9月1日は「防災の日」。みなさんのご家庭では、普段からどのような防災対策をしているでしょうか。近年の度重なる地震・豪雨・大型台風がきっかけで、防災について改めて考えたり、見直したりするという方もいることでしょう。
パパやママであれば、「防災」についてまず真先に我が子の安全や身の守り方について考えるかもしれません。当然のことながら、家庭によって構成人数や子供の年齢によって「防災」対策や、用意する防災グッズの種類や量にも違いがありますし、日頃から家族でコミュニケーションを取っておくことも重要ですよね。
今回は、日常生活の中で防災対策を行う「アクティブ防災」を子育てママたちを中心に発信しているNPO法人ママプラグ理事の富川万美さんにインタビュー。自分たちにベストな防災について伺ってみました。
東日本大震災で避難したママとの出会いが「アクティブ防災」の始まりだった
編集部:私も『ママプラグ』のサイトを見まして、共感できた部分があったのでSNSをフォローさせていただきました。『ママプラグ』の活動を立ち上げた、きっかけを詳しく教えていただけないでしょか。
冨川万美さん(以下、敬称略。冨川):きっかけは、LAXICみたいに、もともとママたちの新たなキャリアをつないだり、お母さんの子供のために育児がより楽しくできるプロジェクトを立ち上げたり…… と、「ママを楽しくする」といった団体で色々と活動をしていました。そんなこんなで、レシピ本の出版や商品開発に携わってきました。
そのような活動をしている矢先に、東日本大震災が起きて、今小学5年の上の子が当時3歳なるかならないかくらいでした。私自身、「何かをやりたい」、「ボランティアに行きたい」という気持ちはありましたが、物理的に子供を抱えてボランティアすることが難しいという現状でした。
そんな状況でも仲間で「自分たちに何ができるのか」ということを考えたときに、ちょうど関東は(被災地からの)母子避難が多いという話を聞きました。このような親子が、急に生活を変えて、今まで住んでいた地を離れ、東京や神奈川で避難生活をしているということって、もの凄く大変だし不安ではないかと思いました。
そこで母子避難をしているママたちの力となり、少しでも情報交換や共有できる場を設けたい…… と思いました。ただ、人を集めるだけでは集まらないので、「お仕事ワークショップ」をスタートしました。みんなでミニトートバッグを作って、それをネットで販売し、その収益をアルバイト代としてみんなで還元するスタイルにしました。
プロジェクト自体の立ち上げまで、個人情報の関係などもあり、準備期間に半年かかり、初回の2011年の9月にワークショップをスタートしました。15名くらいの避難中の母親と一緒にワークショップを実施しました。作業するワークショップということもあり、同じ部屋に小さな子供がいると作業が進まないと思い、保育士さんを呼び、隣の部屋で保育ルームを設けました。
子供と離れ、会議室で黙々と作業をしているときに、参加したメンバーの一人の母親が突然号泣してしまいました。その方は「震災から6ヶ月を経過して、(このワークショップの参加で)初めて子どもと離れました。急に大きな地震があってどうしようという思いを抱き上京し色んな生活を強いられていく中で、我が子に『怖い』という姿を見せたくなかった」と話していました。
そして、「必死に怖くない、怖くないと言ってきたけど、やはり怖かった」という話を聞きました。ほかの避難中の母親たちも「自分もそうだった」という声が多くって…… 子供と離れた場であるワークショップをそんな母親たちの全ての「感情=思い」を言える場にしようと思い、「怖かった」、「大変だった」などを言える場にしました。そこで怖かった話がたくさん挙がり、みんなが口を揃えて言っていたのが「日頃の備えって凄く大事だよね」ということでした。
その体験談って、テレビ取り上げられている「復興」とは真逆で、避難している母親たちの現実的な声も心も追いついていなくて…… 避難中の母親たちが大事だと思っている「日頃の備え」とうことを、もっと聞いてみようかと思いました。
被災地のリアルな声が、「子連れ防災手帖」の発行につながる
冨川:震災当時の自分は、防災のこともしてないし、自分の幼い子供を守るために何か特別なこともしていませんでした。それと同時に、自分を含め、「防災」の知識を多くの人が持っていないこともあり、まずは母親たちのリアルな声をとにかく必死に集めて、それを世に届けようと思いました。800人以上の母親たちにアンケートを実施し、現地での直接取材も行いました。
アンケートや取材をまとめた内容が『被災ママ812人が作った子連れ防災手帖』です。それをリリースしてから「大事なはずの防災が、なぜ進まないのか」「どのようにしたら防災が進むのか」ということを考えているのが、今の事業「アクティブ防災」の始まりです。
編集部:なるほど。そういうきっかけがあったのですね。震災の時に私の息子が、幼稚園を卒園し、小学校へ入学したばかり。余震のこともあり、(母である自分が)通学も同伴していました。子供がいるからこそ「防災って何だろう」と思いますよね。
『被災ママ812人が作った子連れ防災手帖(以下、防災手帖)』を作るまでの期間はどのくらいだったのですか?
冨川:防災手帖をすぐリリースしないと意味がないと思ったので、頑張って約1年で出し、2012年3月11日にリリースしました。
編集部:結構、急ピッチですね。
冨川:本当に急ピッチでした。800人以上の母親たちにアンケートを実施し、直接、色々と聞きまくりました。そして、現地の方にアンケートをばらまいてもらいました。2011年の震災当時、内閣府が発信している防災マニュアルはありましたが、「子育てママ×女性」の防災の情報が少ない状態で、手薄でした。そこで、あえて子育て層に焦点を置いた防災の情報を発信していこうと思いました。
編集部:子供の命や防災って、母親がやっぱり一番関わるものですよね。私もこの類の情報は少ないと感じていました。確かに、ティッシュやおむつを多めに入れることぐらいしかなかったと思います。
冨川:震災当時の防災の運営が男性だったこともあり、やはり女性の視点が足りないと思いました。マニュアル類も男性目線で書いていることも多く、「(女性に対しての防災項目として)ヒールを履いていて大変だったらヒール部分を折って動きましょう」という内容もありました…… さすがにこの点については変更する余地が多くあると思いました。
編集部:乳幼児を持つ母親は、子供自身が自分でできないことが多い分、防災のことを知りたいと思います。ところで、防災手帖のインフォーメーションはどのようにしたのでしょうか。
冨川:防災手帖のインフォーメーションは、Twitterや口コミで発信しました。自分自身、もともとメディアの付き合いがあったので、これまでの人脈をすごく使いました。あと、地方新聞社や通信社から防災手帳の情報が、ジワリと広がりました。
時代の流れとともに「子連れ防災手帖」も変化
編集部:2012年に発行した防災手帖ですが、既に7年が経過しています。その間に内容の改訂はしていますか?
冨川:はい。2019年3月に改訂版(タイトル:『全災害対応!子連れ防災BOOK 1223人の被災ママパパと作りました』)をオールリニューアルしました。
編集部:最初にリリースしたものと、改訂版のものとの大きな違いと変更点は?
冨川:防災手帖の内容のメインは、東日本大震災。あれから7年経過し、豪雨や大型台風といった地震以外の災害が相次いで起きています。地震だけの情報のみだけでなく、あらゆる災害に対応した情報が必要とされています。あとは、デジタルやSNSの普及が7年前よりも違うので、母親たちがリアルに使える情報がなくなっています。デジタルの重要性も伝えたくて、書き直しました。
編集部:実際に読んだ方や実践した方の反響はいかがですか。
冨川:日々育児をしていると、てんやわんやです。そんな中、防災や災害のことを「別物」として考えることは大変なこと。つまり「+α」のことを考えることを強いられると母親にとって負担がかかります。だからこそ「防災」が、日常生活に組み込まれているのが望ましいと思っています。食事にしても普通にスーパーやコンビニで売っているものを調達。
そして、日常的に使える情報を提供することで、防災に対するハードルを低くして、壁がなくなるようにしています。「それでいいよ」ということを思わせると、みんながアクションを起こすきっかけになると思います。
編集部:実は、私もわざわざ防災グッズを用意するのが好きでなく、買い物のついでに一緒に調達します。ティッシュが多めにあったら、荷物に入れるようにしていますが、冨川さんはいかがですか?
冨川:あえて部屋のインテリアを防災向けにしたり、わざわざ非常食を買ったりする必要はありません。「防災をやっている」というと、すごく頑張っている人、というイメージもありますが、「やっていて当たり前」ということが普通になればいいのでは、と思います。
家族の人数や子どもの年齢によって、必要な防災グッズも数にも違いがあります。だからこそ、家族のニーズや我が子の「今」の状況とマッチした「オーダーメイドの防災対策」が重要であり、必要です。わざわざ防災セットや非常食を買う必要性はありません。つまり、買い物ついでに防災グッズも一緒に買うといった日常生活の延長として防災準備を進め、自分たちにとって苦にならないやり方を見つけてほしいです。あくまでも「暮らしの中のアイデア」として防災について伝えています。
時代が流れても地域社会における人とのつながりは大事なこと
編集部:「防災」の活動にもリズムができてきたかと思いますが、AIなどで防災事情も今後変わってくるかと思います。これからのビジョンにおいて何か考えていることってありますか?
冨川:時代が流れても普遍的に変わらないだろうと思うのが、人と人とのつながりです。「つながること」は、すごく大事なことだと思います。デジタル化社会が進むと個々のつながりが限られたものとなりますが、「地域や異世代の交流を意識する=人とつながる」ことが、地域社会の一員であることを認識することが大切です。
そして、「防災」の次のフェーズとして、安全に避難できる上で行政のバックアップが必要だと思っています。ただし、大きなサポート体制があってもそれに頼り切らず、一人ひとりが「自助力」を上げることもとても必要です。今後、そんなムーブメントが、ごく当たり前の行動として定着すると良いと思っています。
インタビューの中で、冨川さんは、防災グッズの準備にあたり、旅行準備と同じ要領で行うと良いというインパクトのあるアドバイスがありました。旅行と防災は、一見、共通点がなさそうに見えますが、必要最低限のものを揃える点においては一緒です。防災グッズで何を揃えるがわからないときは、旅行で準備するグッズを頭の中で整理すると、何が必要か洗い出されることでしょう。
防災は、家族のニーズに合った日々の備えが大事。「防災の日」にあたり、家族で防災について考えてみてはいかがでしょうか。
文・インタビュー:小田るみ子
(この記事は2019年9月1日LAXIC掲載記事『防災対策は人それぞれに違いあり、だからこそ日常生活で「オーダーメイド防災」で最適な備えを』より転載しました)