「眠そうな目をしてるね…」
高校生の頃、クラスメイトに言われた一言だという。
かつて、一重まぶたがコンプレックスだったと語る1人の青年は今、チャンネルの登録者数121万人を誇るYouTuberとなった。
その青年の名は、よきき。
自身の肩書きは、“ジェンダーレス詐欺メイクYouTuber”。少々過激にも聞こえるが、その主なコンテンツはメイクにまつわる動画だ。容姿を絡めた企画や検証動画を配信し、「メイクの方法を教えて欲しい」というファンからのリクエストに、日々応えている。
動画を通して見つけた、“自分らしさ”とは何か──。話を聞いた。
全てのはじまりは「二重にしてみようかな」と使ってみた“アイプチ”
中学時代はメイクではなく、髪のスタイリングに興味を持っていたという、よきき。
高校卒業後に上京し、美容系の専門学校に通った。そこでメイクを学び、男性でも女性らしく見える“ジェンダーレスメイク”に興味を持った。
だが、最初にメイクを意識したきっかけは、高校時代に遡る。
まぶたが一重だったことが外見のコンプレックスで。高校生の頃は気にしていました。
ある日、ふと「二重にしてみようかな」と思い立って、アイプチを何回か使ってみて。
するとそこから、「今度はファンデーションもしてみようかな」という風に、メイクへの興味が徐々に深まっていった感じでした。
2017年1月から本格的に動画を配信するようになって3年目。YouTuberとなった経緯については、このように語る。
元々、メイクそのものを広めようと思っていたわけじゃなかったんです。
動画も最初の頃は、ツイッターにあげていて。
当時はとにかく、「なんでもいいから有名になりたい」と思っていました。
そもそも、昔から自分に自信がないんです。割といつも、周りに合わせたりとか。
有名になりたかった理由も、「自分、何もないな。突出したものもなければ、個性もないし、有名になったら何かが変わるんだろうか…」って考えていたからで。
振り返ると、一重であるとか、見た目についてのコンプレックスが内面の性格や自信のなさに繋がっていたと思います。
そんな時、メイクをした状態の顔とすっぴんをあげていたら、「メイクを教えて欲しい」との声があって。
自分の大したことのないメイクでも、「教えて欲しい」という需要があることに驚きましたね。
その頃にはYouTuberとして活躍している人もいたので、「今だ」と思って、本格的にYouTubeに動画をあげ始めたんです。
続けていて喜びを感じるのは、やっぱり「よききさんをきっかけにメイクに興味を持ちました」とか言われたりする時ですね...。
「23歳で整形をしようと思っていた」よききが、”まだ”整形しない理由
日々メイク動画を配信するよききだが、自分が高いメイク技術を持っているとは思っていないという。
そして実は過去に一度、メイクではなく整形によってコンプレックスを無くそうと本気で考えたことがあると明かした。
美容で言えば、コンプレックスはメイクで隠すか、整形で完全に変えてしまうかだと思いますけど、整形すること自体は全然いいんじゃないかなと、個人的には思っています。
自分も20歳の時は「23歳で整形しよう」と思っていました。
整形については「親からもらった体だから(整形は良くない)」と言われたら確かに理解できる部分もありますけど、それを言い出したらキリがないというか。
見た目の悩みが原因で楽しく生きられないことを親自身も望んではないと思うし、昔に比べて整形についても寛容な世の中になっているんじゃないかなと感じる部分もありますし。
整形で見た目の悩みをなくすことを肯定する、よきき。
ではなぜ、自身はまだ整形に踏み切らないのだろうか?
ただ、整形を今していない理由は、自分にしかできないことが、メイクにあると感じているからです。
整形をしてみたいけど実際にするのは勇気がいるとか、そういう人たちにメイク動画を発信することで、少しでも参考にしてもらったり、自信をつけてもらえたりするんじゃないかなと思うんです。
整形と比べて、メイクの魅力は、気分によって微調整しながらも新しい自分を作れることだと思っています。
でも今の活動をやりきって役目を終えたかなと感じたら、整形すると思います。「思う」というか、絶対に…笑
自身もいずれは整形をするかもしれない。その可能性は決して小さくない。
ただ、整形でコンプレックスを乗り越えようと考える人に、メイクを通じて別の“選択肢”を届けること。それが、今のよききの活動の原動力だ。
「アルビノになりたい」発言で炎上。動画で“本当に”伝えたかったこと
多くの人々の興味を引くコンテンツを発信するよききだが、2018年6月、“美容室で「アルビノ」くらい白髪にしてくださいと頼んだ結果…”という動画が批判を浴びて炎上し、後日、動画で謝罪した。
アルビノとは、先天的にメラニン色素が欠乏した状態の人や動物のことをいう。
動画を観た人からは、「ファッションで『なりたい』だなんて不謹慎すぎる」「アルビノの方がどれだけ辛い思いをしているのか。よききはそれを認識してこの企画をやっているのか、面白半分なのかわからんけど、軽率にアルビノになりたいは言ってはダメだと思う」など、辛辣な批判を浴びた。
当時のことを振り返り、自身は今、何を思うのか。
アルビノについては、コンテンツのネタにしようと思っていたわけではなくて、昔から知っていました。
初めて知った時、感想として率直に「アルビノって、美しいな」と単純に思ったんです。だからこそ、「一度こんな風になってみたい」と本気で思っていましたし、憧れだったというのは事実です。
ただ、「なってみたい」という表現については浅はかで、今考えれば言い方として本当によくなかったと思います。多くの方に誤解を招く結果になってしまったので、そこは反省しました。
だからこそその後、アルビノエンターテイナーの方と対談する機会を持てたことは本当によかったなと思いました。
これはあくまで自分の考えですけど、例えばアルビノについて、ちょっとしか知識がない人に「アルビノの人はかわいそうで…」ってネガティブに決めつける形で受け止められる方が、むしろ当事者の人にとってはかわいそうなんじゃないかと思うんです。
中には“憧れ”というポジティブな感情を抱いている人もいるんだ、ということをアルビノの人にも伝えられればいいなと思って動画としてあげました。あの動画には、そんな意図があったんです。
外見の他にも、悩みやコンプレックスになることはあるかもしれないけど、見方によっては、他人にとって憧れるほどの対象になり得るということも伝えられたらなと感じたんです。
一周回って今は、「メイクした顔よりも、すっぴんが武器」
動画で一度自分のすっぴんを晒け出してみたら、次第に自分の外見をコンプレックスだと思わなくなったと語る、よきき。
その理由を、一部のファンの人から「この顔はこの顔で好き」などと言ってもらえるようになったからだと話す。
昔は、“すっぴんが嫌だったから”メイクをしていたけど、今は違います。
自分のすっぴんをメイク動画を通じて頻繁に晒したことで、世間の人が自分のすっぴんを認知してくれて。「すっぴんでも好き」と言われるようにもなりました。
考えてみると、自分がもし高身長で、超イケメンでスポーツ万能で勉強もできて、という「完璧な人間」として高校生くらいまでの人生を歩んでいたら、今の自分はないと思います。
「イケメンに生まれたかった」とか思っていた時期もあったけど、今は逆に、本気で“ブサイク”に生まれてきてよかったなと思うんです。
大げさではなく、もしブサイクに生まれてなかったら、絶対にメイクをコンテンツにするYouTuberとして活動している今の自分はなかったし、いろんな人に出会えなかったし、こうして自立してお金も自分の力で稼げるようにはならなかっただろうし。全てひっくるめて、「今が楽しい」と感じていますね。
「イケメンになれるスイッチみたいなものがあったらいいな」とか思うのかもしれないけれど、それでも結果、今が幸せ。
それに、一周回って今は、メイクした顔よりも、すっぴんが“武器”だなと思うんです。
コンテンツを通じて、自分の内面を知ってくれて好きになってくれる人の存在に気が付いて。それが、外見にコンプレックスを感じていた以前とは大きな違いです。
ありきたりな言葉ですけど、アクションを起こしてみたことでコンプレックスが武器になったと、今は思うんです。
いろんなコンプレックスがあると思いますけど、“コンプレックスとどう向き合っていくか”ということを考えてきたというより、“どう自信をつけていくか”をいろんな形で考えてきた。その答えの1つがメイク動画だったと思うんです。
だからこそ、思い切ってYouTubeの世界に飛び込んでよかったと思っています。
それがあったから、最近はすっぴんの方が自分らしいと思うようになれたので──。
外見にコンプレックスを抱え、「有名になりたい」という思い1つで飛び込んだ動画コンテンツの世界。
そこで手に入れたのは、本当の“自分らしさ”だった。
(取材・文 :小笠原 遥)