いつからスマホを持たせる? 子どもの事件を裁判傍聴してきた母の答え

母親として息子を心配する気持ちを和らげつつ、彼の自立を見守る方法を探していました。
Miura, Kanagawa Prefecture, Japan
SATORU MIKAMI/amanaimagesRF via Getty Images
Miura, Kanagawa Prefecture, Japan

7年前に子供が産まれてから、彼の心配ばかりしている。

0歳児のころは、睡眠時無呼吸症候群で死にはしないかと夜中じゅう息子が息をしているか見つめたり、1歳児のころは、保育園でお友達と喧嘩をしていないだろうかと心配し、正月になればお餅を喉に詰まらせはしないかと心配し、夏になり自転車の練習をすれば、転んで歯を折りはしないかと心配する……そんな毎日を送ってきた。

とにかく昔から、悪いことばかりを想像し、それに備えようとあれこれ頭を悩ませる性分だったせいかもしれない。

自分についても心配事は尽きない。明日仕事がなくなったら……という日常的な事柄に始まり、小隕石が地球にぶつかったら……ぐらいのグローバルなことまであらゆることを日々心配している。そんな自分が母親になった。冒頭に挙げた心配事はこれまでにあれこれと考えたうちのごく一部にすぎない。正直、四六時中心配をしているといっても過言ではない。

息子にまでそろそろバレてきて「ママは心配しすぎなんだヨォ〜」などと言われ始めた。このままでは過干渉の密着母になった末に『冬彦さん』のようなマザコン中年を生み出してしまうのではないか。またそんな心配を始めてしまい、終わらない。

息子も小学生になり、親から離れて一人で登下校するようになった。そうするとまた別の心配が生まれ始める。端的に言えば、息子が何かの事件に巻き込まれないかという心配だ。 

私は彼が生まれるずっと前の2005年から刑事裁判の傍聴をしてきた。その中には、子どもが被害者となる事件もあった。 色々な事件の情報が脳内に蓄積されていることも大いに影響していることだろう。事件や事故の報道があるたびに、心配をしてしまうのである。例えばこんな具合に。

・高齢者の車がアクセルとブレーキを踏み間違えて登校中に突っ込んでくるのではないか……

・見知らぬおじさんに声をかけられ、ついて行ってしまうのではないか……

・公衆トイレにいるときに大きな袋に入れられて、連れ去られるのではないか……

・知らない大人からマンションの踊り場から落とされるのではないか……

・小学1年生の交通事故が5月に急増するニュースがあったが、息子も……

息子の登下校時にこんなことを考えて苦しくなる私は、彼の入学後、しばらく一緒に登校したいと告げた。

千葉県松戸市で数年前、登校時間中に女児が自宅を出た後に行方不明となり、のちに遺体で見つかった。その学校の保護者会の代表が女児に対する殺人罪などに問われている。事件発生時、これが大きく報道されたことが影響しているのか、送迎する親御さんもいるからである。私ももちろんその事件のことが頭にあった。だが息子は「絶対に一人で行く」と言い張り、初日から私と一緒に登校しようとはしてくれなかった。

5月に登戸で登校中の小学校の生徒たちを狙った通り魔事件が発生した直後、一緒に登校する親がさらに増えた。私ももちろん心配になり、事件があった日の夜に「明日から一緒に登校したい」と告げた。ところが彼はベッドに突っ伏して「いやだ〜!」と叫んで拒否。翌朝、食事を終えると、追いかける私を振り切り、走って登校してしまったのである。 

Mother and son happy loving relationship lifestyles concept.
Constantine Johnny via Getty Images
Mother and son happy loving relationship lifestyles concept.

親に送ってもらわず登校することで「一人前になった!」と思いたいのだろう。そんな彼の気持ちを無下にしたくはない。登校時は保護者さんと一緒に歩く他の児童もいる。見守りの保護者さんもいる。おそらく目が行き届いているだろう……そう無理やり思うことにした。とはいえ、小学生になったからには、少しずつ学校以外の場所にも一人で出かける練習を始めなければならない。いずれは大人になり、一人で歩き回るようになるのだ。送迎を行うことが当たり前だった保育園時代、息子は常に私をはじめとする大人と一緒だった。小学生になれば、そんな生活も終わる。一年生はまだ習い事への親の送迎が必要なところが多いが、そうでないところもある。いつかは一人で出歩けるようにならなければならないのだ。母親として心配を和らげつつ、息子の自立を見守りたい……そこで考えたのが、彼に携帯電話を持たせることだった。

周りを見れば、同じ1年生でも、お兄ちゃんやお姉ちゃんがいれば、彼ら彼女らがすでに携帯電話を持っていることが多い。そのため子供達だけでの外出も、場所が把握できている。であれば一人っ子の我が家は、彼に携帯を持たせるしかあるまい。「小学生 携帯 いつ」。スマホでググれば様々な意見が出てくるが、あれこれ眺めても、これだという答えは見つからない。もう自分で決めるしかない。彼には今がそのタイミングだ。

 さっそく大手キャリアのキッズケータイを契約しようと販売店に電話をかけたが、キッズケータイには色々と縛りがあることをその時初めて知る。キャリアによっては、通話できる分数が決まっており、Wi-Fiもつながらない。彼には、私がスーパーに出かける際の留守番もできるようになってほしいと思っていた。自宅からメールを送ることを考えれば、Wi-Fi接続はできたほうがよい。これは2年縛りで契約したとしても、2年も使わないと判断。であればもうスマホにしてしまおう。

 というわけで6月、私は息子にスマホをプレゼントしたのだった。いまのところ、ウェブや動画の閲覧はできないように設定しており、ゲームアプリも入れていない。シンプルに通話とメールのみの機能を使えるようにして、彼に持たせた。GPSで位置情報が取得できるので、ルートを外れた場合はそれも把握できる。

 スマホをもたせて一週間後、近所の習い事に、一人で行ってもらうことにした。あらかじめ先生にも電話でそう伝えてある。習い事の教室に到着したときと、終わったときに電話をくれるようにと約束して、息子はスマホをバッグに入れて出かけた。彼は約束をきちんと守り、到着時と、帰宅するときに電話をくれた。一人で出歩くことで、自分が何かハードルをひとつ超えたような達成感があるらしい。「帰ってきたよ〜!」初日はとても嬉しそうに戻ってきた。

 息子はまだフリック入力はできないが、一ヶ月もしないうちに音声入力をマスターし、仕事で遅くまで会社にいる夫に「おやすみ」のメールを送ったりもするようになった。自分が子どもだった1980年代と現在とでは、子どもの世界は全く違う。ファミコンにハマるかわりに、タブレットでマインクラフトに熱中し、テレビでドリフを見るかわりに、YouTubeを見る。現在、一年生の息子も二年生になれば、スマホでやりたいことが増えてくるだろう。成長に伴い、スマホにまつわる様々な問題がまた出てくるとは思うが、とりあえず小学校一年生のいま、スマホは私と息子に大きな安心をもたらしてくれているのだった。

(編集:榊原すずみ @_suzumi_s