ラグビーワールドカップ、外国人のみタトゥー入浴認めた銭湯に営業妨害。電話で「潰すぞ」と言われた店主の苦悩

タトゥーをめぐり、「狭間」の立場に置かれている銭湯経営者に話を聞いた。

開幕から日本の2連勝で更なる盛り上がりをみせるラグビーW杯。

今大会は地方都市でも試合が開催されており、10月6日と13日には熊本市で2試合が行われるが、それを前に熊本県内にある銭湯が「潰すぞ」などと脅しとも取れる内容の電話を受け、営業を妨害されるような事態となっている。

W杯開幕前から様々な意見が寄せられ、それぞれの国の文化や認識の違いによって物議を醸す“タトゥー入浴”。

営業妨害のような行為を受けたという同銭湯を経営する店主に話を聞いた──。

タトゥー入浴のイメージ画像
タトゥー入浴のイメージ画像
EnjoyOnsen

営業妨害のような電話を受けたのは、熊本県内にある銭湯。

2016年4月の熊本地震で被災し一時休業していたが、2017年に営業を再開。創業80年を超える、地元の人に愛される老舗銭湯だ。

「店を潰すぞ」などの暴言を電話で受けた理由について、同銭湯の店主は、W杯期間中に外国人のみタトゥーでの入浴を認めるという対応をとったことへの批判だろうと話す。

電話は、この対応を取り上げた地元新聞社などの記事が配信された9月26日ごろから連日続いたという。店主は警察にも相談した。

同銭湯では元々、外国人に関わらず体に刺青やタトゥーの入った人の入浴は禁止していた。しかし、ラグビーW杯の開催にあたり、観戦目的で訪れる外国人にはタトゥーが入った人の数も多いと予測し、行政とのコラボの一環として解禁に至った。

店主は、W杯期間中に限りタトゥーの入った外国人の入浴を認める対応について、「おもてなしが一番の理由」だと語る。タトゥーのある外国人にはステッカーでタトゥーを隠してもらった上で、入浴を認める。一方で、日本人については従来通り、タトゥーが入っている場合は入浴を認めていない。

筆者が熊本県と同様にラグビーW杯の試合会場となる府県の温泉施設を取材したところ、愛知県にある「ホテル金泉閣」は期間中に限り認め、大阪府の空庭温泉では、シールでタトゥーを隠すことを条件に入浴を認めている。

銭湯のイメージ画像
銭湯のイメージ画像
NurPhoto via Getty Images

「タトゥー入浴は地域によっては簡単に受け入れられない側面がある」

タトゥーの入った外国人の入浴は認めるものの日本人の入浴は認めないという対応には、どのような意図があるのか。店主に聞いた。

店主は第一に「日本人と外国人への対応の違いに、差別をする意図は全くありません」と主張する。

続けてタトゥーについては、「互いの国の文化的・歴史的な見方から、タトゥーそのものへの解釈が日本と諸外国で大きく異なることはもちろん認識しています。日本では反社会的勢力を連想させるものも一部あるし、外国人にとってはファッションの一部だということも理解しています。それにもちろん、日本人でも刺青を入れた人が必ずしも反社会的な勢力と結びつくなんて風にも思っていません」と話す。

ではなぜ、タトゥーのある日本人の入浴は認めないのか?店主は「タトゥーを受け入れないことは、多様性を排除することに繋がるという認識はある」とした上で、事情をこのように語る。

「ただ、タトゥー入浴は、地域によっては簡単に受け入れられない側面があります。例えば自分の店であれば、常連さんから刺青の入った人と入るのが“怖い”との声があったんです。『もう二度と来ません』と言われたこともありました。我々としては、みんなが安心できる環境で入浴して頂きたい。もし仮に一部の人でも怖くて入れないという人がいるのであれば、それにはきちんと配慮したいんです」と、常連客への配慮について言及した。

店主は、「タトゥーでの入浴を積極的に許可すれば、常連客が離れてしまう懸念があり、一度受け入れた店舗にのみ、体にタトゥーの入った入浴希望者が集中してしまうことになる。すると客層のバランスも変わってしまう」と危惧する。

地域に根ざした銭湯としては、経営を支える馴染みの客を失うことは決して望ましくないというのが実情だという。

ラグビーW杯が終わると2020年には東京オリンピック・パラリンピックが待っているが、現時点では東京五輪の期間中はタトゥーが体に入っている外国人の入浴を認める考えはないという。

注目記事