「75歳以上が4人に1人」という超高齢貧困社会での年金制度とは?基礎年金のベーシックインカム化を考える

今後、高齢者、特に高齢女性の貧困化が深刻になることが、マイクロシミュレーションモデルを用いた研究によって、かなりの高い精度で予想されている。
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国民年金は保険料だけでは制度的に成立していない

6月27日に厚生労働省は、自営業者やフリーターらが入る国民年金の保険料の納付率(2018年)が68.1%だったと発表した。2017年度の66.3%に比べ1.8ポイント上昇したものの、所得が低いなどの理由で保険料を免除・猶予されている人(含む学生)は納付率の計算から除外されており、それを含めた実質的な納付率はなんと40.7%。2017年度の40.3%と大差はない。

加えて、免除・猶予者は2017年度の574万人から614万人へと増加している。対象者の4割しか保険料を納付しない制度を持続的制度とは到底よべまい。後述するが、制度として国民年金は納付された保険料だけではまったく制度的に成り立っていない。

今後の日本の社会保障制度を考える際、真っ先に考慮すべきは、年金制度の土台を支える若年層の人口が急速に減少する中で、社会保障費受給の多い75歳以上人口が急速に増加する(絶対数でも比率でも)という事実である。

事実、75歳以上の後期高齢者の人口は、現在の1700万人台から2020年代前半には2000万人を超え、2055年頃に2400万人台とピークとなる。その後2200万人台で高原状態となる。この間、全人口は現在の1億2600万人から2055年には9700万人へ急減すると推計されており、その後は国民の4人に1人が75歳以上という状態で安定する。2050年には、100歳以上の人口は70万人と現在の10倍になると推計されている。まさに、人生100歳の時代である。

2030年には、未婚・離別女性の4割が生活保護の対象に

このような未曾有の超高齢化が加速化する中で、今後、高齢者、特に高齢女性の貧困化が深刻になることが、マイクロシミュレーションモデルを用いた研究によって、かなり高い精度で予想されている。そのモデルによると2030年には、未婚・離別女性の4割が生活保護の対象になると言う。

現状でも生活保護世帯の半数がすでに65歳以上である。しかし、平均寿命は女性の方が長く、高齢になるほど女性の比率が高まることを考えれば、高齢者の貧困化問題は、今後ますます深刻化していくであろう。

他方で経済成長に期待し、生産性向上が見込めれば、年金問題、高齢者の貧困問題は深刻化しないだろうとする意見もある。だが、人口減少を相殺してあまりあるレベルでの生産性向上を達成することは、決して容易ではない。現実として、日本の生産性の低さはG7の中でも際立っている。

もっとも、AIの実用化によって生産性が飛躍的にアップする領域も少なからず出現すると考えられるとはいえ、地盤沈下する国家経済をプラスにまで押し上げるインパクトを持ち得るかは、かなり怪しい。逆にそこまでのインパクトを持ったとすると、大規模な雇用喪失というより困難な問題をもたらす可能性もある。

年金制度維持の方策が企業に押し付けられる

全方位の大盤振る舞いを続ける予算を見るに、安倍政権にはプライマリーバランス黒字化(プライマリーバランスとは、国や地方自治体などの基礎的な財政収支のこと。黒字化とは国債の発行に頼ることなく、国民の税負担などで必要な支出がまかなえている状態)の達成目標は、事実上、念頭になく、財政規律のかけらも見受けられない。

安倍首相は、かつて御厨貴・東大名誉教授のインタビューで「アベノミクスは『やってる感』なんだから、成功とか不成功とかは関係ない。やってるってことが大事」と述べたとされるので、そもそも抜本的改革をする気はないのであろう。

生産性向上による経済成長はあまり期待できないとなると、安倍政権が考える年金制度維持の方策は、年金制度改革の“ツケ”を「再び企業に払わせる」ことである。政府はすでに年金の支給開始年齢を65歳まで伸ばしたわけだが、その場合、60歳定年の会社に勤める人は5年の無給期間が発生してしまう。そのため政府は2012年の法改正で、希望者全員の65歳までの再雇用義務化を決定している。表向きは「高齢者活用」などと言っているが、希望者は全員再雇用なので、まさに“企業に年金を払わせている”わけである。

これだけでも、企業にとっては重荷であろうが、安倍政権は、企業の重荷をより増やす方向に向かっている。安倍政権は、老後の2000万円貯蓄の話題以上に、少子超高齢化を考えれば年金制度の維持が本当に危ういため、65歳の次は、70歳年金支給開始を考えているであろう。そうなれば、政府は前回同様に定年をさらに伸ばそうとする可能性が高い。

在職者老齢年金制度(60歳以上で老齢厚生年金を支給されている方が就労し厚生年金保険に加入した場合、老齢厚生年金の額と給与や賞与の額に応じて、年金の一部または全額が支給停止となる場合があること)によって、まじめに働けば働くほど支給される年金額が減るうえに、就労中は厚生年金保険料を払い続けることになるので、政府にとっては一隻二鳥である。

高齢者は本当に働きたいのか?

このシナリオに基づいて、政府は5月15日に、高年齢者雇用安定法改正案の骨格を発表。企業は希望する人を70歳まで雇用することを努力義務化している。

安倍首相は70歳まで働くことについて、「元気で意欲のある高齢者に経験や知恵を社会で発揮してもらえるように法改正をめざす。それぞれの高齢者の特性に応じ多様な選択肢を準備する」と述べている。しかし、高齢者は本当に働きたいのであろうか。

安倍首相は、有効求人倍率が高止まりしていること、そして現在の株高を自らの成果として喧伝しているが、雇用者の内訳を見るとおもしろい事実がわかる。

2011年から2017年(11月まで)の月平均雇用者数は、5512万人から5817万人と305万人増加しており、この数字をして安倍内閣は雇用の増加と言っている。だが、65歳以上の雇用者数を見てみると、2011年の571万人から2017年の806万人と235万人増加(男性が134万人、女性が102万人)しているのだ。

つまり増加した305万人の雇用者の77%は65歳以上ということになるのである。ここからは、年金制度を含めて現在の社会保障制度の持続性に疑念をもち、老後が不安なので働かざるを得ないという構図が垣間見える。

現政権による社会保障「全世代型化」の掛け声は、現実的には高齢者の多い有権者に支えられた選挙を念頭においた政権の人気取りのばら撒きでしかなく、後期高齢者の急激な増加による社会保障費の増加圧力という問題の抜本的解決を考えていない。

後期高齢者の爆発的な増加の中で、遠からず、現在の年金、医療、介護制度は財源的に破綻する可能性が高い。年金に限っては、マクロスライドの厳格な運用と所得代替率の引き下げによって、給付額を下げ続ければ、老後生活をもっぱら公的年金に頼る(これが今回の2000万円ショックである)という日本特有の仕組みは維持できなくなるとしても、年金制度自体は破綻しないということになる。

最後は国がなんとかしてくれるという期待

そもそも、社会保険制度といいながら、公費(税金)を規律なくつぎ込み(積立金の運用益を除くと4割が公費、すなわち税金)、本来の保険制度の趣旨である保険料によって維持される共助的なリスクマネジメントの側面が急速に失われ、なし崩し的に公的扶助(所得再分配)の側面が急速に強まってきている。

国民年金に関しては、国民年金の保険料だけでは制度が成り立たないので、政府は、厚生年金の一階部分(厚生年金は一階の基礎部分と二階の報酬比例部分とからなる)を国民年金と統合し、基礎年金勘定と称して、厚生年金の保険料の国民年金への注入をはかった。

その見返りとして、基礎年金勘定に対す国庫負担を50%とした経緯がある。政府が財政規律を欠くなかで、まさに、保険制度としてガバナンスが効かなくなってきているのが現状である。

もし、日本の社会保障制度の持続性を真剣に考えるのであれば、喫緊の課題は、大幅に増加し、かつ貧しくなることが想定される75歳以上の後期高齢者に的を絞った社会保障制度の抜本的な再構築をいかに行うかである。

そして、高齢者の安心と世代内の負担(世代内の所得再分配も含む)の徹底である。住基カードやマイナンバーへの拒否感が示すように、多くの日本国民は、国家(政治家と官僚)を信用しないにもかかわらず、どこかで最後は国がなんとかしてくれるという期待をもつという奇妙な状況にある。

ゆえに、老後不安が漠然と強く、日本人だけが死ぬまで貯蓄を増やし続けようという傾向が強いという。この状況を変えることが最優先事項である。高齢者の安心がなければ、シルバー民主主義のアリ地獄から抜けだせず、現役世代に向けた社会保障制度の充実も実現はむずかしい。高齢者、特に後期高齢者が急速に増加する一方で人口が減少する、今後20年から30年が社会保障制度の厳しい試練の時期となる。いち早く手を打つべきときである。

後期高齢者に対するベーシックインカムの支給案とは?

上記のような状況を鑑みて、筆者は、以下のような制度変更を考えているが、読者諸兄はどのように受け取られるであろうか。

①75歳以上の全員にベーシックインカム(BI)を支給する。基礎年金部分の半分を公費でまかなっている現状を鑑みるとBI化(全額公費=税方式化)も荒唐無稽ではないのではないか。後期高齢者が対象なので勤労意欲を減退させると言われるBIに対する批判は該当しないであろう。

②仮にBIの金額を年100万円程度とし、これをナショナルミニマルとする。今後の空き家の急速な増加による住宅費の低下も視野に入れ、住居がない場合は、国が空き家を無料で手当てするなどの施策を考慮し、家賃が不要となるとすると、月8万程度はナショナルミニマルとしては十分ではないか。現に、国が定めている生活保護基準が、1人月額8万3千円である。

③BIなので、収入制限は設けず、裕福な高齢者にも支給するが、別稿で論じるが、再編する医療・介護などの公的サービスを受ける際に、応能負担とする。

④年額100万円程度とすると、最大時で75歳以上の後期高齢者は2500万人なのでBI支給額は年間25兆円となる。この財源として消費税10%相当の25兆円を当てる。消費税は欧州並みの20%となる。高齢者も負担する消費税を財源とすることが重要である。消費税率の引き上げは、個人消費にマイナスに働くことが想定されるが、経済が成長しないこと(低成長)を前提とした財政的な持続可能性を考慮しなければいけない。政治家が安易に使うイメージ操作としての富裕層課税ではどうにもならない現実をわれわれ国民は理解しなければならない。

⑤75歳以上のBI支給に応じて、基礎年金は廃止(厚生年金・共済年金の報酬比例部分は現行制度を継続し、65歳から給付)する。75歳までは、報酬比例年金、個人の確定拠出積立年金、貯金と給与を生活の原資とする。現在の何時まで生きるかわからない不安よりも75歳までという目標が見える方が良いのではないか。

⑥基礎年金の税方式化によって、未納・無年金問題や第3号被保険者の遺族年金問題への対応が可能になる。

⑦基礎年金の廃止により、現役世代の社会保険料は減額され、企業も含めて負担は軽減される。

 後期高齢者が急増するので、医療・介護費用が大きな問題となる。この問題はBIだけでは解決できないので、75歳以上の後期高齢者に対するBIの支給(額も含めて)に応じて、現行の医療、介護、生活保護制度も抜本的に見直すことが必要になるが、まずは、消費税10%を財源とする、この75歳以上を対象にしたBIの支給という制度を読者諸兄は賛成であろうか、反対であろうか。

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