「夫が育休明けに転勤命令⇒退職」 告発ツイートでカネカに批判殺到

育休から復帰した翌日の4月22日、夫は突然、上司から「5月16日付けで関西に転勤を」と命じられたという。

「育休を取得した夫が復帰直後に転勤を命じられ、退職した」という、大手企業の対応を告発するツイートが拡散され、ツイート主が勤務先だったと明かした企業「カネカ」に対しての批判が殺到する「炎上」状態となっている。

一体何があったのか。ハフポスト日本版では、ツイート主のパピさんに詳しい話を聞いた。

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Johner Images via Getty Images

「せめて転勤を遅らせられないのか」と掛け合ったが…

パピさんは現在、0歳と2歳の子どもがいるワーキングマザー。第二子誕生後の2019年3〜4月、都内の大手企業に勤めていた夫が4週間の育休を取得した。

育休から復帰した翌日の4月22日、夫は突然、上司から「5月16日付けで関西に転勤を」と命じられたという。 パピさんの復職は5月に迫っていた。家を建てて引っ越した直後。子供2人は入園と転園で、共に新しい保育園に通い始めたばかりの「慣らし保育」期間中。最悪のタイミングだった。

「どうにかならないのだろうか」。2人は、労働基準監督署や都労働局に相談。基本的には「会社の業務命令なので転勤自体は仕方がない」という回答だった。

夫の勤め先は元々、転勤の多い会社だ。転勤そのものについて2人は「仕方がないこと」と納得した。一方で、「せめて着任を1〜2カ月遅らせられないか」と会社とは何度も交渉したが、全く聞き入れられなかった。「これはパタハラではないか」と感じたという。

「パタハラ」とは、育児をする男性への上司や同僚からの嫌がらせを総称するパタニティ(父性)・ハラスメントの略だ。

「有給休暇も取得できず」

結局、夫は上司や人事部、労働組合を交えた幾度かの話し合いの末、5月末に退職することになった。退職前には30日ほどある有給休暇を取得したいとも訴えたが「きちんと引き継ぎをして5月末で退職するように」と言われ、4日間しか取ることができなかったという。

夫は退職して「専業主夫」となり、パピさんは産後4カ月で家族4人を支えることになった。

パピさんは、別の大手企業に勤める知人からもパタハラ・マタハラに遭った例を聞いていた。また、今回のツイートが拡散した6月3日以降は特に、夫の単身赴任によるワンオペ育児やパタハラ・マタハラで苦しんでいるという声がたくだん寄せられているという。

結局、多くの人が会社の言いなりで、雇用主と従業員が対等な関係ではないと感じた出来事だった。ワンオペでの育児は無理だし、転勤について行けば妻側のキャリアは絶たれる。育児休業という制度だけは整っていても、取得したい社員へのケアが全くなければ誰も活用できず、辞めてしまうだけ。企業はそれでいいんでしょうか」。

ハフポストでは勤務先の企業にも取材したが、同社の広報担当者は「そういうツイートがあるのは承知しているが、コメントは差し控える」との回答だった。

また、育休に関するページが現在閲覧できないようになっている点については、「削除はしていない」とのことだった。

「核家族化、共働き、転勤をめぐる現代の実情を、裁判所は理解した上で判断すべき」と専門家

パピさんの訴えに対して「最低な企業」「嫌がらせもいいところ」「社会は動いているのに現場はこんなもの」と批判の声が殺到。さらに、因果関係は特定できないものの、この企業の株価は下落しており、6月3日には年初以来の最安値となった。

今回の例は違法な「パタハラ」と判断されるのだろうか。

育児・介護休業法によって、事業主は「育休を理由に不利益な取扱をしてはならない」ことや、「就業場所の変更で、子の養育や介護が困難になる場合はその状況に配慮しなければならない」ことなどが定められている。

法律に付随する指針では、不利益な取扱の例として「通常の人事異動のルールからは十分に説明できない職務又は就業の場所の変更」を挙げている。また、配慮の内容として「子の養育や介護の状況を把握すること、意向をしんしゃくすること、代替手段の有無の確認を行うこと」とされている。

今回の企業を管轄する東京都労働局の担当者は、ハフポストの取材に対して、一般的には双方の話を聞いた上での判断となり、「違法と言える状況と判断できれば企業に対して指導をする」とした。

個別のケースが違法かどうかについての最終的な判断は、労働審判や裁判で争うことになる。どのように判断される可能性が高いのだろうか?

独立行政法人労働政策研究・研修機構副主任研究員の内藤忍さんによると、「昭和61年の最高裁判決により、会社の就業規則等に転勤を命ずることができる旨の規定があれば、基本的に、使用者は包括的な配転命令権をもつとされています。つまり、使用者は労働者に配転を命じることができるということです」。

そして、転勤の妥当性を巡る裁判例は、労働者側にとって厳しい判断となることが多いという。

「最高裁判決では、転勤命令に業務上の必要性があっても、それが労働者に対し通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせる場合は使用者の権利濫用とされています。具体的な判断では、下級審で、労働者が介護を担う場合に濫用を認めたケースもありますが、上級審では、単なる単身赴任や長時間通勤によって生ずる不利益では足りないとするケースが多いです。一般的に裁判所は、育児や介護をする労働者が転勤を命じられた場合の不利益を認めていないと言っていいでしょう」

一方で、内藤さんは「配転、特に転居を伴う転勤は生活への影響が大きく、特に育休や産休明けのタイミングでの転勤によって、仕事と育児の両立が難しくなることは明らか」とも指摘する。

既に共働きが一般的になった現在でも、裁判所は転勤について企業側の主張を認める傾向にあります。核家族化、共働き、転勤をめぐる現代の実情を、裁判所は理解した上で判断すべきです」と、内藤さんは話している。

伸び悩む男性の育休取得に「パタハラ」の影

男性の育休取得が進まない理由として、パタハラの存在も挙げられている。 

改正育児・介護休業法が施行された2010年に1.38%だった男性の育休取得率は5.14%(2017年度)まで伸びたものの、「2020年までに13%」という政府目標にはほど遠い。

新入社員の男性の8割以上が育休取得を希望している。一方で民間シンクタンクによる調査で、正社員男性が育児休業を取得しなかった理由として、最も多かったのは「職場の雰囲気」だった。

また、同じ調査では「育児休業取得によって仕事がなくなったり解雇の恐れがあった」と、パタハラを恐れて取得が言い出せないことを挙げた人もいた。

こうした職場の雰囲気を変え、男女が共に子育てに取り組む社会を作ろうと、自民党の有志議員約50人が、男性の育休「義務化」を目指す議員連盟を6月5日に設立予定だ。

「転勤」が生活を破壊する

パピさんが今回の転勤について「育休取得によるパタハラでは」と訴えたツイートに対して、別の見方をした人もいた。「転勤の命令があったのは持ち家を購入したからでは?」という意見だ。

Twitter上では、持ち家を購入し住宅ローンを組むことで転職がしづらくなり、従業員の会社に対する「忠誠心」が増すタイミングで転勤を命じるのは「あるある」だとする声も。

しかし、調査では転勤そのものが労働者の生活を破壊しているとする実態も浮き彫りになっている。

労働政策研究・研修機構が2016年に行った「企業の転勤の実態に関する調査」で、転勤があることで困難に感じることを正社員に聞いたところ、「介護がしづらい」(75.1%)、「持ち家を所有しづらい」(68.1%)、「進学期の子供の教育が難しい」(65.8%)、「育児がしづらい」(53.2%)、「子供を持ちづらい」(32.4%)、「結婚しづらい」(29.3%)などとなっている。

また、過去3年間で、配偶者の転勤を理由に退職した正社員がいるかどうかを企業に聞くと、「いる」が33.8%にのぼり、転勤が労働者の生活にもたらす深刻な問題が浮き彫りになった。

こうした調査を受け、厚生労働省では、2017年に、労働者の仕事と家庭生活の両立の観点から、転勤のあり方を見直す際の参考にしてもらうため、「転勤に関する雇用管理のヒントと手法」をまとめている。しかし、企業に対して直接の法的義務を課すものではない。

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