ニューヨークの国連本部で、国連軍縮担当事務次長・上級代表を務める中満泉さん。21歳までパスポートさえ持っていなかったと言うが、早稲田大学在学時の留学を経て、国連をはじめ国際機関で活躍を続けている。
こうしたキャリアの一方で、スウェーデン人の夫とともに子育てをする2女の母でもある。
ニューヨークを拠点に日々世界課題と向き合う中満さんに、気候変動といった問題に対する日本と世界の意識の違いについて、話を聞いた。
「みんなが政治に参加する」スウェーデン
9月にニューヨークの国連本部で気候行動サミットが開催された。そこで行われたスウェーデンの環境活動家、グレタ・トゥーンベリさんの怒りのスピーチは、 多くの人に衝撃を与えた。
スウェーデン人の夫を持ち、自身も5年間現地で生活した経験のある中満さん。トゥーンベリさんの力強い主張について、「みんなが政治に参加する」というスウェーデン特有の社会背景が関係しているのではないか、と話す。
スウェーデンでは、子どもたちが将来政治に参加するための教育が学校で行われており、実際の選挙に合わせ学校内で「模擬選挙」が実施されたり、政治的意見の表現方法なども学ぶそうだ。実際に選挙における全体の投票率は、近年では常に80%を超える。2018年の総選挙では、全体の投票率は87.2%、18歳から24歳の若者に限っても84.9%となっている。
一方日本では、全体投票率は50%を切っており、中満さんは「なぜ“選挙”が重要なのか、必要なのか、という有権者教育が必要」だと説く。
まずは個人の勇気、次にその力を結集させること
日本の社会では「出る杭は打たれる」と言われる。勇気を出して声を上げるというアクションを起こしても、賛同が得られるどころか、逆に批判されることも。そうした状況に対し、中満さんはこうアドバイスする。
「まずは個人のレベルで勇気を持つことが必要ですが、さらにその力を結集する事が重要だと思います。1人では怖くて勇気が出ないことも、何人か集まって抗議していくことで、その声を大きくすることができます」
実際、セクハラや性暴力の被害者が声をあげた世界の#MeToo運動は、1人で声をあげることが難しい日本では、#WeTooとしての呼び名でも広まっている。日本人が得意とする「集団行動」をプラスに作用させれば、声を広めやすいかもしれない。
災害大国だからこそ日本は気候変動対策を先導する立場に
9月に世界各地で行われた気候変動マーチには、世界で760万人以上が参加した。イタリアでは150万人、アメリカでは50万人、スウェーデンでは7万人、インドでは1万3000人が参加する中、日本では約5000人と、他国に比べると小規模だった。 世界では若者を中心に士気が上がっている気候変動問題だが、日本ではなかなか注目を集めない。なぜか?
「彼らが育ってきた環境の違いだと思います。そもそも日本の子どもたちは、『自分にとって大切なことは何か』を考える教育を受けていません。日本の学校では、生徒たちに、授業を受けずにデモへの参加を勧めることもないでしょう。そういう点が違いに表れているのではないでしょうか」
ニューヨークでは、公立学校の教育委員会で、生徒がデモに参加することを許可するだけでなく、「子どもたちが自分にとって重要だと考える事柄に声を上げることに対して、私たちは敬意を表します」というメッセージを出したという。
そして「日本は、これだけ台風や大雨の被害にあっているのに、それらを引き起こした大きな原因である気候変動にどう取り組んでいるのか、さらに世界はどう取り組もうとしているのか、という掘り下げた報道をほとんど見た事がない」と中満さんは指摘。現状を知り、日本こそが先頭に立って欲しいと話す。
「こうしたことは、日本だけではなく、地球全体を巻き込んで対応しなければ解決できない問題です。本来であれば、 日本のように災害の多い国が、その体験を原動力にして、世界を先導するぐらいの覚悟で取り組んでほしい」
世界問題への取り組み方
中満さん曰く、「人類の存在に関わる脅威と言われているものが2つある」とし、1つは前述の気候変動、そしてもう1つが、核戦争の脅威だという。まさに、中満さんが国連で担当し、解決に尽力している問題だ。
いま、大国同士の緊張関係などから、核兵器が使用されかねないという危機感が増しているという。
中満さんは国連軍縮担当事務次長として、核を含む、人間を無差別に傷つける危険な兵器を、交渉で減らしていくなど、軍縮や軍備管理の約束事を作る仕事をされている。
「みんなが考えなければいけないことではありません。 課題はたくさんあるので、自分が興味ある事を追求していけばいい。安全保障、人権、女性、気候変動など。そういう人たちが増えていくと、全体的に色々な課題が考えられると思う」と中満さんは話す。
国連は17のゴールからなるSDGsを設定しており、まさにこれらの問題が含まれている。自分の身近な問題に焦点を当て、パッションを持ち、そこから活動を始め広げていくことがSDGsに向けての活動のコツだと教えてくれた。
女性の活躍やキャリアと家庭の両立 聞かれるのは日本メディアだけ
そんなSDGsのゴールの1つでもある、「ジェンダー平等」。中満さんは日本の様々なメディアのインタビューで、キャリアと家庭の両立や女性の活躍について言及している。
「色んな国のメディアから取材を受けますが、こうしたことを聞くのは日本のメディアだけです。それはつまり、日本がいかにジェンダー不平等か、ということなんだと思います。幾度も同じ質問を受けますが、ジェンダー不平等は変えていく必要がありますから、できる限りお答えするようにしています」
では、日本の女性をとりまく社会環境で改善すべき点はどこだろう。
「全部です。大きなことを変えるには、コレをやれば良いということでなく、複合的にやっていくことが大事です」
その中でも、まず挙げられたのは、エンタテインメント業界での女性の描写や刷り込みだ。「日本のドラマを見ていると、会社の役員室なんて殆どが男性ですが、それは諸外国では異常な光景なんです。そういうところから変えていかないと」
保育施設を作るなどの、法整備を整えることももちろん大事だが、日本社会に存在する刷り込みを変え、意識を変える事が、時間もかかり1番難しいと話す。
そんな状況の中でも、女性が社会で輝くためのヒントを最後に教えてくれた。
「あくまで私の考えですが、女性が活躍するためには『女性らしさ』も否定しないこと。自分の強み、特性を生かして働くこと。もちろんこれは男性も同じだと思っています」