開始4年「ストレスチェック制度」は役に立たない?どう活用すればいいのか、専門医に聞きました

ストレスチェックは人々に「自分はストレスを抱えているのかも」の気づきを与える仕組み。
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Andrii Zastrozhnov via Getty Images

「仕事の量が多すぎてつらい」

「プレゼンに失敗して、周囲の目が気になる」

「上司からの対応がパワハラ気味…」

国の調査では「職場で強いストレスを感じている」と回答した人は全体の5割を超えます。

その対策として、4年前のちょうど12月1日に始まったのが「ストレスチェック制度」です。「そういえば、職場で受けろと言われたなあ…」と思われた方もいらっしゃるのではないでしょうか。

しかし「そもそも役に立つの?」「活用の方法が分からない」という声も。せっかくの身近な制度、いまストレスを抱えている人もそうでない人も、知っておいて損はないはず。

ストレスチェックの内容や上手な活用のしかたについて、産業衛生専門医の福田康孝さん(仮名)に聞きました。 

Q)そもそも、ストレスチェックってどんな制度なんでしょうか?

(福田)近年、職場で精神的なストレスなどを抱えてメンタルヘルス不調を起こし、労災認定される人が増え続けてきました。そこで、いわゆる精神障害と診断されるような状態になってからではなく、もっと早く気づいて対応できないかと始まった制度です。

精神的なストレスは、自分自身でもなかなか気が付けないことがあります。

そこでチェックを受けることで、「もしかして、自分はストレスを抱えているのかも」と働く人自身に気付いてもらったり、働きやすい職場づくりを始めるきっかけになったりすることを狙いとしています。

働く人が50人以上いる事業場(企業など)では年に1回実施する義務がありますが、チェックを受けるかどうかは、あくまで働く人の自由とされています。ただし、ご自身のストレスの状況を把握することは健康管理にとても大切です。受ける機会があるならば、ぜひ1年に1回の「心の健康診断」と思って受けてみられてはいかがでしょうか。

 

Q)具体的には、どんなことを調べるんでしょう?

ストレスチェックにはいろいろな質問項目がありますが、「どんなことがストレスの要因になっていそうか」「ストレスによってこころやからだに何か変化が起きていないか」などを調べています。

「職業上の精神的ストレス」といっても、その要因はいろいろですし、個人の感じ方も様々ですよね。

少し多めの仕事でも、職場の人間関係が良く、一丸となって目標を目指しているときはストレスを感じないこともあります。一方で、プライベートで人間関係に問題を抱えていたら、仕事の量はそれほどでなくてもストレスを感じてしまうかもしれません。

そこでストレスチェックでは、様々ある要因の中で、特に『仕事のストレス要因』と、それによって人に生じる『心身のストレス反応』、そしてストレス反応を和らげてくれる『周囲のサポート(緩衝要因)』の大きく3要因を確認します。

その結果、「心身のストレス反応がとても高い場合」は『高ストレス者』と判定されます。また、心身の反応はそこまで高くなかったとしても、「仕事のストレス要因が高く」かつ「周囲のサポートが低い」場合には『高ストレス者』と判定されます

 

Q)なるほど、「高ストレス者」とされた場合は、いわば警告サインが出ているということですね

そうですね、最近の研究で、高ストレス者と判定された労働者は、その後に長期病休に至るリスクが高いと報告しているものがあります。

高ストレス者に対しては、医師の面接を含めて、何らかの対応を行う必要があるとも指摘されています。

 

Q)もし「高ストレス者」と判定されたら、どんな対策がとられるのでしょうか?

はい、「高ストレス者」と判定された場合の対応の流れは次のようになっています

1.会社は、面接を勧めた従業員が希望した場合、面接を行わなければならない

高ストレス者と判定された人は、希望すれば、産業医など医師による面接を受けられます。また、産業医などのチェックを実施する側から、『あなたは高ストレス者なので、面接を受けませんか?』と連絡が来る場合もあります。その場合、対象者が希望すれば、事業者は医師による面接を行わなければならないと決まっています。

2.面接では体調や仕事の状況が聞かれる。場合によって対策の指導や専門科への受診が勧められる

医師による面接の狙いは、ご本人の体調や仕事の状況を聞かせていただき、その結果と医師としての意見を会社側に伝えることです。

そのうえで、状況に応じてストレスへの対処法をお伝えしたり、体調や心理的な負担の度合いが強い場合には、精神科や心療内科などの専門機関を紹介したりする場合もあります。

3.医師から、会社に面接結果と意見が伝えられる

医師は面接が終了した後で、会社側に対して、面接対応者への就業面での配慮の意見を伝えます。この際、職場環境の、特に「職場の人間関係」に言及する意見を述べる場合もあります。その際には、人事担当者や管理監督者と、情報管理を含めて慎重に対応します。

 

Q)一方で、チェックを受けて結果が悪かったら、人事の評定などで不利になるんじゃないか…。とも思ってしまうのですが

そのお気持ちは、とても良くわかります。だからこそ企業側には、働く人がそのような不安を感じずにチェックを受けられるよう、『情報の取り扱い』と『不利益な取り扱いの防止』に努めることが求められています。情報は必要最低限の人のみが持ち、またその情報によって従業員がクビになったり、左遷されたりなどの不利益な取り扱いを受けないようにすることが原則になっています。

 

Q)「高ストレス者」とならなかったとしても、日ごろ精神的なストレスを感じている場合は、どうすれば良いのでしょうか?

自分自身でできる対応の代表例として、『セルフケア』があります。セルフケアとは、働く人自身がストレスに気づき、それに適切に対処する行動を取ることです。

とはいっても難しいことではありません。ストレスへの対処の第一歩は、日々の規則正しい生活・適切な食事・睡眠・運動です。それに加えて、ストレス対処法を学び実行することが役に立つ場合もあります。

ストレス対処法は、いくつかあるのですが、今回はそのなかで『捉え方の工夫』について少し触れさせてください。

『捉え方の工夫』は、出来事、物事に対する捉え方のクセが関係したイライラや不安の場合に有効です。

よく引き合いに出されますが、『コップ半分の水』という例があります。コップに半分水が入っているとして、『コップにもう半分しか水が入っていない』とマイナスに捉えるか、『コップにまだ半分入っている』とプラスに捉えるかでは、全く同じ状況でも受ける感情は変わってきます。

何かマイナスな捉え方、考え方になった際には『本当にそうか?』と別の視点で状況を眺めなおしてみる。それが『捉え方の工夫』です。

 

ストレスがあれば、『誰かに相談してみる』

最後に、いまストレスでつらい思いを抱えている方に、ひとつだけ大切なことをお伝えさせてください。

『誰かに相談してみる』ことです。

家族、友人、上司、同僚などあなたの周りにサポートを求めることは恥ずかしいことでも何でもありません。一人で抱え込んで考えているうちに、体調にまで影響が出てしまうこともあります。

ただ、産業医としてたくさんの方にお会いしていると、「相談できる人がいない」ということをお話される方もいらっしゃいます。信頼関係がなければ、自分自身の悩みを話そうとは思えないでしょうし、「どうせ、相談したって変わらない」と思い、相談を踏みとどまってしまう方もいます。そして、相談したい気持ちはあっても、「なんと言えばいいのかわからない、、、」と戸惑う方もいます。

そのような時こそ、産業医、保健師、カウンセラーなど利害関係にない、私たち専門家に相談してみてください。思い切って相談してみたという方から、「話すだけでも、気がまぎれた」「話す中で自分自身の頭の中が整理された」という嬉しい反応を頂くこともしばしばです。

また、こういったことは国の統計からも示されていて、9割以上の方が、「誰かに相談することで悩みが解消する」もしくは「悩みが解消しなくとも、誰かに話せることで気が楽になる」と回答されています。

そしてこの記事を終わりまで読んでくださったみなさまへお願いです。今年受けたストレスチェックの結果が、封筒やPCの中で眠っていませんか?良かったらこの記事を参考にしながら、ご自身の結果を見直して頂けたら幸いです。

【取材協力】

※産業医広報推進部

働く人の健康を守る「産業医学」を専門とする5人の専門家チーム

※福田康孝(仮名)

外資系企業産業医。産業衛生専門医。製造現場の安全衛生管理体制へのアドバイス、国際産業保健の実務を行いつつ、病気休業に関する研究活動を行っている。

【参考文献】

1.厚生労働省 『平成29年 労働安全衛生調査(実態調査) 結果の概況』

2.厚生労働省 『労働安全衛生法に基づく ストレスチェック制度 実施マニュアル』

3. 産業医学振興財団 『面接指導版 嘱託産業医のためのストレスチェック実務Q&A』

4.へるすあっぷ21 2018年9月号

5.厚生労働省厚生労働科学研究費補助金 労 働 安 全 衛 生 総 合 研 究 事 業

ストレスチェック制度による労働者の メンタルヘルス不調の予防と職場環境 改善効果に関する研究 平成27~29年度総合研究報告書

6.厚生労働省 『平成24年労働者健康状況調査』

*12月1日「Yahoo!個人」に掲載された記事を転載しました。

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