「知の巨人」と呼ばれる佐藤優さんに、モヤモヤした気持ちや悩みをぶつけ、解決の糸口となるアドバイスをうかがいます。ある一つの事象を通じてものごとの底脈をのぞきます。佐藤さん独自のインテリジェンス視点で、考えるヒントを見つけたいと思います。
Q 人間はそもそも時代に翻弄されて生きていかねばならないのでしょうか。
ロストジェネレーション世代は、就職が困難で正規社員になることが難しかった人が多く就職氷河期世代とも呼ばれます。50歳代の人はバブルを経験して、「派手」好きな人が多く、飲み会では豪華な感じを好む印象があります。また一方で、デジタルネイティブのジェネレーションZ世代(〜22歳)やY世代(23〜38歳)も生まれていると言われています。ジェネレーションが共有する感覚について、今はとくに自覚はないのですが、世代ごとに悩みは異なってくるものでしょうか。あるとすれば、どのように世代の悩みに向き合っていけばいいのでしょうか。(30歳男性 会社員)
◆佐藤さんの答え◆
今は「アトム(原子)化」が進んでいます。一人一人がバラバラになってしまっています。ロスジェネ世代で言うと、正社員で働いている人は、自分がロスジェネ世代という意識が希薄です。非正規で働いている人は、ロスジェネ世代ではなくてもそれに近い意識を持っています。
大雑把な世代のくくりはできても、有効性がなくなってきています。
世代論というのは、その世代が固まって何らかの行動ができる場合に、世代論の有効性があります。
日本で言うと、団塊の世代は固まっており、全共闘世代、ひいては企業戦士になり、なんらかのアクションにつながっていました。ロスジェネ世代は、何か行動することがあるとしても、一人一人それぞれバラバラになっているので、世代論が成り立たないのです。
その上で、20、30代の人がどう考えるべきか、と言うと、グローバルに生きるのか、日本国内、もっと言えばローカルの中で生きるのか、どちらかをはっきりと選択するべきです。それにより悩みや考え方も違ってくると思います。
競争の中で生きていくならば、拠点はシンガポールやアメリカなど外国においた方がいいかもしれません。日本は、能力が突出している人の足を引っ張る世界ですから。
日本は、土着的なコミュニティ、アソシエーションで結びついています。
同質化の傾向が強い世界です。足を引っ張り合い、ヤキモチが強い文化ですが、別の言葉で言うと、ある水準より落ちるということを嫌がる社会なのです。逆にいうと、これはインバウンドにとってはいいことなのです。どのレストラン、どの交通機関でも同じようなサービスを得られる。護送船団なので。
ローカルで生きていくと決めたならば、こうした日本の背景を意識して生き残ることを考えるべきです。
自分がどこのポジショニングにいるか、もしくは、どのポジションを取るかということ次第で、どうすべきかは実はだいぶ違ってくるので、世代に対する一般的なアドバイス、答えというのは非常に難しいと思います。
Q ハフポスの読者の中には、世代で括らられるのを嫌がる人も多いと思います。個を大事にし、能力を正当に評価してもらいたいと思っている読者はどう捉えれば良いのでしょう
グローバルの方向性の方ですね。
個人の能力を上げていくことに価値をおくべきです。
社会によくある一定の世代のタグ付けは、いつでも起きます。それがない社会はないのです。タグ付けにどれだけ縛られるかということだと思います。
もちろん、人は時代に縛られる、翻弄されるところはあります。
私はソ連の崩壊を見ていますが、預金がなくなり、今までの常識がひっくり返る大転換でした。
ロスジェネだったり○○世代というのは、そうした時代に縛られる歴史的変化とは違って、変化があるとしても、小さな差異なのですよ。
日本は基本の流れに乗らなかった人に対して厳しいところがあります。
基本的な流れに乗れなかった人に対して冷たいのは、国民性からして、これまでも、そしてこれからもそうでしょうから。突き放していうと、ロスジェネ世代の人たちは、この流れに乗れなかったから、冷たく扱われているのです。
では、その悩みをどう解決すればいいかですが、悩んで変わることがあれば悩めばいいけれど、悩んで変わらないことを悩んでも仕方ないと思いますよ。
「今ここにいるのは因果なので、過去を変えることはできない。ただ、今仕込みをしておけば、将来、自分の状況が変化する可能性がある」そう思うことで処理するしかないように思います。
(編集構成 ハフポスト日本版エディター 井上未雪)