【あいちトリエンナーレ】津田大介氏の思い「感情の対立を“情け”で乗り越えられるか」

「人間は好き嫌いよりも前に、目の前に苦しんでいる人がいたらつい手を差し伸べてしまう、助けてしまう。そういう機能が人間に備わっていることが、社会を作っている」
津田大介さん
津田大介さん
Yuriko Izutani / Huffpost Japan

国際芸術祭「あいちトリエンナーレ2019」も残り8日。10月6日には前日に続いて、津田大介芸術監督や作家らが参加する国際フォーラムが開かれた。

「僕自身は美術の専門家ではないけれど、ジャーナリストとしてジャーナリズムをどのように芸術祭に持ち込めるのか(に関心があった)。その観点から特にこだわりたかったのが、感情の問題でもある分断や差別、ジェンダーの問題。あるいは、表現の自由や検閲の問題」

前日はほとんど発言しなかった津田さんは、この日はトップバッターで約18分間のプレゼンを行い、トリエンナーレへの思いを率直に語った。

「世界を対立軸で解釈するのでなく、直感に訴えるアートの力、“情け” にフューチャーする芸術祭にしたかった」

 津田さんはまず、今回のトリエンナーレのテーマとなった「情の時代」に込めた思いを説明した。

芸術監督を引き受けた2017年6月。世界に目を向ければ、アメリカではトランプ政権が誕生し、イギリスでは欧州連合離脱を巡り喧々諤々していた時期だった。

「理性と感情があって、理性的に考えれば取るべきではない判断を、理性よりも感情が優先してしまう。そんな事象が政治や外交で世界中で起きていた。どうやら、人類は感情に揺さぶられる、感情の時代だと…。では、なぜそんなに感情的になるんだろう、と考えると、我々はニュースを見て怒ったり悲しんだりしている。情報によって感情的になっている」

「感情」と「情報」。この二つの言葉に共通する「情」という漢字に着目した津田さんが語源を調べてみると、「情」には、「感情」「情報」「情け」という三つの意味があった。

「1番は主観、2番は客観。そして3番は、主観を超えた感情です。人間は好き嫌いよりも前に、目の前に苦しんでいる人がいたらつい手を差し伸べてしまう、助けてしまう。そういう機能が人間に備わっていることが、社会を作っている。面白いと思いました」 

国際フォーラムでプレゼンする津田大介さん
国際フォーラムでプレゼンする津田大介さん
Kasane Nakamura/Huffpost Japan

テーマは「情の時代」と決まった後、頭を悩ませたのは英訳だったという。津田さんが思いついたのは、「Passion」だった。

「Passionにはキリストの受難という意味がある。そこから『Passive=受動』という意味が生まれた。受動で心が変化するという意味で、『情熱』という意味も出てきた」

「情け」に当たる英語は「Compassion」だが、ここにも「Passion」の文字があった。

「情報によって煽られた感情に翻弄された人々が世界中で分断を起こしている。この状況に対してアートがどう応答できるのか。世界を対立軸で解釈するのではなく、直感に訴えるアートの力、“情け” にフューチャーしていくことが芸術祭でできないか、と考えました」

「生きた、稀有なトリエンナーレになった」

あいちトリエンナーレ2019は、企画展「表現の不自由展・その後」が炎上して脅迫や抗議の電話が殺到するなどし、同企画展は開幕3日目に中止が決まった。

以来、参加アーティストたちが連名や個人で抗議声明を発表。自らの作品の展示内容を変更したり封鎖したりして抗議の意思を示すなど、トリエンナーレの内容自体が刻々と変化してきた。

「表現の不自由展」の展示室の様子も変化している。表現の不自由展が中止された後、展示室の扉は固く閉ざされ、不自由展に参加した作家たちの抗議声明が扉に貼り出されていた。

その後、「ReFreedom_Aichi」によるプロジェクト「#YOurFreedom」が始まると、それぞれが自由を奪われたり抑圧されたりしたと感じた経験を記入したカードが扉に貼られていった。

ピンクやパープルのカラフルなカードに記入されたそれぞれの「不自由」で、扉が埋め尽くされている。熱心にカードの言葉を読む観覧者が多い。

扉だけでは貼りきれず、片側の扉が開いている。展示スペースの手前には仕切りが置かれ、中の様子を見ることはできないが、その仕切りにもたくさんのカードが貼られている。

時間の経過とともに展示内容やトリエンナーレを取り巻く状況が変化している状況について、津田さんは国際フォーラムで「ある種、生きたトリエンナーレになっている」と語った。

「あるアーティストが言っていたけれど、『通常は固定された現代美術が、あいちトリエンナーレを舞台としたパフォーミングアーツの場所に変わっていった』と。『情の時代』というテーマに応答して、このトリエンナーレという舞台でどう行動するのか、アーティスト一人一人が問われている。稀有なトリエンナーレになっていると思います」

「8日の再開は5分5分」

10月8日の「表現の不自由展」再開の可能性について、津田さんは「五分五分」と言及した。

トリエンナーレの実行委員会長を務める大村秀章・愛知県知事は9月30日に「6〜8日に再開」と語ったが、6日の再開はならず、7日は休館日。津田さんは「8日再開に向けて最後の協議中」としたうえで、次のように述べた。

「もう少しで妥結ができるお互いのラインは見えているが、その中で譲れない一線というのがあって、実際に妥結できるかはまだ予断を許さない状況だ。僕もそこの交渉を見守るしかない。やはり感情のもつれみたいなものが中止から今に至るまでたくさんある状況の中で、感情の対立を情けで乗り越えられるかどうかがトリエンナーレ全体としても問われているのではないか」

さらに、「参加作家の中には8日に再開されなければボイコットすると言っている人もいる。8日に再開できなければ、トリエンナーレ自体が8日で空中分解してしまう可能性もある」と危機感を示した。

◇「 #表現のこれから 」を考えます◇

「伝える」が、バズるに負けている。ネットが広まって20年。丁寧な意見より、大量に拡散される「バズ」が力を持ちすぎている。 

あいちトリエンナーレ2019の「電凸」も、文化庁の補助金のとりやめも、気軽なリツイートのように、あっけなく行われた。

「伝える」は誰かを傷つけ、「ヘイト」にもなり得る。どうすれば表現はより自由になるのか。

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