ジャーナリストの伊藤詩織さんが、元TBS記者の山口敬之さんから性行為を強要されたとして慰謝料1100万円の損害賠償を求めた民事訴訟。
12月18日の判決で、東京地裁は「酩酊状態で、意識のない伊藤さんに対し、合意がないまま性行為をした」などとして、伊藤さんの主張を認め、山口さんに慰謝料など330万円の支払いを命じる判決を下した。
山口さんは「内容にはまったく納得できません」として控訴する方針を示している。
判決後に行われた集会で、伊藤さんは、多くの支援者らを前に感謝の言葉を語った。
「結果を聞いても嬉しいという感情は湧かなくて。いい結果が出て良かった、というのが自分の中で処理できなかったんですが、まわりの人が涙を流してハグをして喜んでいる姿を見て、本当にすごいことなんだと。同じようなケースが起きた時に大きな意味があると、この1日でじわじわと実感してきました」
語られた両親への思い「どう思っていたんだろう」
法廷には、伊藤さんの両親も来ていたという。10月の結審では父親が傍聴していたことを明かしていたが、今回は初めて母親も同席した。
性被害を受けたと訴えた会見を開いてから、民事訴訟の判決に至るまでの2年間の歩みに思いを馳せながら、両親への思いも明かした。
「両親も法廷に見えました。初めて母が法廷にきたんですけれども、法廷の一番後ろ側の席に座っていました。冒頭に2分間の映像撮影があったが、その間は沈黙しなければいけないんです。静かな時間があり、目の前には山口氏と相手側の弁護人がいて...山口さんは下を向いていたんですけれども、彼を見ながら、彼はどんな思いで民事裁判を過ごしてきたんだろう。同時に『両親はどう思っていたんだろう』と、この長い2年間を思い返す2分間となりました」
「死ななくてよかった。生きててよかった」
性暴力のサバイバーに対する思いも語った。
伊藤さんは、今でもPTSDに苦しめられているという。「この2年間、死ななくて良かった。生きててよかったと思います」と涙ながらに告白。
「今後同じようにアクションを起こす方がいらっしゃったら、どうかみなさんサポートをしてください。裁判所側でも改善できることはたくさんあると思います。私も、自分の経験をふまえて改善に繋げられればと思っています」と呼びかけた。
伊藤さんは、今回の民事訴訟を起こした意義について、「新たな証言や公になったことがいくつかあった」として「このプロセスこそが本当に意味のあること」と強調している。
結審間際に、新たな証言者の申し出もあったという。
「自分自身がどういう人間でありたいか、ということをすごく考えてきてくださったんだなと感じました。いろいろな方が『自分だったら』と、自分ごととして向き合ってくれる人が多くいてくれたことが希望でした」と思いを込めた。
判決「被告の供述は不合理というほかない」
判決などによると、山口さんは当初、「あなたのような素敵な女性が半裸でベッドに入ってきて、そういうことになってしまった」などと伊藤さんに説明していたが、その後、伊藤さんから呼ばれて自分から伊藤さんのベッドに移動したと供述を変えていた。
判決では、「被告の供述は不合理というほかない」と山口さんの主張を退けた。
また、裁判では、事件後の2015年4月6日、伊藤さんから山口さんに送ったというメールの内容についても双方の主張が争われた。
「無事にワシントンに戻られたでしょうか?」などと山口さんを気遣うような内容のメールで、山口さん側は「強姦の加害者に発信する言葉掛けとして通常あり得ません」と主張した。一方、伊藤さんは「全く何もなかったように過ごすのが自分の身のためなのではないかと思った」と証言していた。
判決では、「同意のない性交渉をされた者が、その事実をにわかに受け入れられず、それ以前の日常生活と変わらない振る舞いをすることは十分にあり得ること」と指摘。メールから伊藤さんが性行為に同意していたと推認することはできないとして、山口さん側の主張を退けた。
伊藤さんの弁護団の村田智子弁護士は「性犯罪の被害にあった被害者の心理について非常に理解されていると感じた」と語った。
「性被害を受けたと声を上げることは公益目的」
判決では、山口さんの反訴についても検討された。
山口さんは2019年2月、伊藤さんから名誉を毀損されたことで社会的信用や仕事を失ったとして、慰謝料1億3000万円や、謝罪広告の掲載を求めて反訴した。裁判では、山口さんの訴えも合わせて審理されていた。
判決は、伊藤さんが山口さんから受けた性被害を告発した内容について、「摘示する事実は真実であると認められる」と指摘。
「(伊藤さんが)自らが体験した内容やその後の経緯を明らかにし、広く社会で議論することが、性犯罪の被害者を取り巻く法的、社会的状況の改善につながるとして公表したことが認められる。公益をはかる目的だと認められる」として、山口さんの名誉を棄損する行為ではないと判断し、請求を棄却した。
山口さん「法に触れる行為は一切していない」
一方、山口さんは、判決後の午後2時から都内で記者会見。記者会見には、北口雅章弁護士と文芸評論家の小川榮太郎さんらが同席し、司会は月刊Hanadaの花田紀凱編集長が務めた。
山口さんは、判決に対して「まったく納得できない」とした上で、「私は法に触れる行為を一切していない」と一貫して強調。
小川さんも「今回、民事訴訟でこのような結果になったことについては、私も社会の個人として非常な憂慮を持ってこの問題を今後も追求していく他ないという決意を固めました」と語った。
伊藤さんが警視庁に準強姦容疑(当時)で被害届を提出したのは2015年4月。いったんは逮捕状が出たものの、逮捕直前で取りやめとなり、山口さんは翌2016年7月に嫌疑不十分で不起訴に。伊藤さんは検察審査会に不服申し立てをしたが、検察審査会も「不起訴相当」と判断した。
山口さんは「客観的証拠に基づいて伊藤さんの主張の矛盾点を複数主張したが、我々の主張が間違っているという事実認定もないままほぼ無視されている」として、控訴する方針であることを明らかにし、次のように主張した。
今回の判決については、一方的に伊藤さんの主張だけが根拠なく、事実真実と認定されてしまった。
これについて、私がこれまで2年間沈黙している間に、様々な報道が国内や海外で、伊藤さんだけが出る、もしくは伊藤さんの主張だけを一方的に載せる、という報道、風評が世界中に流布されると私は思っておりませんでしたので、今回の判決にも何がしかの影響を与えたのではないかなと、分かりませんけれども、私としては残念に思っております。
私もずっと記者をしておりましたから、取材に応じない人、記者会見をしない人の主張については何を考えているのか分からないので、沈黙自体が結果的なマイナスにつながった可能性が否定できない以上、今後は法廷の外でも、こういう主張をしていかなければならないと思っています