【新型コロナウイルス】中国で発生している新型肺炎 9つの質問に答えます

中国・武漢市において発生した新型コロナウイルスによる肺炎。現時点でわかっていることを、Q&A形式でわかりやすく解説します。
新型コロナウイルスが原因とみられる肺炎が発生している中国・武漢から成田空港に到着した人たち=1月16日、千葉県成田市
新型コロナウイルスが原因とみられる肺炎が発生している中国・武漢から成田空港に到着した人たち=1月16日、千葉県成田市
時事通信社

最新の記事(「【新型コロナウイルス】感染症専門医師が教える、新型肺炎について今知っておくべきこと」)はこちらを参照ください。

 中国の武漢市において、新型のコロナウイルスによる肺炎患者が相次いで報告されています。中国国内の45例のほか、日本において1例、タイでは2例が確認されるなど、国境を越えた拡がりもみせており、国際的な関心が高まっています。

毎日のように新たな情報が入ってきていますが、現時点で分かっていることを整理しつつ、一般の方々に知っておいていただきたいことを問答形式で解説いたします。

問1 武漢市で発生している新型コロナウイルスによる肺炎とは、どのような病気なのですか?

詳細はまだ伝わってきていません。主たる症状は発熱であり、呼吸困難を訴える患者もいるようです。胸部レントゲンでは肺炎所見があるようですが、現時点では「肺炎を認める患者について新型コロナウイルス感染を疑っている」状況なので、肺炎のない新型コロナウイルスの感染者がどれくらいいるのか、まだ分かってないのだと思います。

問2 新型コロナウイルスに感染した場合には、死亡することもあるのでしょうか?

武漢市当局によると、これまでに45人の患者が確認されているものの、12人がすでに病状が回復して退院したということです。一方で、7人が重症となっており、このうち61歳と69歳の男性2人が死亡しているとのことです。つまり、感染すれば死亡するリスクがあります。

61歳の男性は肝臓病と悪性疾患の持病があった方で、69歳の男性は高齢で心筋炎と多臓器不全で亡くなりました。すなわち、48例中2名が亡くなっているということで、単純に致命率は4.2%と計算されますが、軽症の方で受診していない方も多いはずで、母数(感染者数)が分かっていないことを踏まえるべきです。いずれにせよ、同じコロナウイルスによる重症急性呼吸器症候群(SARS;致命率9.6%)や中東呼吸器症候群(MERS;同 34.4%)のような病原性はないものと考えられます。

ただし、こうした新興のウイルスは、変異を繰り返しながらヒトへの適応を模索しています。つまり、今後、高い感染力や病原性を身につけて爆発的に広がる可能性は残されており、国際的な連携のもと注意深く監視していくことが必要です。

問3 新型コロナウイルスに対する治療薬やワクチンはあるのですか?

コロナウイルスに対する特効薬はありません。いわゆる対症療法といって、解熱剤などで症状を緩和し、必要に応じて呼吸や循環を支える治療を行いながら、自らの免疫による回復を待つことになります。また、今後、ワクチンが開発される可能性はありますが、流行が確認されたばかりの現時点ではありません。

問4 新型コロナウイルスへは、どのようにして感染するのですか? 

これまで確定している患者さんについて、その接触者である千人近くを各国で徹底して追跡していますが、感染が確認されたのは濃厚な接触があった家族に限られています。つまり、同居して看病するなど濃厚な接触があった方々です。

このことから空気感染するほどの感染力はなく、極めて限定的な飛沫感染と接触感染によるものと推測されます。ですから、石鹸と流水による手洗いもしくはアルコールによる手指消毒が有効で、症状のある人がマスクを着用することも大切な心がけでしょう。もちろん、医療従事者が患者を診療する場合には、より専門的な感染防護具を使用します。

また、もし中国を訪れる方がいるのであれば、感染源が明らかになるまでは、できるだけ食肉を扱う生鮮市場には近づかないようにしてください。また、あえて狩猟肉(ジビエ肉)を口にすることがないよう注意してください。

問5 神奈川県内の医療機関において、武漢市に滞在歴がある男性患者から新型コロナウイルスが検出されたとのことです。この男性から国内で感染拡大する可能性はあるのでしょうか?

武漢に滞在していた男性が、滞在中の1月3日から発症し、6日に帰国して、10日から肺炎の診断で入院していました。この方の検体において新型コロナウイルス陽性の結果が出たため、日本で最初の感染事例として報告されています。

ただ、この方は元気になられていて、15日に退院されています。いま、管轄の保健所が積極的疫学調査と言いまして、この男性と接触のあった人をリストアップするとともに、発症しないかを見守っているところだと思います。

どれくらい見守る必要があるかについては、同じコロナウイルスによるSARSやMERSの潜伏期が、最長でも2週間とされていますから、それぐらいのあいだは感染が起きていないか、結果を待つ必要があるだろうと思います。

ただし、あくまで接触のあった人たちに限ります。一般の方々は、かりに神奈川県内に住んでいたとしても心配する必要はありません。

問6 新型コロナウイルスへの感染を防ぐため、一般に暮らしている人は、どのような対策をとればよいのでしょうか?

患者を診療する可能性のある医療従事者でない限り、現時点で特別な対策をとる必要はありません。あえて挙げるとすれば、咳エチケットや手洗いなど日頃の感染対策をしっかりすることでしょう。

実のところ、今回の新型コロナウイルスよりも、私たちにとってはインフルエンザの方がリアルな問題です。発熱や咳などの症状がある人は、仕事は休み、周囲にうつさないように注意してください。

こうした心がけが、ひいては新しい感染症に対する防御を高めていくものなのです。

問7 当初、武漢市内の海鮮市場において感染していると報道されていましたが、行ったことのない人からも感染者が出ているようです。すでにヒトからヒトへの感染が拡大しているのではないでしょうか?

報道によると、武漢市において疫学調査を行ったチームからの報告では、感染が確認されている41人(当時)のうち13人は、感染源とされていた市内の海鮮市場に行っていないとのことでした。

このことは2つの可能性を示唆します。ひとつは、ヒトからヒトへの感染が効率的に始まっているということ。もうひとつは、市内の海鮮市場だけが感染源ではないということです。

ただし、前述のように患者との接触者の追跡調査において、濃厚な接触がなければ感染が起きていないという事実があります。このことを踏まえれば、後者、すなわち感染源が複数あると考えるのが妥当だと思います。

コロナウイルスは、ヒト以外の動物にも感染するため、何かの野生動物が感染源だろうと推測されます。ただし、残念ながら現時点では同定できていません。このことは不安材料であり、私たちの知らないところから感染者が今後も出てくる可能性があるということです。

ただし、不安のあまりに感染力を過大に見積もったり、ヒト、モノ、コトを根拠なく感染源と決めつけないことが、感染症と冷静に戦ううえでは重要です。とくにSNSの普及によりデマが流されやすい状況にあるので、ご注意いただければと思います。

風評被害を引き起こさないためにも、感染力や感染源について科学的な調査の結果を待ちましょう。

今後、感染が広がる可能性はゼロではありませんが、ヒトからヒトへの感染は限定的であり、印象から言って、過去に世界的に広がったウイルスと比べると勢いがないです。少なくとも、いまの時点で過剰に心配することはありません。

問8 中国では、1月24日から春節の連休が始まります。日本を訪れる方も多いかと思いますが、それによって、感染が拡大する可能性はあるのでしょうか?

世界との交流を重ねている以上は、いつでも私たちは新しい感染症のリスクにさらされています。ただ、今回のことで、一般の方々が新たな警戒をすることはありません。

繰り返し述べてきたように、判明している感染者の接触者を追跡しても、同居するなど濃厚な接触があった人からしか感染が確認されていません。つまり、仮に、新型コロナウイルスの感染者が日本へ旅行に来たとしても、レストランや電車のなかで感染してしまう可能性は高くはないということです。

もちろん、可能性は「ゼロ」かと言われれば、それは否定できません。ただ、感染症とはそういうものなんです。もし、「ゼロ」を求めるなら、家から一歩も出ないか、あるいは鎖国するしかありません。

リスクを減らすために、現実的な対応をとっていくことは必要です。たとえば、中国人を雇用している事業者については、従業員が春節で里帰りをしたり、あるいは逆に親族の訪問を受けたりしているかもしれません。ここでもし、武漢市との接点があるようなら、それから2週間程度は健康管理をしっかりと行ってください。

そして、発熱や咳嗽などの症状を認めるときには、あらかじめ医療機関に問い合わせたうえで、指定された方法で受診させるようにしましょう。よく分からないときは、保健所に問い合わせることもできます。

問9 検疫を徹底すれば、国内への侵入を防げるのではないですか?

検疫とは、国内への侵入を防ぐうえでの最初の防壁です。武漢市を訪れた方で、帰国時点で症状があるときは、必ず検疫に申し出ていただきたいと思います。

ただし、新型コロナウイルスの潜伏期間について現時点では不明ですが、SARSやMERSの経験から、おそらく2週間程度はあるものと考えられます。いずれにせよ、感染していても発症していない期間があるので、サーモグラフィなどを活用したとしても、症状を確認しているだけの検疫ゲートでは感染者の侵入を防ぐことはできないでしょう。

よって、国内で発症した患者をいかに早期に発見し、医療に繋げられるかが、国内での感染拡大を防止するうえでは重要となります。とくに、武漢市から日本へと帰国もしくは渡航した方で、2週間以内に発熱や咳嗽などの症状を認めるときは、あらかじめ医療機関に問い合わせたうえで、指定された方法で受診するようにしてください。よく分からないときは、保健所に問い合わせることもできます。

私たち病院の医師としては、中国に限らず海外から帰国した方の感染症をきちんと診断し、必要に応じて入院いただいたり、外出を自粛するように求めたりしています。今年のオリンピックをはじめとして、国際的な交流が活発になっていきますし、丁寧に感染症の診療を行っていきたいと思います。

注目記事