ローマ・カトリック教会のフランシスコ教皇の訪日に合わせて、11月25日に東京ドームでミサが開かれた。
ミサには「袴田事件」で死刑が確定後、無実を求めて再審、裁判のやり直しを求めている袴田巌さんと姉・秀子さんも招待された。
袴田さんは、死刑確定後の1984年12月に洗礼を受けたカトリック教徒。死刑に反対する立場のローマ・カトリック教会のトップである、フランシスコ教皇との面会を求めていた。
袴田さんと秀子さんはミサの後、東京弁護士会館で開かれた死刑廃止を考えるシンポジウムに出席。秀子さんが面会が実現しなかったことを明かした。
2人はその後、弁護団とともに記者会見に臨んだ。その中で秀子さんは、ローマ教皇の訪日直前に、カトリック教会側からミサへの招待状が届いたと明かした。
招待者として間近で教皇の姿を見ることはできたが、直接言葉を交わしたりすることはできなかったという。秀子さんは、長期の拘禁生活の影響が残り、会話や意思の疎通が難しい袴田さんに代わって、ミサ中の袴田さんの様子について次のように語った。
「いつも通り。穏やかに会場に映し出された画面を見ていました。教皇さまが車で通るところでは、みんなも立っていたので、巌も立っていました」
一方で、ミサは長時間に及んだため、袴田さんが終わったと勘違いして退出しようとする一幕もあったという。
「終わったと思って、途中で帰ると言って立ったんです。それはかなわんということで、一生懸命なだめて、大人しく最後までいました」
記者会見では、世界中に信者のいるカトリック教会の支援への期待にも質問が上がった。これに対して秀子さんは「それぞれの支援の仕方があると思う。自分たちのできることでいい。こうしないといけない、ああしないといけないということではなく、できることをしてもらえればいい」と答えた。
弁護団の西嶋勝彦弁護士は「来日の際には言葉をかけて欲しいと言っていたが、そのこと自体は叶わなかった。招待が来ているということで、(袴田さんが)再審開始決定の元で解放されて、死刑囚が街中を歩いていることが知れ渡った」と述べた。
今回のミサ招待の背景には、さまざまな働きかけがあったという。2018月10月には、日弁連の死刑廃止のための調査団がバチカンなどを訪問した際に、袴田さんの現状や支援を求める内容の弁護団の手紙を渡した。そのほかにも、秀子さんの名前で支援者からバチカン側に手紙を送ったという。
ミサの内容は?
ミサの会場となったドームは、カトリック教徒らで参加者で埋め尽くされ、グラウンド上にも設置された席も含めて、ほぼ満席状態となった。
ローマ教皇が会場に姿を見せると、割れんばかりの歓声がこだました。教皇は、トヨタ製の移動車の台上に乗ってスタジアム内を周遊し、参加者みな、配布されたフラッグを振って出迎えた。
教皇は手を振りながら、途中、赤ちゃんや子どもを目にすると、抱きかかえ、ひたいや頬にキスした。やさしく頭を撫でた。
教皇が移動するくのに合わせて、会場を移動する人のうねりができ、みんなフラッグを振り続けた。
「孤立している人へ」教皇が語ったこと
教皇はミサの説教の中で、日本の現状にも触れた。
この日に若者たちとの集いの中で気づかされたエピソードとして、次のように述べた。
「社会的に孤立している人が少なくなく、いのちの意味が分からず、自分の存在の意味を見出せず、社会からはみ出していると感じていることです」
そうした私たちが抱える“孤立”に抗うためにも、「分かち合い、祝い合い、交わる」ことの大切さを説いた。