あいちトリエンナーレ2019の企画展「表現の不自由展・その後」が脅迫や批判の電話の殺到で展示中止になっている問題で、参加作家の一人、高山明さんは6日、「Jアートコールセンター」を始めると発表した。開始は8日からの予定だという。
作家らが参加して6日に行われたあいちトリエンナーレの企画、「あいちトリエンナーレ2019国際フォーラム 『情の時代』における表現の自由と芸術」の中で発表された。
高山さんによると、「コールセンター」の会社を設立し、電話を受ける場所も既に確保した。センターは、会期が終わる14日まで運営され、事前に講習を受けた30人以上のアーティストやキュレーターが抗議の電話に直接応対する。
また、今後、あいちトリエンナーレ事務局に電話をかけると、事前の自動音声でこのコールセンターの電話番号がアナウンスされるという。
今回の展示中止の背景には、電凸と呼ばれる電話での抗議が殺到したことがあった。
芸術監督の津田大介さんは、中止した理由の一つとして、市民からの抗議を受けつづけなくてはいけない県の職員らが疲弊し、業務に支障が出ていることを挙げていた。5日のフォーラムで津田さんは、「匿名の群衆から『あいちトリエンナーレ』への抑圧」があったと話していた。
「職員が大変な状況と聞いて、アーティストが受けようじゃないか、というナイーブな感情からスタートした」と高山さん。
このプロジェクトの目的の一つとして「公共サービスのマニュアルを更新したい」と語った。そこで、弁護士もプロジェクトに参加し、電話を受けることについて法的な根拠も含めて検討するという。
また、対話の可能性を探ることももう一つの目的だという。
電話という「パブリックとプライベートの中間的な存在」を利用し、「自分の意見を言いたい方に、アーティスト自らが答える。その中で、相互理解の可能性、対話の可能性を探したい。言葉や声にならない声をできるだけ丁寧に扱い、分断ではなく共同で何かをしていくことにかけたい」と高山さんは語った。
この計画を受けて、総合司会の林道郎さん(上智大教授)は、「電話応対は、過剰サービスが蔓延した(日本)社会の象徴という感じがする」とコメント。過去に日本の現状を知ったハーバード大教授から「丁寧すぎることは恐怖だ」という意見を聞いたことを思い出したとした。
「日本は他人に迷惑をかけることを過剰に『ダメ』とみなす社会。今回にようにテロや暴力があった際にも、トリエンナーレ側が責められる。本来責められるべきはテロや暴力をした人なのに、そうした精神的なインフラがない」と語った。
高山さんは、この問題を受けて33人のトリエンナーレ参加アーティストが設立した新プロジェクト「ReFreedom_Aichi」のメンバーの一人。
プロジェクトでは、トリエンナーレの枠を超えて広く「表現の自由」を取り戻すための協働を呼びかけており、アートユニット「キュンチョメ」が中心となった「#YOurFreedom」プロジェクトなどは既に始まっている。