LGBT NEWSで振り返る2019年。LGBTをめぐり、今年もさまざまなニュースが報じられた。(「LGBT NEWS 2019」ニュース一覧はこちら)その中でも、特に印象的だった事柄について、中心となり関わった4人を取材した。
一人目は、同性婚の法制化を求める「結婚の自由をすべての人に訴訟」に関わる弁護士の寺原真希子さん。
二人目は、日本初のオープンリーゲイの国会議員となった参議院議員の石川大我さん。
三人目は、インターネット上のトランスジェンダー女性排除に対して、「#ともにあるためのフェミニズム」を掲げ問題を提起した視覚文化、ジェンダー・セクシュアリティ研究者の堀あきこさん。
四人目は、今年成立した「パワハラ防止法」で「SOGIハラとアウティング」の防止対策も盛り込まれるよう尽力した、LGBT法連合会事務局長の神谷悠一さん。
それぞれの語る言葉から、今年のLGBTをめぐる社会の変化、その輪郭を探りたい。
必ず同性婚の法制化を実現する:弁護士の寺原真希子さん
今年2月14日、同性婚を認めない民法は違憲だとして全国で一斉に提訴された「結婚の自由をすべての人に訴訟」。
弁護団に所属する弁護士の寺原真希子さんは、この訴訟を支援する「一般社団法人Marriage For All Japan – 結婚の自由をすべての人に」の共同代表でもある。
「提訴した日は多くのメディアで報道され、社会に大きなインパクトを与えることができたと思っています。それは、今まで多くの方々がさまざまな(LGBTに関する)活動を地道にされてきたという土台があったからこそです」と話す
提訴からもうすぐ1年。すでに3回目の期日を終えているが、国は一貫して争う姿勢を示しているが、寺原さんは「想定の範囲内だ」と語る。
「国は、二つの反論をしてきています。一つは『憲法24条は同性婚を想定していない』というもの。もう一つは、『結婚は本来、生殖のための制度だ』というものです。どちらも想定の範囲内なので、しっかりと反論をしていく予定です」
「Marriage For All Japan」では、11月に衆議院議員会館で集会「マリフォー国会」を開催。同性婚を求める当事者の声を国会議員に届けた。
集会をはじめ、イベントなどで出会う人たちからの声に、寺原さんはいつも胸を熱くさせるという。
「これまでは自分のライフプランとして、当然のように『結婚』を想定していなかったという当事者の方から、『訴訟の動きを知って、結婚という選択肢を考えてみても良いんだと思えるようになった。自分にできることがあれば協力したい』と声をかけていただきました。とても勇気をいただくとともに、改めて責任を感じます」
今年、台湾でアジア初の同性婚が法制化され、日本国内でも、同性カップルの関係を事実婚の男女と同等だと認めた訴訟や、国際同性カップルの在留資格を認めたケースも出てきた。「結婚の自由をすべての人に訴訟」の後押しとなるのか。
「地裁では2021年春頃から判決がではじめ、最高裁判決が出るのは2023年頃だと予想しています。
地裁では、どこか一つでも『違憲』または『違憲の疑いがある』という判決が出ることを期待していますが、一般的に憲法訴訟は地裁と高裁では負けることが少なくありません。
『再婚禁止期間』の訴訟も、地裁と高裁では違憲とは認められず、最後に最高裁で違憲判断が出ています。
仮に地裁と高裁で違憲という判断が出なくても、判決の中でその理由が書かれるので、それは最高裁で戦うための材料になります」
訴訟と同時に、来年以降は国会議員へのロビー活動にもさらに力を入れていきたいという。
「訴訟でも立法でも『世論』が重要です。国会議員は有権者を常に意識していますから、世論が盛り上がればその影響を受けます。
裁判所は少数者の人権を守る立場にあるので、本来は世論に影響されてはいけないのですが、裁判官も人間なので、実際には世論をみています」
同性婚の法制化に向けて大きなスタートを切ったとはいえ、まだまだ序盤だ。
「同性婚実現のためにやるべきことはたくさんあります。『マリフォー(Marriage For All Japan)が何かやっているな』ではなく、『マリフォーと一緒に自分ができることをやるんだ』と感じてもらえるような存在になっていければと思います」
日本初「ゲイ」公表の国会議員誕生:参議院議員の石川大我さん
今年は統一地方選挙と参議院議員選挙が重なる「選挙イヤー」だった。新規・続投含め「9人」のオープンなLGBT議員が当選したが、その中でも特に注目されたのは、日本初「ゲイ」を公表し国会議員となった石川大我さんだろう。
参院選を振り返り、石川さんは「同性婚を求める全国のみなさんのおかげで当選することができました」と話す。
「駅前でご高齢の男性がチラシを受け取ってくれて、そのまま去って行ったかと思うと、再び戻ってきて『僕もあなたと同じだから、頑張ってね』と言ってくれたんです」と印象的だったシーンを語る。
当事者だけでなく、ALLYの存在が増えたことも当選できた大きな要因の一つだった。
「北海道から進学で上京したという大学生は、最近ゲイの友人にカミングアウトされて、自分にできることがないか考えていたそうです。はじめて石川のことを知ったけれど、投票することにしたと言ってくれました」
「本当に多くの方から『同性婚を実現してほしい』という想いを受け取り、こうして当選させていただくことができました」
日本初のLGBTの国会議員としては、2013年に尾辻かな子さんがレズビアンを公表し国会議員となった。
「尾辻さんが先輩としていることはとても心強いです。参議院と衆議院それぞれに当事者議員がいるので、ぜひ連携していきたいと思います」
議員になって約5ヶ月。先日は、文教科学委員会で、公立教員の残業等について定める「教職員給与特別措置法」の改正について大臣に質問したという。
「附帯決議で介護や育児など、特別な事情がある人への配慮を定めたことについて、『同性パートナーの親の介護でも配慮されるか』と大臣に質問し、『事情により必要がある場合には配慮をしなければならない』という答弁を引き出すことができました。
こうして大臣に直接質問をぶつけられることはやりがいを感じます。答弁を有効に活用することで、現場の学校の意識も変えることができると考えています」
ブレずに「弱い立場におかれている人の声を国政に届けていきたい」という軸を大事にしていきたいという石川さん。
「特に、難民申請が認められない外国人の問題にも取り組んでいきたいです。先日は、牛久の入国管理センターには視察にも行きました。(全国の)入管に収容されている方の中にはもちろんLGBTの当事者もいるでしょう」
選挙中も訴え続けた「同性婚」、政治の力で実現することは可能なのか。
「すでに婚姻平等法案は提出されているので、与党が法案の審議に応じれば実現できます。自民党にも同性婚に理解してくれる議員もいるので、しっかり関係を築いていきたいです。
私の任期中に同性婚を法制化する、という回答ではもちろん遅い。『結婚の自由をすべての人に訴訟』の最高裁判決まであと4年ほどと言われていますが、それよりも早く、政治の場で決着をつけられるよう頑張りたいです」
トランスジェンダー女性排除に立ち向かう:ジェンダー・セクシュアリティ研究者の堀あきこさん
昨年、お茶の水女子大のトランスジェンダー女性の学生受け入れのニュースが大きく報じられた。喜ばしいニュースだった一方で、インターネット上では「トランスジェンダー女性に対する差別的な言説」が顕在化するきっかけともなった。
特に、これまで女性差別に反対してきた人たちの中にも、女性のスペースにトランス女性が入ることが「性暴力に繋がる」と唱える人も出てきた。これに対抗し問題を提起したのが、視覚文化、ジェンダー・セクシュアリティ研究者の堀あきこさんだ。
「今年に入ってから、『ツイッターのせいで友人のトランス女性が亡くなった』という方のブログを読み、大変なことになっていると感じました」
堀さんはwezzyに記事を寄稿。トランス女性排除に対抗し「#ともにあるためのフェミニズム」「#トランスジェンダーとともに」を掲げて問題を提起した。他の研究者や当事者らもトランス女性への連帯を示す記事等を掲載。声明にも多数の賛同が集まった。
「これまで女性は、不妊や体型、美醜など『身体』にまつわる問題でたくさん苦しめられ、フェミニズムはこれと戦ってきました。それなのに、トランス女性に『染色体は男性』などと本質主義的な言葉を投げかけることのどこがフェミニズムなのかと思います」
堀さんの記事にはこうも書かれている。『言葉は人を殺しますが、生き延びさせるものでもあります。トランスフォビアに抗う言葉を、ともにある人たちに届けたいと思います』
1年を振り返り「まだまだ(インターネット上のトランス女性排除の言説は)こう着状態。あまり改善していないと感じています」と話す堀さん。どうすれば現状を変えていくことができるか。
「やっぱり、トランスジェンダーの『リアル』を知らずに語る人が多すぎます」
実際のトランスジェンダーは、自分が生きたい性別と、周囲からどの性別で認識されているかの差異を敏感に感じ取りながら悩み、生きている人が多いのではないか。
「ツイッターではトランス女性差別の言説と、それに反対する言説が対立していると見えているでしょう。けれど、現実には”どちらの言っていることも分かる”という風な人が多いように感じます。そこに対して、『知識』というワクチンを打っていきたい」
関西を拠点に研究や活動を行なっている堀さんは、今年12月、有志と共にトランスジェンダーや多様な性を生きる人が安心して暮らせる社会のためのグループ「きんきトランス・ミーティング」を発足。今後、関西の様々な大学とネットワークをつくり、シンポジウム等を開催していく予定だ。
インターネット上を中心とする攻防の一方で、現実面のトランスジェンダー女性の権利については前進も見られる。
今年は、性同一性障害特例法の「未婚要件」や「子なし要件」によって性別変更ができない事に対して、トランスジェンダー女性がそれぞれ訴訟を提起した。12月には経産省のトランス女性職員がトイレ利用をめぐる訴訟で勝訴した。
「これまで性的マイノリティをめぐる運動を戦ってきた人がいるからこそだと思います。明らかに社会は多様性を認める方向性に進んでいて、後戻りはしないでしょう」
堀さんは「イス取りゲームのような社会のあり方、その構造について考えていきたい」と語る。
「強い者が富を独占し、弱い者は自己責任と言われ、生きづらさから抜けられない構造が現実にあります。ふかふかのソファに座っている人と、ブルーシートに座っている人との間にあまりにも差がある。
今回のフェミニズムのトランス排除の問題は、今まで女性が受けてきた差別の問題と深く関わっています。だからこそ『誰かを蹴落として、自分はふかふかのソファーに座っている、そんな社会は間違っている』と私は思うんです。
現状の差別や格差を認識し『どんな社会を作りたいの?』ということを考えていきたいし、伝えていきたいと思います」
SOGIハラ・アウティング防止対策を企業に義務化:LGBT法連合会の神谷悠一さん
今年5月末、企業や自治体等にパワーハラスメント防止対策を義務付ける「パワハラ防止法」が成立。12月23日に採択された厚労省のパワハラ防止指針では「SOGIハラ」や「アウティング」の防止対策も盛り込まれた。
「これまでは任意の取り組みだったLGBT施策が、今後はすべての企業や自治体が取り組まなければいけない義務になります。国レベルで義務の制度が定められたのは日本初で、大きな運動の成果、そして新しいスタートラインだと思います」と語るのは、LGBT等に関する法整備を求める全国連合会「LGBT法連合会」事務局長の神谷悠一さんだ。
「この法律の良いところは、(LGBTについて)興味関心があろうとなかろうと、すべての企業等が期日(大企業・自治体は2020年6月、中小企業は2022年4月)までに、社内規定の整備や相談窓口設置などの、ハラスメントの予防をしなければならないということです。
仮に当事者が声をあげづらくても、制度に基づいた一定の環境改善が進むことにもなりますし、結果的によりカミングアウトしやすい職場に繋がるのではと思います」
SOGIハラ・アウティングの防止対策義務化。どのような経緯で盛り込まれることとなったのか。
神谷さんは「様々な運動によってLGBTに対する社会の関心が高まり、結果、与野党問わず多くの議員がこの問題について議論を積み重ねてくれたことが大きかった」と話す。
国会では、例えば公明党の谷合正明参議院議員らがSOGIハラについての議論を積み重ね、そこから公明党の平木議員が国会でLGBTについて質問することにつながった。
質問に対して安倍首相は「社会のいかなる場面においても、性的マイノリティの方々に対する不当な差別や偏見はあってはならない」と答弁。
さらに、SOGIハラはパワハラに含まれるという厚労省の答弁も引き出すことができた。その後自民党の木村議員もアウティングについて質問し、パワハラに含まれるとの答弁を引き出している。
これらを踏まえて、野党の現場責任者であった立憲民主党の西村智奈美衆議院議員らが、慣例に基づき附帯決議の案を作成。与野党の交渉を経て、附帯決議、指針へと繋がったという。
「超党派で多くの議員が連携し、この法案を進めてくれたことが印象的でした。やはり、本来LGBTイシューは、党派は関係ないものだということを改めて実感しました」
まだまだLGBTが身近にいると実感している人は少ない現状の中、企業に取り組みを義務付けることは「むしろ腫れ物扱いに繋がるのでは」という声もある。
神谷さんは「社会の変革は建前の変化」という上野千鶴子さんの言葉を紹介し、こう語る。
「心でどう思っているかは簡単には変えられませんが、少なくとも行動の変化を起こすことはできます。
『ハラスメントはしてはいけないことだ』という認識を広げ、実際に多くの人が制度の求める取り組みに関わる中で、自分の言動に注意深くなったり、何よりまず”考える”ようになる。これを積み重ねていく過程で差別や偏見はなくなっていくのではと思います」
残された課題は何か。
「SOGIハラとアウティングの防止対策を全ての企業で実施を徹底してもらうためには、今後もさまざまな働きかけが必要です。
まず、大企業と全国の自治体では来年の6月から法律が施行されるので、ぜひ自分の職場の就業規則等や要綱が変わったかどうかをチェックしてみてください。
今回の法律がカバーできるのは、あくまで「職場でのSOGIハラ・アウティングの予防」のみ。例えば、LGBTであることが理由で会社をクビになった、学校でいじめにあったり、病院で差別的な取り扱いを受けてしまったという際には救済されない。
「2020年は東京オリンピック・パラリンピックがあります。開催国の日本は、性的指向による差別を禁止している「オリンピック憲章」をふまえた法律が早急に必要です。
安倍首相も「性的マイノリティに対する差別はあってはならない」と言っているので、『LGBT差別禁止法』制定のために、改めて国内外の団体と連携しながら大きなアクションを打っていきたいと思います」
「fair」2019年12月27日『同性婚訴訟、ゲイ初の国会議員、トランス女性排除、SOGIハラ防止指針、2019年LGBTをめぐる社会の変化は』より転載