YouTube上の架空のキャラクター「バーチャルYouTuber」(VTuber)たちが、現実のステージに降り立って、eスポーツ大会で競い合う。
バーチャルと現実世界が織り混ざったイベントが、IT企業「CyberZ(サイバーゼット)」が手がけるeスポーツ大会『RAGE』で開かれている。
架空のキャラ同士を現実世界で対戦させるとは、一体どうやって実現させたのか。
「現実とバーチャルのズレがなくすのに苦労した」
そう語る『RAGE』総合プロデューサーの大友真吾さんに、イベントの裏側や、eスポーツ界について聞いた。
「フィギュアの羽生選手のようなスター選手を輩出したい」
RAGEは2015年にスタート。3カ月に1回、年4回ほどのペースで、誰でも無料で参加できるeスポーツ大会として認知を広げてきた。
ゲームの勝敗を競うeスポーツは、ゲームのタイトルが、体を動かすスポーツでいう種目に当たる。
「RAGE」では、人気格闘ゲーム「ストリートファイターV」からサッカーゲーム「ウイニングイレブン」まで、これまでにジャンルを問わず10作品以上を扱った。
中でも、関連会社が制作したカードゲーム「シャドウバース」は、全ての大会で主催しており、2018年にはプロリーグも発足。ストーリーの中で入手したカードを組み合わせて相手と戦うトレーディングカードゲームだ。
「RAGE」でどんな作品を扱うかによって、来場者数や、試合を動画配信の視聴数に波がある。
「トライアンドエラーしながら、フィギュアスケートの羽生選手のようなスター選手を輩出していくeスポーツイベントにしていきたいと考えています」
5月の「シャドウバース」の予選大会には、抽選に当たった約6000人が一堂に会して激戦を繰り広げた。それぞれ5試合ほどして、成績上位の600人が2回戦に進み、さらに上位8プレーヤーが決勝戦に臨む。
約6000人が参加するeスポーツ大会は国内最大規模で、来場者も大会を通じて計1万人を超えるという。
「現実とバーチャルとズレをなくすのに苦労した」
「RAGE」では前代未聞の試みにも挑戦している。2018年6月と9月に、YouTubeで動画配信を行う架空のキャラクター「バーチャルYouTuber」(VTuber)によるeスポーツ大会も開催。バーチャル世界のVtuberが、現実のeスポーツ大会で対戦するとは、一体どう実現させたのか。
「モーションキャプチャーのスーツを着て、それを3Dのモデルとして動かすという、他のVTuberと仕組みは一緒です。
すべては語れないのですが、特定の場所に(VTuber)のキャストの方々を集めて、モーションキャプチャースーツを着ながらゲームをプレイし、対戦してもらいます。
キャストの動きを3Dモデル(VTuber)と連動させ、その映像をステージ上のスクリーンに映し出すことで、その場にいるかのように見せています。
かつ、ステージ上のリアクションなどもリアルタイムでちゃんと拾えるように、MCは生身の人間をステージに置いてやっていたりしたので、現実とバーチャルとズレがなく実現するのが1つ苦労したポイントでした」
2018年9月大会には、月ノ美兎、ときのそらなど8人の人気YouTuberが参加。
2人ひと組のペアとなり、「ボンバーマン」「動物タワーバトル」「白猫テニス」の3種目で対戦した。
通常のeスポーツ大会では、プレイヤーがステージ上に設置されたゲーム台の前でプレイするが、VTuber大会では、代わりに台上に透明なスクリーンを設置し、VTuberがプレイしている映像を流した。
「スクリーンと台を置いて、Vtuberがプレイ台に座って対戦しているかのように演出しているという感じです。でも、実際にゲームがあるわけではなくて、ただスクリーンに映しているだけですよ。実際の会場は、ステージの上に別の大きいスクリーンがあって、対戦している試合の様子が映し出されます」
VTuber効果で、多様な客層を巻き込み
VTuberによるeスポーツ大会を開いたのは、「RAGEを新しいスポーツエンターテイメント産業にしたい」という思いがあった。
ファミ通ゲーム白書によると、2018年のゲーム人口は4911万人。ファミ通を発行しているGzブレインの調査によると、eスポーツのファンは383万人(2018年)。盛り上がりを見せるeスポーツを、熱心なファンやプレイヤー以外にもどうやって届けるのか。その答えのひとつが、VTuberとのコラボだった。
「これだけゲーム人口と呼ばれる人がいるので、eスポーツに触れる機会をつくって興味を持ってもらい、eスポーツ観戦の習慣をつけたかった。そうなったときに、当時トレンドだったのがVTuberで、eスポーツとの親和性もすごく高いと思いました」
「当時は、オフラインでVTuber同士の対戦を客席で見るイベントを開いているところはありませんでした。チャレンジングだなと思いつつ、逆にやる価値もある。見たいユーザーはたくさんいるはずなので、たくさん来場も期待できるんじゃないかと、来場者・視聴数を拡大するために取り組んだのが背景です」
大会当日も、普段のeスポーツやその作品のファンとは違う客層が多く来場したという。「狙いがはまったのかな」と手応えを語る。
「やり方は賛否あると思いますが、バーチャルYouTuberグランプリは、eスポーツよりも出場するVTuberのファンが、会場を埋め尽くしていた印象でした」
「『シャドウバース』の決勝を見に来ている人が、月ノ美兎ちゃんやアズマリムがいるのならあっちを見に行きたいといったように、eスポーツファンの中にはVTuber好きもいて、重なっている部分もあると思います。逆に、VTuberが好きな人を巻き込んで、eスポーツをより皆に見てもらえるようにする狙いでした」
群雄割拠のeスポーツ界
黎明期と言われるeスポーツは、決してここ最近生まれたものではない。例えば人気格闘ゲーム「ストリートファイターV」は、発売元のカプコンが主催する大会が、日本や世界を舞台に長年開かれてきた。
そうした過去のゲーム文化が、eスポーツに姿を変えて認知が広まっていると言える。
愛知県立城北つばさ高校でeスポーツの部活が発足したほか、10月に茨城で開催される国民体育大会(国体)では、都道府県対抗の選手権が初開催される。
2020年度から小学校でプログラミングが必修化され、かつては趣味や遊びと位置付けられた「ゲーム」も、競技やスキルとして日本国内で広まり、職業としても確立しつつある。2018年からは、「eスポーツ連合」が国内でeスポーツのプロライセンスを発行している。
「これだけは言えるのは、スポーツと同じような観戦体験は間違いなくできると思います。プロフェッショナルという意味でいうと、本気で取り組んでいるプレイヤーは、トレーニングに費やす時間や取り組む姿勢も含めて、他のリアルスポーツのアスリートと変わりません」
「他のスポーツと唯一違うのは、eスポーツとひとくくりに言っても、競技がものすごくたくさんあり、内容やルールも作品タイトルごとにバラバラなところです」
今では、スポーツ界からeスポーツへ参入する動きも起きている。プロ野球を運営する日本野球機構(NPB)が、eスポーツのプロリーグの運営に乗り出し、各球団のチームが野球ゲーム「実況パワフルプロ野球」で勝敗を競っている。
また、「RAGE」が運営しているプロリーグには、サッカー横浜F・マリノスや、プロ野球巨人のオーナー企業の読売新聞のチームも参入している。ゆくゆくは、Jリーグやプロ野球のようなリーグを目指しているという。
「サッカーならJリーガー、野球ならプロ野球選手を目指す。他のプロスポーツと同じように、RAGE『シャドウバース』リーグのプロ選手になりたいという風にしていきたいと思っています」
「そのために、大手企業にちゃんとチームを持っています。eスポーツ選手を目指したい子供の親御さんにも安心してもらうのが大切だと考えています」