それは、新人たちの何気ない会話から始まった
それは、サイボウズマーケティング本部の新人4人による何気ない会話から始まりました。
佐藤:Twitter見てたら理(おさむ)さん*のツイートが流れてきたんだけど、みんな、これ見て……!
(*)サイボウズ取締役副社長 兼 サイボウズUS社長の山田理(やまだ・おさむ)
佐藤:……ちょっと古くない?
高橋:このアイコンっていつの写真!?
山田翠:学生時代の野球部の話、必要?
武田:これはイケてないね……。
いても立ってもいられなくなった4人は、グループウェア上で副社長へのダメ出しを開始。その流れで副社長のTwitterアカウントをプロデュースすることになったのでした。
このやり取りがTwitter上で展開されると「新人の言うことを素直に聞く副社長がすごい!」と話題になり、ネットニュースにも取り上げられることに。
1200人ほどだった副社長のフォロワーは現在、4300人以上に増えています。
理さん、Twitter上では受け入れてくれていたけど、新人にダメ出しされて本当にイライラしなかったの? もしそうだとしたら、その寛容さはどこから生まれてきているの? 疑問に思った新人たちは、理さんが東京にいるタイミングを見計らって、取材を行うことにしました。
理さん、新人にダメ出しされて、ぶっちゃけどんな気持ちでしたか……?
新人にダメ出しされて「めっちゃおもしろい」「やるやん」と思った
高橋:ということで、Twitterプロデュースさせていただきました。
山田理:ありがとうございます(笑)。
高橋:入社式の時に一度お会いしましたが、こうやって直接お話するのは初めてですよね?
山田理:確かにそうやなあ。オンラインではたくさん話してたけどね(笑)。
佐藤:本当にいろいろ言ってしまいました。
高橋:新人にダメ出しされて、ぶっちゃけ、どんな気持ちでしたか……?
山田理:いや、最初は誰かに教えてもらって、グループウェア見にいったら驚いたよ。「えっ!? 俺のことで何か言われてるやん」って。
自分のTwitterのプロフィールについてダメ出しされていることがわかって、「おいおい、ほんまかいな」と最初は思いました。
高橋:僕たちも直接連絡するのはちょっと勇気がいりました。
山田理:でもね、「めっちゃおもしろい」「やるやん」とも思ったのよね。
山田翠:本当ですか!?
山田理:ほんまやで(笑)。
僕はTwitterのこともよくわかってないのよ。
僕よりもマーケティング部の若い人たちのほうがネットやSNSに長けているから、「この機会に教えてもらおう」という感じやった。で、どうせやるなら表に出てやったほうがおもしろそうやんって。
武田:教えてもらう相手が新人だったことに抵抗はありませんでしたか?
山田理:それはまったくないね。
武田:ちょっと意外。
山田理:新人も何も、僕の立場からするとサイボウズのメンバーはほとんどが下になるねんけど、「下の人たちのほうが詳しい」ということをたくさん目の当たりにしてきたからね。
マーケティングでも開発でも営業でも「現場のみんなのほうが詳しいな」と感じる経験をたくさんしてきたんで、年齢や社歴は気にしてないよ。
「新人だから」といって恐縮する必要なんてない
高橋:正直なところ、新人としては年上の方々と仕事をするときにはどうしても気が引ける部分があります。
サイボウズがフラットな組織だというのは頭ではわかっているんですけど。
佐藤:「理さんに直接言ってしまって大丈夫なのかな?」という不安はあったよね。
山田翠:以前の理さんのプロフィールを4人で見ながら、どこを削って何を足して、写真はどれを選んで……と、かなり気を遣いながらやっていました。
山田理:その「いろいろ考えてやってくれてんねんな」という感じは伝わってきたよ。だから僕は言いなりやった(笑)。
佐藤:理さんが提案を受け入れてくれたのは素直にうれしかったです。
「誰が言うか」よりも「何を言うか」を大事にしてくれているんだなって。
山田理:僕は逆に、みんなが「新人やから意見したらあかんのかな」と感じていることが意外やった。「そんなんいいに決まってるやん」と思う。
もちろん、みんなが提案してくれたことが、僕から見てもイケてない内容だったら受け入れてなかったはず。僕にはないクオリティの高さがあるから受け入れたわけで、新人の言うことだから聞いたわけではないよ。
むしろ僕も「私たちの提案を受け入れない副社長って何やねん、センスないな」と言われるくらいの多少の覚悟はあったよ(笑)。なので「新人だから」といって恐縮する必要なんて全然ない。
この月のインプレッション数は驚異の200万越え、プロフィールへのアクセスは前月の100倍だったとか……。
「お前らに何がわかんねん!」と思うときはあるけど、「一概に自分が正しいとは言いきれないぞ」とも思う
山田理:そもそも、僕にも強みと弱みがあるわけよ。自分の弱みを改善しようと努力するのは大変だし、時間もかかる。それなら僕の弱みを補ってくれる人、その領域に強みのある人にカバーしてもらったほうがいいと思ってる。
そうすれば僕は、自分の強みを伸ばしていくことに集中できるから。
佐藤:なるほど。
山田理:弱みを補ってくれる人が誰であれ、それこそ新人であろうがなかろうが僕には関係なくて、補ってくれるなら「ありがとう」でしかないのよね。
山田翠:逆に、人事制度など、理さんの強みの領域で意見されたらどうするんですか?
山田理:新人のみんなから「サイボウズの社内制度はおかしい!」と言われるとか?
山田翠:はい。
山田理:制度や理念といった領域であれば、僕は相当なこだわりを持って議論すると思う。もしかすると必死に説得しに回るかもしれない。
こだわりがあるところとないところ、自分の強みだと思うところと弱みだと思うところは、切り分けて考えてるね。
高橋:「若造のくせして何を言ってんだ!?」と思うようなことも……?
山田理:えっーと……多分ね、あると思う(笑)。
高橋:(あるんだ……)
山田理:「なんでやねん、お前らに何がわかんねん!」とは思うかもしれない。とはいえ、そう思う機会は昔よりも断然減ってるけどね。
武田:そうなんですね。何かきっかけがあったんですか?
山田理:サイボウズに入ってから、自分よりはるかに若い人たちが世界を変えるようなサービスを実際に作ってきたのを見てきて、若い人たちの方が詳しいこともあるねんなと気づいてん。
そんな変化を目の当たりにしてきたから、「強みの部分だからといって一概に自分が正しいとは言いきられへんな」ということは身に染みているつもり。
そういう意味では、僕のこだわりがある領域でもどんどん意見してほしいよね。
武田:長い間若い人の活躍を見てきたからこそ、今の考えがあるんですね。
高橋:ちなみに、昔の理さんはどんな感じだったんですか?
山田理:それはもう、「THE・昭和」って感じやった。前の会社は銀行で、ガチガチの年功序列やったし。サイボウズに来た後も研修で、「サイボウズの5精神(*2)を唱和しろ!」とか言って、一言一句違わず覚えさせようとしたり(笑)。
(*2)サイボウズ5精神:「一芸に秀でる、ベストを尽くす、誠実、チームワーク、人から学ぶ」の5つ。現在は廃止済み。最初に作った『サイボウズ7精神』を覚えてもらえなかったため、わざわざ2つ減らしたらしい。
こう見えて、意外と繊細やねん
高橋:人って、年齢を重ねると考え方が凝り固まっていって、いわゆる「老害」的に扱われてしまうこともあると思うんです。
でも理さんの話を聞いていると、時が経つにつれて柔軟になっているようにも感じます。
山田理:僕の場合は、そもそも自分に自信がないのよ。
高橋:えっ?
山田理:多くの場合、人から「おかしいですよ」と言われたら「おかしいのかな?」って思ってしまう。
打たれ弱いし……こう見えて、意外と繊細やねん。
一同:(笑)。
山田理:いや、ほんまに(笑)。
あまり人から嫌われたくないと思うし、僕はどちらかというと空気を読むほうやから、反対意見が来ると「何で反対するの?」って気になってしまう。
高橋:繊細だからこそ、議論することによって考えをすり合わせている感じなんでしょうか?
山田理:うん、そうね。
佐藤:サイボウズがどんどん成長していることは自信につながっていないんですか?
山田理:それはもちろんあるよ。サイボウズの制度やチームのあり方については社長の青野さんとも自信を持って議論してきたし。
働く人を幸せにするのも会社がやるべきことだし、そもそも会社って必要なのか? といったことも含めて、僕らが考えていることはこれからの時代に必要なことなんじゃないかという自信もある。
「もっと利益を追求して株価を上げていくべきだ」とか「時価総額を上げてお金でみんなを幸せにするべきだ」とか言われても、まったく動じないね。
武田:自信があるところとないところの差がしっかりしているんですね。
成功体験にとらわれないために必要なのは「大海を知る」こと
高橋:理さんも青野さんも、本当に謙虚ですよね。昔の体育会系の考えから、どうやって変われたんですか?
山田理:僕は「成功した」と思ったことが、人生で一度もないねん。結局、変われない人って成功体験しかなくて、それにしがみついているんやと思うのよね。
僕らはまだ日本の中を変えていないし、ましてや世界も歴史も変えられていない。まだまだ全然できていないことばかりよね。
青野さんも「うちは本当にイケてないな〜」とよく言ってるし(笑)。
武田:そうやって客観的に「今の自分たちは全然イケてないな」と思えるのはどうしてですか? どうしても人って「自分たちは正しい」と考えがちだと思うんですが。
山田理:理想が大きいからこそ、外の世界を見たときにギャップを感じるのよね。だから「僕たちはこのままでいいんだろうか?」と常に考える。
会社の中ばかり見て幸せを感じているだけだと、「井の中の蛙」になってしまうのかもしれない。そういう意味ではまず、大海を知るべきとちゃうかなと思う。
武田:大海を知る。
山田理:ずっと社内にいて同期と自分を比べていたら、「同期の中では俺はイケてるぞ」と思うようになるかもしれない。そうなったら先輩を見るべきだと思うし、世の中にはすごい人がたくさんいるわけだから、社外にもどんどん目を向けるべきよ。
井の中の蛙でも幸せに生きていけるかもしれない。でも少なくとも僕は、外の大海を見ていたいね。
安心できる居場所があれば、「新人」のくくりはいらないんじゃない?
高橋:今日は、じっくり理さんとお話できて本当によかったです。Twitterで突撃した甲斐がありました。
佐藤:今後も言いたいことを言ってしまって大丈夫ですか……?
山田理:僕については、みんなが接したいように接してくれればいいよ(笑)。嫌やな、おかしいなと思うことがあれば言えばいい。
昔は先輩や上司へのダメ出しは陰で言うくらいしかなかったけど、今はみんなの前で言えるから。Twitterでつぶやいてもいいし、社内のグループウェアに書いてもいい。
山田翠:ささいなことでも、感じたことを正直に発信していくことが大事なんですね。
山田理:そう。それを見つけて共感してくれる人が多ければ「たしかにそうだよね」という声になる。組織というのは結局、一人ひとりの考え方が合わさってできているものだから、そうやって変わっていくしかないやと思う。
100人100通りの幸せを実現するためには、おかしいと思うことをオープンに言い合っていかないとアカンねん。
佐藤:それこそ、立場や年次に関係なく、新人も意見を言わなきゃいけない。
山田理:そうそう。
山田理:会社の中に安心できる居場所を作れるという意味では、新人としてのグループや同期にも意味があるのかもしれない。
とはいえ所属部署もあるわけやし、そこで居場所が確保できるなら、「新人」のくくりはいらないんとちゃうかな。
武田:「新人のくくりなんてないんだ」と考えれば、それこそ思ったことはどんどん意見すべきですね。もっと生意気にやっていいんだ。
山田理:「理さんのブログ、なんか古くさいよね」とかもグループウェアに書けばいいんじゃないですか? 誰かが見つけて共感してくれるかもしれないし。
佐藤:あ! それはまさに言おうと思っていたんです。
理さんのブログの名前、まるボウズって……。
山田理:あっ、ほんまなんや……。
文:多田慎介/撮影:尾木司/企画編集:高橋団
本記事は、2019年10月29日のサイボウズ式掲載記事
より転載しました。