「CFO募集、ただし18歳以下」──。
株式会社ユーグレナが8月に新聞の全面広告で募集したCFO(Chief Future Officer=最高未来責任者)が10月7日に決まった。
選ばれたのは、東京都出身の17歳の高校2年生・小澤杏子さんだ。
東証1部に上場する企業の未来を担う経営幹部を新聞広告で公募するという前代未聞の試みだったが、約500の応募があった。
史上最年少のCFOに選ばれた小澤さんは、一体どんな人なのか?直接会って話を聞いた。
永田副社長 「未来を考える視点をもたらしてほしい」
同社はミドリムシなどの微細藻類に関する研究開発や商品販売など、様々な事業を展開している。
副社長の永田暁彦さんは、以前ハフポストの取材でCFOを18歳以下から募集する試みを実施した意図について、「これからの30年後、さらには50年後を担う主役は今の子どもたちなのだから、彼らの考えと真剣に向き合いたい、と考えました。そのような考えの中で、『子どもが参加しています』というイベントを単純に実施しようという話ではなく、18歳以下の子どもであっても、会社の1つの重要な機能とか、経済・社会活動の一部に入ってもらうことが良いと考えました」と語っていた。
日本では、企業経営の担い手の多くは50代後半〜60代が中心となっている中、「未来を考える視点をもたらしてほしい」と18歳以下のCFOの採用に大きな期待を寄せていた。
事前に課された論文課題と面接選考が評価され、CFOに選ばれたという小澤さん。得意科目は英語と生物で、部活動ではバスケットボールに打ち込んでいるという。
筆者が直接会ってみてまず率直に感じたのは、笑顔が素敵で、一見するとどこにでもいるような高校生という印象だった。
だが、いざ話を聞いてみると、彼女の芯の強さを感じた。
新CFOの小澤さん「実際に見てみるということをしないと始まらない」
──CFOに応募した動機は何だったんですか?
実は、ユーグレナ社の存在はテレビを通して元々知っていました。
基礎研究を形にして商品やサービスを提供しているというイメージでした。私も今通っている高校で「フラボノイドと腸内細菌の関係」というテーマで研究をしてきたので、最終的にそれを何らかの形に残せたらという思いがありました。
その道の大先輩となる研究者が大勢所属している会社がCFOを募集していると知って、ぜひ何らかの形で携わりたいと思ったのがきっかけです。例えば論文課題のテーマでもあったSDGsをはじめ、社会課題についても日頃から自分なりに色々と考えてみたり関心がありましたから...。
──例えば、どんな社会問題に関心があるんですか?
ユーグレナ社の活動と全く異なる話なんですけど、中学3年生の頃から授業を通じて原発問題に関心がありました。
高校生活では京都で2度ディベートをする機会があったし、実際に福島第一原発や北海道の稚内の廃棄物最終処分場も見に行きました。そして、見て感じたことを日本原子力学会の「atomoΣ」という学会誌に意見文を提出したりしました。
「原発」って言葉はよく聞くけど、私たち若者の世代で「これからの原発をどうするべきなの?」ということを考える時、やっぱり実際に見てみるということをしないと始まらないと感じたんです。
──リアルに触れることで、“じぶんごと”にするってことですか?
はい。研究でもそうです。実際に自分が研究をやってみたからこそ、ノーベル賞の受賞者が言っている「基礎研究が大事」とか「研究者が足りていない」とかそういう事柄が“じぶんごと”になると思うんですよね。
自身の研究にしても原発の視察にしても、知りたいという好奇心を実際に行動に移す力がある。話を聞いていて、彼女の目の奥にしっかりとした意志を感じた。
しばらく話を聞いたあと、筆者は思った。「ここまでは、ちょっと完璧すぎる」と。17歳の若者だ。ビジョンがしっかりしていても、どこかに弱さがあったりするのではないだろうか。
彼女の内面をより知るため、さらに率直な質問をぶつけてみた。
──挫折したとか、悲しい経験をしたことってありますか?
ありますね。私、親が転勤族なんです。
色んなところに転々と移り住み生活したので、幼馴染みと呼べる存在もいない。引越しの前に「ずっと親友だよね」って言われたはずなのに、じゃあ連絡をいまだに取っているかと聞かれれば、そうでなかったりして。
それがすごく悲しかったという時があります。
その影響もあってか、「人と100%分かり合えるなんて難しい」と私は思っていて。
だから例えば、グループ活動をしていてぶつかったりしたりもします。「なかなか人と全て分かり合えないことがある」という葛藤や小さな挫折感を日常生活の中で感じたりしてきました。
でも、きっと今後のCFOの活動では、未来に向けた事柄を真剣に議論することがあると思います。
その時には人の話をよく聞きつつ、でもある種割り切って1つの結論に導いていくとか、そういうことに経験を生かせたらいいなと思っています。
「法律に守られている身でだからこそ、逆に言えることがある」
今回のCFOの募集もそうだが、選挙権をはじめ、今の日本では「18歳以上・以下」で社会的な扱いが大きく分かれる。
“若者”と言われれば聞こえはいいが、一方で何かアクションを起こしても、所詮“子ども”がする事として括られてしまうことも少なくない。
小澤さん自身は、そのことをどう感じているのだろうか?
──「18歳以下」とくくられてしまうこと、正直どう思いますか?
18歳以下だから云々というよりかは、今の時代を生きている自分たちだからこそ物事を柔軟に考えられる視野があるかなとは思っています。
例えば、スマホやインターネットが無かった世界で生きてきた人たちしか見えない世界は確かにあるのかもしれませんが、その技術が当たり前のように使えて、かつそれらが無かった世界も知っている環境で生きてきたから私たちだからこそ、持てる視点はちゃんとあると思っています。
あとは、18歳以下は法律に守られている身だからこそ、逆に言えることや出来る行動があると思っています。
でも一方で、今回のCFO募集のように若い世代に責任あるポジションを任せてもらえるならば、自分の軸を変わらずきちんと保つことはより大切になってくるじゃないかなと感じます。
自分の発言したことが1年後も5年後も変わらずにブレないことが大事だと思っています。
小澤さんはユーグレナのCFOとして、2020年9月までの約1年の間、会社の未来に関わる意思決定などに関わるほか、株主総会にも何らかの形で参加を予定している。
最後に、CFOとしての目標と任期を終えた後に目指すビジョンを聞いた。
──CFOとして成し遂げたいことは何ですか?
このポジションを頂けたからには、それに見合った活動をしたいと思っています。そして活動を単にするのではなくて、形として結果に残して、社会に還元出来るような活動をするという事です。
課題論文にも書いたんですが、具体的には研究者支援の促進に取り組んでいきたいと思っています。
口先だけで「世界を救いたい」「貧困を無くしたい」というのは誰にでも言える。ただ今回は、そのために企業の一員として具体的に行動に移すことが出来るチャンスを頂けたと思って、一生懸命取り組んでいきたいと思っています。