グルメ界は今、 “中華 ”に注目。従来の四川料理、広東料理といった分け方に囚われないお店が出現

ジョージアワインで楽しめる中華や各地方の美味さを集めた「香港料理」、中国地酒の飲み比べなど...中華料理の楽しみ方もより自由に。

より自由な発想のお店が登場

20年近く毎年レストランガイドを出していると、グルメ界の様々な波を感じることがあります。ある年はフランス料理のすごい店が続出したり、やたらとカウンターだけのお店が目立ってきたり……。

そして去年から今年にかけては、明らかに中華料理の年と言っていいのではないでしょうか。

僕の記憶では2015年、白金にオープンした「蓮香」がスタートだと思うのですが、従来の四川料理、広東料理といった分け方に囚われない、よりマニアックな中華が出現し、なおかつグルメ好きから熱狂的に受け入れられました。また2013年くらいから、神田「味坊」や外苑前「楽記」のようなビオワインと楽しむ中華という流れも人気を博し、すっかり定着しています。

これは中華に限らず、現代レストランの流れの特徴ですが、さまざまなジャンルの定義から解き放たれ、より自由な発想のお店が登場するようになったのです。

もちろん、基本となるジャンルの知識と技術があるというのは大前提ですが。

話を戻すと、そういった流れの中で昨年、荒木町の「南三」が大ヒットしました。

確かな腕と抜群のフットワークを持つ水岡シェフが、中国や台湾などの素材、調味料を再構築して繰り出すマニアックな料理は大絶賛され、一瞬にして「予約の取れない店」になったのです。

「サエキ飯店」の中華
「サエキ飯店」の中華
著者撮影

注目の1軒、ワインで楽しむ中華

2019年になってもその流れは止まりません。

「誰かサエキ飯店の席持ってないの?」

これが今、多くのグルマンの合言葉です。

香港や広東省で腕を磨き、「楽記」の料理長として活躍してきた快活かつどん欲な若き料理人、佐伯悠太郎シェフがこの4月にオープン。恵比寿と目黒の間という、決していい立地ではないにも関わらず、カウンターとテーブル1卓は、早くも争奪戦の様を呈しています。

8千円のコースのみ。自らの料理を広東料理ではなく、様々な地方の美味さを集めた香港料理だと言い切り、どの皿もグイグイと食欲と酒欲を刺激します。

ワインは「現地で飲んだら美味しかったんですよ!」という理由でジョージアワイン。インポーターはビオワイン界の雄・ラシーヌとノンナアンドシディ。これがまた料理にぴたりと合うんです。コース中盤で供される、金華ハムだけで塩味を出した上湯スープはいろいろなことをリセットしてくれます。そこからメインである乳鳩醤油煮、飯、麺となだれ込むわけですから本当にたまりません。

現在はワンオペ体制で料理が提供されていますが、果してどこまで進化していくのか。目を離せない逸軒です。

「SOUTH LAB 南方」の白眉
「SOUTH LAB 南方」の白眉
著者撮影

めくるめく中華の魅力が楽しめる

もう一軒、「SOUTH LAB 南方」も注目です。近年、話題店が続々と誕生し、街の雰囲気も変わりつつある錦糸町に、この6月にオープンしたばかり。

プロデュースしたのは、香港料理と中国茶において、この人の右に出るものなしと言われるカメラマン・菊地和男氏。友人であり、千葉で農業も営むオーナーの吉水清朗氏とタッグを組み、長年温めていたお店を開いたのです。ちなみに菊地氏は前出の「楽記」にも関わっています。

こちらの白眉は鶏の白子をペーストして上湯でのばし、揚げた一品。白子は雄鶏からしか取れないため、極めて貴重で、えも言えぬ旨味と食感を楽しめます。もちろんワインもグラスで10種類以上揃うという充実ぶり。今後はオーナーが作った農作物の販売もする予定とのことですが、相当売れると思われます。いい気分に酔うと、つい帰りに買ってしまうではないですか。

「中洞」の中華料理
「中洞」の中華料理
著者撮影

そういう意味では、すべての料理をお持ち帰りできる巣鴨「中洞」も面白い。

四川料理の名店「芝蘭」の料理長が奥様と始めたお店で、イラスト入りの完全無添加メニューはとても魅力的。頼みたいものがあり過ぎて困っても、食べきれなかったら持ち帰ればいいや、と思えば2品は多くオーダーできる。お子さんがいるご家庭なら、 “明日のお弁当のおかずにしちゃおう…”というのもアリ、です。

中国の地酒も充実していて、3種飲み比べセット900円というのもあります。

味のポイントはしっかり押さえているものの、とんがっていない、優しい系なので、万人に勧められます。ちなみに運がよければ1歳児がおしぼりを渡してくれますので。

他にも、家賃が高すぎて“いい店不毛地帯”だった吉祥寺に誕生した「中國菜 四川 雲蓉(ユンロン)」は大注目です。「龍の子」のあと、四川で2年半修業し、「飄香」にもいた料理人が、ご実家の判子店の一角を改装してオープン。武蔵野の野菜を積極的に取り入れた通常メニューはもちろんですが、3日前まで要予約の四川の伝統・郷土料理は垂涎ものです。

軽くリーズナブルにお酒と楽しもう! と思って入ると、料理もとんでもなく旨くてびっくり、というのは学芸大学「farm studio #203」です。銀座アスターを皮切りに、様々な店で修業を積んだシェフはなんとも楽しく、常連になりたくなります。場所は超人気店「あつあつリ・カーリカ」が入るビルの2階。学大のあのあたりも熱いですね。

いかがでしょうか。ぜひめくるめく中華の楽しさを味わってみてください。

(編集:榊原すずみ @_suzumi_s

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