「30%クラブ」とは? イギリス発のキャンペーンが日本にも上陸、2030年までに企業の女性役員比率30%を目指す

「30%クラブジャパン」が5月に開始。「日本企業の存在感が低下している。大変な危機感を感じている」

企業の役員に占める女性比率を3割に引き上げることを目標としたイギリス発のキャンペーン「30%Club(30%クラブ)」が日本でも始まった。

「TOPIX100」(東証1部の時価総額上位100社)の取締役会に占める女性比率を2020年末までに10%、2030年末までに30%に引き上げることを目標としている。

「30%クラブ」は2010年にイギリスで始まった非営利のキャンペーン。

2020年までに企業の役員比率30%達成を目標に掲げ、ロンドン証券取引所のFTSE100の女性役員比率が5.9%(2010年)から30.6%(2018年)に急増した。企業のトップが個人としてメンバーとなり、役員の女性比率向上への取り組む一方、機関投資家なども加わり、企業の取り組みを後押しする。

イギリス・ロンドン証券取引所のFTSE100における女性役員比率。30%clubのキャンペーン発足を境に急激に上昇している。
イギリス・ロンドン証券取引所のFTSE100における女性役員比率。30%clubのキャンペーン発足を境に急激に上昇している。
30%club公式サイト

現在までにアメリカをはじめ、香港、マレーシア、トルコ、南アフリカなど13の国と地域に広がり、日本は14カ国目。2019年中に中国でもキャンペーンが始まる予定という。

「日本企業の持続可能性、大変な危機感」

日本では、5月1日に「30% Club Japan」が発足した。

メンバーには、西井孝明・味の素社長や遠谷信幸・電通代表取締役執行役員、五神真・東京大学総長ら約30人が名前を連ねている。

キャンペーンマネジャーの只松美智子さん(デロイトトーマツコンサルティング)は「『ダイバーシティ=企業の競争力』というのは国際的には常識。グローバルでは『HOW(どう加速するか)』が問題になるのに、日本ではまだ『WHY(なぜ必要か)』というところで止まっている」と指摘。

「世界の変化から取り残され、日本企業の存在感が低下している。持続可能性というところで大変な危機感を感じている」とキャンペーン発足の理由を説明した。

海外では議決権行使の例も

30%クラブの大きな特徴は、キャンペーンに賛同する機関投資家がグループとなって投資先企業に対し、取締役会の女性比率を上げるメリットを説明したり取り組みを促したりする点にある。

海外では、経営陣を選任するプロセスを報告させたり、ダイバーシティを実現するためにどんな選任プロセスを踏めばいいかを明文化することを求めたりする。また、変化が見られなければ議決権を行使する例もあるという。

日本でも5月1日の「30% Club Japan」発足に合わせ、ニューヨークメロン銀行や三井住友トラスト・アセットマネジメントなど5社が「Investor Group(投資家グループ)」に加わった。

三井住友トラスト・アセットマネジメントの堀井浩之執行役員は「女性比率の高い会社の方が財務パフォーマンスがいいことは数々のデータが証明している。取締役会のダイバーシティ実現は、事業機会の創出やリスク削減にもつながる」と指摘。

「マーケット全体を底上げすることが投資家としてのメリットになる、と認識していただきたい」と訴えた。

三井住友トラスト・アセットマネジメントの堀井浩之執行役員
三井住友トラスト・アセットマネジメントの堀井浩之執行役員
Kasane Nakamura

ただ、海外の例のように議決権行使などの外圧による変化の促進は考えていないという。

NYメロン銀行のダグラス・ハイマス日本代表は「日本は欧米と異なり、時間をかけて合意形成を図り、一致団結して変化するカルチャー。強制や罰則はカルチャーに合わないと思う」と語った。

日本の女性役員比率は3.8%、6割で女性ゼロ

東京商工リサーチによると、日本では、2018年3月期決算の上場企業の女性役員比率は3.8%。上場企業2375社のうち65.8%で女性役員がゼロだった。

女性自身が「管理職になりたくない」と考えている、というデータもある。

転職支援サービス「エン転職」が2018年に約1万人を対象に行ったインターネット調査では、「管理職に興味がある」と回答したのは男性で38%、女性で16%だった。

「エン転職」による管理職への志望度調査
「エン転職」による管理職への志望度調査
エン・ジャパン

女性が昇進を断るのは「カルチャーの問題」

だが、ハイマス氏は自らの経験をもとに、「女性に意欲がない」と捉えるのは間違いだという。

「私は28年日本で働いていますが、過去に女性を昇進させようとして断られたことが5回あります。すごく優秀で才能があるのに、びっくりしました。本当に自分に務まるか、と怖くて躊躇するんです。海外なら昇進はみんな喜ぶし、むしろ断ることを怖がるのに…」

ニューヨークメロン銀行のダグラス・ハイマス日本代表
ニューヨークメロン銀行のダグラス・ハイマス日本代表
kasane nakamura

「こんなデータがあります。新しいポジションを提示された時、手を挙げるハードルは男女によって異なるんです。男性は『6割できる』と思えば手を上げる。残り4割は『頑張ればなんとかなる』と思うんです。でも、女性は『100%やれる』と思わないと手を上げない」

ハイマス氏は「日本では男性は幼い頃からできないことでも少し背伸びをして頑張らせるが、女性は失敗するかもしれないことを避ける慣習があるのではないか」と指摘する。

どうすれば克服できるか。ハイマス氏はこう強調した。

「昇進を避ける理由が『怖い』『自信がない』からであれば、それはカルチャーの問題。『完璧にできなくてもいいよ』と、プッシュした方がいい。そのためには、経営層のカルチャーが変わらないといけない。『あなたが経営トップ層に入ることで、カルチャーを変えましょう』と説得した方がいいと思います」

「30% Club Japan」では、社会への認知を高めるためにメディアグループの発足も予定しているという。

注目記事