外国人ですら、すでに第二世代が私と同年代で社会に出てきています。一般論ですが、移民の第一世代は「必死で働いてとにかく生きる」という側面が強くなります。ただ、第二世代以降は言語の壁も少なくなり、課題を冷静に認識して社会運動の主体となっていく力を持っていると思います。
そして忘れてはならないのが、日本の植民地支配に由来する「オールドカマー」の人々の分厚い運動の歴史です。出自はそれぞれ違っても、共通する課題はあるはずです。さらに、受け入れる社会の側の変わろうとする動きがそこに重なることで、2030年、2040年には今とは全然違う景色が見えていてもおかしくないと思います。
駒崎:現在サポートから漏れがちな外国人の子どもたちが、いつかムーブメントの担い手になるかもしれませんね。そうしたムーブメントをサポートするには、まずは声をあげること、そして彼らの声を世間に届けることが大切です。声が届かなければ、世間は気付いてくれないので。
望月:はい。また、子どもの貧困は親の貧困です。第一世代である親の労働者としての受け入れ方の問題が根本なので、ここを変えていかなければならない。技能実習制度など、低賃金の労働者受け入れに関わる問題が、家族や子どもの福祉の問題となって現れています。
駒崎:フローレンスにできるのは子どもの分野で支援していくことですが、その要のひとつがこども宅食だと考えています。外国人の子どもが未就学児の段階から、こども宅食で外国人の家庭をサポートしたり、公的な支援につなぐきっかけをつくったりすることで、状況は変えられるはずです。
望月:そうした取り組みについて世間に知ってもらい、支援者を増やしていくことも大切ですね。
駒崎:はい。今後もともに頑張っていきましょう。本日はありがとうございました。
困難の中にいながらも、言葉の壁や社会的な孤立から周囲に「つらい」が言えず、支援からこぼれ落ちてしまっている外国人。
彼らとその子どもたちがこの日本で当たり前に生活し、活躍できるようになるには、こども宅食のような積極的なアウトリーチを通して彼らの「つらい」をくみ取り、適切な支援につなぐことが不可欠ではないでしょうか。
望月優大さん
1985年生まれ。日本の移民文化・移民事情を伝えるウェブマガジン「ニッポン複雑紀行」編集長。著書に『ふたつの日本「移民国家」の建前と現実』(講談社現代新書)。代表を務める株式会社コモンセンスでは非営利団体等への支援にも携わっている。
この記事は、2019年1月17日駒崎 弘樹ブログ「⾒えない「つらい」にどうアウトリーチする? ⽂京区の20⼈に1⼈いる外国⼈たち」より転載しました