レイプ被害で妊娠、死産して収監された女性に逆転無罪判決。エルサルバドルで続く「中絶禁止法」とは

人権団体はこの無罪判決を「画期的」と評価。一方、中絶禁止法によりいまだに約20人の女性が流産によって刑に服しているという。
逆転の無罪判決を受けたエベリン・エルナンデスさん(中央)
逆転の無罪判決を受けたエベリン・エルナンデスさん(中央)
El HuffPost

 中米のエルサルバドルで、「中絶禁止法」によって収監されていた女性に対し、逆転無罪の判決が言い渡され、世界から注目を浴びている。

AFP通信などによると、エルサルバドルの控訴裁判所は8月19日、レイプ被害によって妊娠し、胎児が8カ月の時に死産したエベリン・エルナンデスさん(21)に対し、無罪を言い渡した。

エルナンデスさんは、当初、中絶をしたとして殺人罪で禁錮30年の判決を受け、2年9カ月もの間、収監されていた。

ガーディアンによると、無罪判決を受け、エルナンデスさんは支援者らに肩を抱かれ「正義が果たされました。神に感謝します」と述べ、感極まった。

アムネスティ・インターナショナルのエリカ・ゲバラ・ロサス米州局長は、この判決を「エルサルバドルにおける女性の権利にとって圧倒的な勝利」と評した。

エルナンデスさんは18歳だった2016年4月、妊娠8カ月のときにクスカトラン県にある自宅のトイレで子どもを出産。彼女は出産するまで妊娠に気が付いていなかったという。

エルナンデスさんはトイレで腹痛を覚え、出産したものの胎児は死産していたと主張していた。

だが検察側は彼女が出産前のケアを受けることを怠ったとして有罪を求めていた。裁判所は2017年、エルナンデスさんに対し殺人罪で禁錮30年の判決を言い渡した。

エルナンデスさんが妊娠したのは、レイプ被害を受けたためだった。しかし、家族が脅迫されていたために恐怖を感じ、警察には被害届を出せなかったという。

控訴審で弁護側は、一審では胎児が出産前に死亡していたとする法医学的証拠が見逃されていたと主張。検察側は一審判決より重い禁固40年を求刑していた。

検察側が期限である8月29日までに上告するかが注目されている。

エルサルバドルで問題となっている「中絶禁止法」とは

カトリック教徒の多いエルサルバドルでは1998年以来、あらゆる状況で中絶を禁じている。

中絶禁止法と呼ばれるこの法制度では、違反した場合に禁固2~8年となるが、さらに重罪である加重殺人で有罪となる場合が多く、最大で刑罰は禁錮50年となる。

2013年には、出産直後に死亡する可能性の高い胎児を妊娠しており、自らも難病を抱え、妊娠の継続が困難だった女性が特例的な堕胎許可を求めていたが、裁判所が不許可とした。

当時の保健相も、裁判所に中絶の特例許可と、堕胎手術を行う医師に対する刑事免責を求めていた。女性は妊娠27週で帝王切開し、女児は数時間後に死亡した

1992年の内戦終結後、内政不安のなかでカトリック教会がキャンペーンを開始し、そのなかで中絶禁止が盛り込まれた法律が1998年に成立。

2016年には、野党が最大禁固8年としている中絶禁止罪の刑罰を50年に引き上げるよう法改正を提案している

AFP通信によると、2019年3月には、流産したことで加重殺人で有罪となり、禁錮30年の刑となり収監されていた女性3人が釈放された。しかし、同様の罪で約20人の女性が今も刑に服しているという。

米州人権委員会はエルサルバドル政府に対し、中絶によって女性に対し実刑判決を下す制度について見直しを求める報告を、2019年1月に公表している。

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