「うちの子、とにかく落ち着きがなくて・・・」
「なんか周囲の子と比べて違う感じがする」
子どもの成長過程で親がふとした瞬間に「発達障害」と疑うことは決して珍しくはありません。小さな疑念の段階では相談もしづらく、なんとなく不安に思っているという方もいるでしょう。そこで発達障害・グレーゾーンの子ども支援活動を行っている野添絹子先生にお話を伺いました。3回にわたって、野添先生のインタビューをご紹介します。
今回の記事では
・発達障害を疑ったら、どうするべきか
・グレーゾーンとは何か
・発達障害、グレーゾーンと気づいた時、親ができることは
をまとめました。
第二回では、発達障害の疑いから将来への不安に対して、発達障害を持つお子さんにどう接するのが良いのか、そんなお子さんの側で頑張りすぎてしまいがちなママ・パパに対するアドバイスについてお伝えします。そして、さらに多くの親が不安視する「発達障害といじめについて」を第三回にまとめてご紹介します。
「ウチの子、もしかして発達障害?」と思ったら
編集部:小さいお子さんを持つお母さん・お父さんが子どもの行動や言動を見ていて「なんか、他の子とちょっと違う」と気づいたとき、病院へ行くほどでもなければ、どこへ行くべきかもわからない、行くべきなのかどうかもわからないし、と悩んでしまう人が多いようなんですね。もしお子さんを発達障害ではないか?と疑ったら、まず何をしたらよいのでしょうか?
野添「そうですね、お子さんが通っている保育園や幼稚園、小学校の先生に聞いてみるといいと思います。お子さんの日常を見ている人の客観的な意見が最も参考になりますから。例えば、自分はこう見えるんですけど、先生はどうでしょう?と聞いてみて下さい。特に小さいお子さんの場合、保育園や幼稚園の先生はその行動をよく見ているので、お母さんの方から相談をすれば、そういえば・・・と気づいていることを教えてくれると思います」
編集部:では、例えば保育園の先生の話を聞いて、ますます「もしかして?」と不安に思う、あるいはお母さんとしては気になるけれど病院へ行くとなると微妙だな、と迷っている段階ではどうでしょう?
野添「もし先生も、確かにそういう面もあるかも、という話であったなら、まぁ、あるいはお母さんご自身でやはりどうも気になるということであれば、次には自治体の支援センターですね。保健センターとか子ども発達支援センターとかになりますが、そこに問い合わせをしてみるといいと思います。無料ですし、多くの発達障害やそれに近いお子さんを見てきた専門家やアドバイザー(臨床心理士など)がいるでしょうから、色々なアドバイスや意見を頂けるはずです。ただし、地域によって、けっこう待たされることが多いです。大都市などでは、数か月待ちというところもあります。また、各地域にサポートグループもあります。有料になるでしょうが、こうした場所で相談する方法も選択肢のひとつですね」
グレーゾーンと発達障害の診断基準について
編集部:今、お話している発達障害かも?と疑っていることを「グレーゾーン」と言いますよね。ハッキリはしない状態なので、私たちはグレーゾーンとつい口にしていますが、そもそも発達障害のグレーゾーンとは、どういった段階のどのようなタイプを指すのでしょうか?
野添「医者や先生の間でも、正直、それぞれ意見は違います。私個人としては、診断を受ける前、診断を受けて発達障害と言われるまではグレーゾーンと考えています。もう少し詳しくお話すると、大きく2つに分けられると思います。
野添先生によるグレーゾーンの定義
1:診断基準を満たさず、生涯、診断を受けない軽レベル(素因を持つタイプ)
2:環境によって不適合が生じ、ある程度おとなになってから診断を受けるタイプ
ひとつ目は、発達障害の素質、もとから本人が持っているものはあるけれど軽度で、実際に診断を受けないままである場合のグレーゾーンです。いろいろ気になる面はあるけれど 、診断基準を満たすレベルではなく、実際にそれで小さな「生きにくさ」みたいなものがあっても、やっていける、あるいは家族のサポートで成長していくケースです。発達障害の症状が発現(実際にあらわれる)するのには環境も影響します。
ふたつめですが、例えば幼い時というのは、どの子も落ち着きがないですし、子ども同士で相手の心を読むような深い会話をしているわけではないです。LDの場合でも、学ぶことに抽象的な思考が要求される10歳前後までは勉強の遅れはさほど目立たない。親がきちんと接していたら、あんまり出ない、発達障害だとわからないことも多いのです。ただ、年齢が上がるにつれて、だいたい思春期以降になると、周囲との違いが明確になり、そこで色々な問題が大きくなり診断を受けて、発達障害とされるケースもよくあります。でも、この診断を受けるまでは、私としてはグレーゾーンだと認識しています。
グレーゾーンという言葉を使うならば、発達障害と診断されていない状態を指す、というのが、私の見解になりますね」
編集部:では、発達障害という診断はどうやってだされるのでしょう?
野添「行動の特徴によって診断がなされているのが現状です。例えばですが、血糖値を調べて、それが決まった数値以上だから、あなたは○○という病気です、とはいかないのが発達障害の診断なんです。これまでの成長ステップ、主訴(医者に訴える症状の中心的なもの、一番親が大変に思ってること)を聞いた上で、子どもの行動を観察して診断をします。でも一度で判断できないことがほとんどですし、そのため様子を見ましょうという状態もよくあり、これも診断がついていないわけですから、グレーゾーンですね」
編集部:グレーゾーンは発達障害の素因はあるけれど、確定はできない状態なんですね。
野添「そうです、診断名がつかない以前はすべてグレーゾーンです。それと難しいのが、発達障害というのは併発するケースが多い点です。ASD、ADHD、LDの3つが代表的です。単独でADHDというのは少ないくらいです」
ASD・ADHD・LDとは
●ASD :自閉症スペクトラム、アスペルガー症候群(コミュニケーションの欠落、偏りがある・こだわりすぎる行動、社会的な交流が苦手、いわゆるKY)
●ADHD:注意欠如・多動症(集中できない、落ち着きがない、極端に忘れ物が多かったり、衝動的な行動をとる、逆にぼーっとしている。)
●LD :学習障害(得意不得意の差が大きい、知的な発達に遅れはないが、読み書きなどの学習能力の何かひとつが著しく困難、苦手)
発達障害を疑う症状に対して自宅でできるトレーニングはあるのか?
編集部:発達障害を疑うような症状が5~6歳の時点で出てきた場合、状況が軽減するような方法はあるのでしょうか?
野添「発達障害の様々な症状は、認知特性であり、私はよく〝脳のクセ〟と表現します。病気と障がいの違いがあって、病気は治療で完治もしますが、障がいは一生涯続くものなんです。発達障害の場合、環境が整えば軽くなることはありますが、医療の世界ではそれが完治するとは言いません。ただ、よく親御さんにこの話をすると〝治らないなんて言い方をして〟とおっしゃるのですが、やっぱり、それは脳のクセなので、そのまま受け止めてあげて欲しいと思います」
編集部:例えば、ある種のトレーニングなどを受ければ治るということはない?
野添「トレーニングで治るのなら、障がいではありません。例えばASDのお子さんはよく〝こだわりが強い〟と言われますが、コミュニケーション能力の問題も含まれています。相手の気持ちが読めないというか、場違いな発言をしてしまう、などがメインになるんですが、これを治すというのは難しいですね。
この話をするとお母さんは絶望的な表情をなさいます。でもわたしはそこで〝あるがままに受け止めましょう〟と声をかけています。極端な例ですが、手がない人に「それ取って」とは言いません。同じように、脳のクセなのですから、それを無理矢理治すことはできない、治すという考え方自体がちょっと違うんです。
だからこそ、私は無理をさせずにいること、と伝えます。その子のあるがままを受け止めてあげて、すっぽり受け入れてあげるということが、親としては大事だと思っています。発達障害を〝治す〟のではなく、生活をラクにする、楽しく過ごせるようにしようと考えて欲しいなと思います」
編集部:先生はアミクスという教室を開いていらっしゃいますが、そこではいわゆる訓練というのは行っていないということでしょうか?
野添「アミクスでは、例えばこだわりをなくすといった事はしていません。そもそも、できません。発達障害の中でも対処できること、できないことがあるので、できることに関しては改善するためのサポートを最大限します。訓練することが大事なのではなく、寄り添って理解すること、受け入れてあげること、なおかつ対処できることがあればひとつずつ対処していく、ということですね
私が最初に障害だから治らないと言ったのは、だからどうしようもない、というのでは決してありません。ただ、治療をすれば完治するといった病気ではないのだ、ということを理解した上で、対処していく必要があるということです」
編集部:家庭でできるサポートはサポートとして行う?
野添「それぞれ個々に症状が違うので簡単には言えないのですが、それでも共通してやったほうがいいなと思うことはいくつかあります。まず、ワーキングメモリーをきたえることですね」
編集部:ワーキングメモリーとは何ですか?
野添「脳に一時的に情報をプールしながら作業を同時にする記憶を言うんですね。そうですね、簡単に言えば、今話をしながらメモをとっていますよね? これは2つのことを同時にする作業です。このワーキングメモリーが育つように鍛える感じです。例えばお使いを頼むとしたら、メモを持たせないであえて3つか4つを頼んで全部できたかどうかを確認するとか。脳の中に情報が多く、そして長くプールできるように経験を積ませてあげます。
それから感情移入というか、相手の気持ちを理解しようとする体験を積ませること。ASDのお子さんは、相手の感情を理解しづらい特徴があります。一生涯、対人的なことで悩み続けることも多く、社会人になっても周囲とうまくやっていくことができないために苦労する部分があります。それはコミュニケーション能力ですから、相手の気持ちを少しでも学ばせてあげることによって、障害の程度によっては経験値が増えて改善することはあります。
具体的には、アニメを見ながら「あの子どうして泣いているんだと思う?」と聞いてみる。なんで泣いているんだろう、どうしてあんな風になったんだろう、とアニメを見ながら会話をする中で、その子の状況把握や感情理解の状態がわかります。わかれば、どうサポートすればいいのかもある程度見えてきます。
あとはスケジュール管理が苦手な子も多いので、1日とか1週間の予定を紙に書いて貼っておく。すぐ目につくところに貼って、それを見てひとりでちゃんとできるように導いてあげる。こうすることで、発達障害のお子さんも何をしなくてはいけないかが明確にわかり、明確にわかれば行うことができる、これはスケジュール管理の能力がつくというより、管理しやすいようにしてあげれば出来るようになるということです。
編集部:サポートすることによって、生活が楽になる、楽しくなるという先生がおっしゃっていることに繋がるわけですね。
野添「そうなんです、他にも、学校で先生が〝はい、時間です、終わりましょう〟といっても終われないお子さんもいます。これも家庭で時間を区切って、次にはこれをやろうね、と切り替えができるようにサポートしてあげれば、学校生活で本人が少しずつ適応していくという面はあると思います。訓練というより、経験値を増やしてあげる、外で困らないための工夫ですね。発達障害やグレーゾーンのお子さんも生きにくい生活から、少しでも生活自体がラクに感じられる、楽しい日々になるように、おうちでも意識して、経験値をあげる工夫をしてあげるといいと思います」
編集部:大変よくわかりました。
引き続き、第二回は「発達障害グレーゾーンの子と共にどう歩むべきか」野添先生のお話を紹介いたしますので、ぜひそちらの記事も参考になさって下さい。
<専門家PROFILE>
アミクス 代表 野添絹子さん教育学・神経心理学・認知心理学・英語教育を専門とし、発達障害の子どもとグレーゾーンの子ども支援活動を幅広く行う。また、相模女子大、国立看護大学校、国立病院機構、放送大学非常勤講師でもあり、「発達障害・グレーゾーン」のお子さんたちとその両親へのサポートを行う「アミクス発達支援プログラム教室」の代表でもある。著書に『子どもの才能チェックBOOK』(小学館)他。
(2019年2月27日BRAVA掲載記事「【専門家インタビュー】発達障害「グレーゾーン」って?親が子供にできるサポートとは?」より転載)