吉本興業は9月18日、文藝春秋が発行する『週刊文春』が同社所属タレントの前科・前歴を報道したことについて、日本弁護士連合会に対して人権救済申し立てを行ったと発表した。同誌は9月12日発売号で、お笑いコンビのEXIT・兼近大樹さんが2011年に刑事処分を受けていたことなどを報じている。
吉本興業は公式サイトで、「ある者の前科・前歴に係る事実を実名で報道することは、プライバシー権・名誉権を著しく侵害する行為」とした上で、未成年時点での犯罪を実名報道するのは少年法にも反すると主張した。今回の申し立てまでの経緯を、改めてまとめる。
「絶対にバレる」と思っていた。EXIT兼近が文春に語った過去の事実
事の発端となったのが、9月5日に発売された『週刊文春』(9月12日号、以下文春)の記事だ。
文春は、兼近さんが2011年頃に犯した罪について、3ページにわたり本人取材などに基づく内容を掲載した。
兼近さんは文春の取材に対し、「正直、いつか絶対バレることなんで、吉本にはずっと話していて」と告白。同誌が発売された当日にツイッターを更新し、自身の考えを綴った上で、以下のように謝罪していた。
この度は、お騒がせしてご迷惑をおかけしてしまい大変申し訳ございません。
吉本、相方、先輩、後輩達にもご迷惑をおかけしてしまい本当に申し訳ないです。
兼近は過去の法律違反を美談にする気も肯定する気もありません。
(中略)今回の未成年時の罪を報道されてしまった事に関しては自分のした事なので、ルールはどうあれ受け入れます。
「社会全体として非常に危惧すべき問題」と吉本側は抗議
文春に掲載された記事を受け、兼近さんが所属する吉本興業は9月5日、公式サイトにコメントを発表。
同雑誌を発行する文藝春秋社に対し、以下のように強く抗議していた。
弊社所属タレントに限らず、ある者が刑事事件につき被疑者となり又は有罪判決を受けたという事実は、その名誉又は信用に直接関わる事項として、プライバシー権・名誉権による憲法上の保護を受けることが裁判例上確立しています。
そして、その者が有罪判決を受けた後は、更生し、社会に復帰することが期待されているところ、公益を図る目的なしに前科に係る事実を実名で報道することは、不法行為を構成し得る行為とされております。
(中略)刑事処分が未成年の時点での犯行に対するものである場合には、成人後に犯した犯罪に対する刑事処分よりもその報道について一層の留意が必要であると考えられます。
仮に、未成年時の前科に係る事実を、その事件から長期間経過した後に、正当な理由なく軽々に実名で報道することが許されるとすれば、未成年の者についてその後の更生の機会を奪ってしまうことになりかねず、社会全体として非常に危惧すべき問題であることは明白です。
さらに吉本興業側は、次の3点について、兼近さんの人権を著しく侵害するものだとして文藝春秋社に事前に伝えていたが、同社はそれを考慮する事なく、記事の掲載に踏み切ったと主張する。
1.本件記事は公益性なく弊社所属タレントの前科を実名で報道するものである
2.しかも、当該前科はタレントが芸能活動を開始する前の未成年の時点におけるものである
3.さらに、何ら刑事処分を受けていない事実についても、あたかも犯罪行為を行ったものであるかのように報道するものであり、兼近の人権を著しく侵害するものであること
また、吉本興業が、兼近さんから事前に報告を受けていたにも関わらず事実を公表しなかった理由については、「(本人が)その後自らの行為を反省、悔悟し、当時の関係者とは一切の関係を断ち切り更生して新たな人生として芸能活動を続けており、また、上記のとおり未成年時代の前科という高度のプライバシー情報であることも鑑みて特段の公表はせずにおりました」と公表を控えた意図を説明。
同社は、「兼近が今後も芸能活動を通じて社会に貢献できるよう、芸能活動のマネジメントを通じて最大限に協力してまいります」とコメントしていた。
文春は「現在の兼近さんを否定するものではない」と主張
吉本興業の抗議を受けて、文春編集部は5日、ウェブ版で見解を発表。「兼近さんの過去について、新たな情報を入手し、逮捕時に兼近さんは成人だったこと、その事実は実名で報道されていることを確認しました」と説明した。
さらに、社会的な影響力が大きい兼近さんの過去の逮捕歴を報じることについて、「兼近さんという芸人を語る上で、逮捕の過去は、切り離せない事実です」とも見解を述べている。
その上で、「逮捕の過去によって現在の兼近さんを否定するものではありません」とも主張。「兼近さんという芸人がいかに生まれたのかを、ご本人の言葉によって伝える記事であることは、読者の皆様にご理解いただけるものと思います」としている。