練習や大会本番での事故が相次ぎ、実施の是非が議論となっている組体操について、久元喜造神戸市長がツイッターで教育委員会の対応を批判し、廃止を訴えた。
春や秋の運動会シーズン、全国の小中学校を中心に行われる組体操。
文部科学省は7月5日、学校体育での事故防止に関する書面を発表し、高い危険な技を避けることや安全な状態で実施できない場合には実施を見合わせるよう呼びかけている。
神戸市長「組体操、やめる勇気持って」
久元喜造神戸市長は組体操について、8月から9月にかけ連日ツイッターを更新。教育委員会の対応を批判した。
神戸市の発表によれば、2019年秋の運動会シーズンで組体操での骨折などの負傷を含む事故は、9月19日時点で33件。なお、運動会・体育大会の当日に発生した事故はないという。
神戸市は2016年、5つの項目で構成される体操事故防止に向けたガイドラインを策定。演技内容については次のような言及があるものの、組体操を実施する意図や目的は記載されていない。
・ピラミッドやタワーは、重篤なけがにつながる巨大化や高層化を避け、立体ピラミッドは実施しない。平面ピラミッドは4段、タワーは3段までとする。また、タワーを実施する際は補助者を最低4名つける等、安全面に十分配慮する。
・演技内容は、過去の実践との比較・競争で決めるのではなく、運動経験等、児童生徒の実態に応じて決定する。
・指導は一人技から始め、段階的に二人技・三人技…へと人数を増やしていく構成とするとともに、練習の状況などを見て柔軟に技の変更や中止を検討する。
・指示の聞き方など、指導場面で守らせるべき約束事を徹底する。
・難易度の高い技については、児童生徒の発達段階(体力・体格)等を考慮し、安全面に十分気をつけて実施する。
日体大教授「タワーピラミッドなどは論外」
長年に渡り、運動会の”目玉競技”とされてきた組体操。実施については賛否両論ある。
毎年多くの負傷事故が起きているが、国が定める学習指導要領には実施判断についての記載はなく、その判断は各自治体に委ねられているのが現状だ。
安全上、組体操は廃止されるべきなのか?日本体育大学教授で、国際体操連盟の役員として、体操の普及と指導員の養成などを行っている荒木達雄氏に聞いた。
荒木氏は、事故が相次ぎ廃止を求める声が上がっていることについて、「組体操には安全な技も多いので、全てを否定されているのは残念」とした上で、「危険性のある組技は排除し、子供たちが安全に楽しめる範囲で実施するべき」と廃止については否定的な考えを示した。
一方、タワーやピラミッドなどの大技については、「高度のタワーピラミッドなどは論外です。事故も起こりやすいので、廃止している自治体も多いです。これらについては、『高いタワーを作ったから達成感がある』という認識はやめてほしい。そのような考えは、改めた方が良いと思います」と認識を改める必要性について言及した。
また、事故の危険性は必ずしも技の完成時の高さではないと指摘。「タワーやピラミッドが注目されがちですが、例えばサボテンなど2人から3人で行う技でも骨折などの事故があるので、『高いから危険・低いから安全』というわけではありません」と語った。
実施する際には、学校の教職員など、現場で監督する立場の者が正しく理解していることが不可欠だという。
何を学べる?組体操をやる本当の意味とは──。
事故のリスクがある中、組体操が運動会の競技として存続する意味はどこにあるのだろうか?荒木氏はこのように話す。
組体操の意義は、手を貸し合って1つの形を造ることで信頼関係の大切さを学ぶことにあります。
そしてもう1つは、実は『造形美や創造美』を学ぶという側面があります。
大きな技の失敗による事故ばかりがクローズアップされがちですが、派手でなくとも正しい姿勢が保たれた組技を学ぶ意義はあるのです。
この秋も組体操をこれから実施する学校は、派手さを競うのではなく本来の意義を見失わないで欲しい。