文化庁の補助金不交付、アーティストから嘆きの声 「日本では自由な表現ができない」

「正直、個人的には、自由な表現ができない日本ではもう芸術活動は続けられないなとも考えます。でも、私は日本人で、母国に対しての愛着もある。何かできることがないか…」。こう語ったアーティストもいました。
揺れる「あいちトリエンナーレ2019」
揺れる「あいちトリエンナーレ2019」
Reuters/Huffpost Japan

「表現の不自由展・その後」をめぐって次々と急展開を見せる「あいちトリエンナーレ2019」。8月1日から10月14日までの会期も残り19日だが、ここに至って文化庁が採択を決めていた補助金約7800万円を全額を交付しないと発表した。

文化庁によると、「来場者を含め、展示会場の安全や事業の円滑な運営を脅かすような重大な事実を認識していたにもかかわらず、それらの事実を申告することがなかった」として、補助金適正化法を根拠に全額不交付を決めたという。

不自由展の中止が決まった際、「深い悲しみと恐怖を感じる」と話していた現代アーティストは「中国共産党の検閲や抑圧と変わらない」と怒りを見せた。

「官邸に忖度する文化って?」

萩生田光一・文科相は、不交付の理由は展示内容ではなく手続きの不備だと強調。「別に検閲には当たらないと思います」と述べた。

だが、菅義偉官房長官が8月2日の閣議後会見で「審査時点では具体的な展示内容の記載はなかった」「補助金交付の決定にあたっては、事実関係を確認、精査して適切に対応したい」などと述べた経緯もある。

このアーティストは「今後、行政系のイベントでは、そういう挑戦的な内容のものは、炎上してこういった事態がおきるのを怖がって主催者側も呼ばなくなるんじゃないですか?『みんなが楽しい、みんなが幸せ』っていう空虚なコンセプトで、みんながハッピーな、ほがらかなイベントが沢山開催されるんじゃないでしょうか」と皮肉を込めた。

「官邸に忖度する文化って、一体何なんでしょうね」

「 日本で芸術活動続けられない」

トリエンナーレに参加しているアーティストからも怒りの声が上がっている。

Chim↑Pomの卯城竜太さんは、公式Twitterで「あり得ない。日本の公共的文化制度が終わります。こんな前例ありますか。これがまかり通って良いのでしょうか」と驚きと怒りを表明した。

また、別のアーティストも「朝ニュースを知って、怒りや悲しみよりも、まず驚きました。本当なんでしょうか…。次に浮かんだのは、7800万円もの補助金が急になくなれば、このトリエンナーレがもう続けられなくなるんじゃないかと心配になりました」と話す。

「周囲のアーティストたちが萎縮している」とも感じているという。

「現代アートだけでなく、演劇も出版も映画も、こうして表現の締め付けが厳しくなっていくのではないでしょうか。日本のアート業界全体が萎縮し、打撃を受けると思います」

「正直、個人的には、自由な表現ができない日本ではもう芸術活動は続けられないなとも考えます。でも、私は日本人で、母国に対しての愛着もある。何かできることがないか、できることをやっていきたい」

これまでの経緯を振り返ると…

「表現の不自由展」は、組織的検閲や忖度によって表現の機会を奪われた作品を集め、日本の「表現の自由」を問う企画展。政治的なメッセージも含む作品が、どのように「排除」されたのか、その経緯やその後の足跡とともに展示していた。

あいちトリエンナーレ2019の芸術監督・津田大介さんは「議論の契機にしたい」と意欲を見せていたが、慰安婦をモチーフとした作品などに脅迫電話が殺到する騒ぎとなり、開始3日で「表現の不自由展」は中止に。

愛知県の検証委員会は9月25日に公表した中間報告の中で「誤解を招く展示が混乱と被害をもたらした最大の原因は、無理があり、混乱が生じることを予見しながら展示を強行した芸術監督の行為にある」と津田さんを批判する一方、「条件が整い次第、すみやかに再開すべきである」と提言を盛り込んでいた。

検証委の報告を受け、大村秀章知事らも再開に向けた検討を始めていたところだった。

ところが、文化庁は「事前に報告と相談がなかった」ことを理由に、すでに採択を決めていた補助金約7800万円について全額不交付にすると発表。大村知事は争う構えを示している。

注目記事