街中に設置されている公衆トイレ。
日本においても、イベントなどの行事の際は、特に女性用に長蛇の列が出来ているという光景は珍しくない。
東京オリンピック・パラリンピックの開催が来年に迫る中、日本の公衆トイレには、どのような課題があるのか?専門家に話を聞いた。
公衆トイレの便器の数の男女比、「1:2が適切」と英調査
日本の議論に入る前に、参考になる調査がある。
イギリスの王立公衆衛生協会が行った調査で、街中に設置されている公衆トイレの便器の数の男女比は1:2が適切とするという報告書が発表された。
BBCによると、イギリスの王立公衆衛生協会の報告では、イギリス国内では各自治体が管理する公衆トイレが数百件規模で閉鎖されており、同協会はこれが原因で病を抱える人々や身体障害者が外出しにくくさせている状況があると指摘。
さらに報告書では、公衆トイレは、「街灯や道路、ごみの収集と同様、日常の生活に不可欠な公共サービスとして考えるべきだ」と提言がなされた。
トイレが不足することで、尿意を我慢したり路上で用を足す人がいることに言及し、これについて、不衛生で病気や汚染の原因になる行為だと指摘した。
五輪を控える日本における公衆トイレの現状と課題に専門家は?
イギリスでの報告書を踏まえ、五輪を控える日本は今後どうするべきなのか?
NPO法人日本トイレ研究所の加藤篤(あつし)・代表理事に聞いた。
──日本の公衆トイレの数は、このままでいいのでしょうか?
街のニーズに合っていない公衆トイレもあります。そのため、現状の利用状況に合わせてトイレそのものの必要性を検討し、適正に配置しなおす必要があります。一方で、便器数に関しては女性用が足りていません。
事務所で便器を使用する平均の時間を表したデータをみると、男性が30秒に対して女性が90秒で、女性は男性の約3倍です。(出典:社団法人空気調和・衛生工学会SHASE-S 206-2009 p211)
なので、適正な個数を算出しようとすると、少なくとも公共的なトイレの便器の個数の男女比は「1:3」となります。つまり、女性は男性の3倍の個数が必要なわけです。でも現状はそうなっていませんから、当然混雑が発生します。
イギリスが「1:2」で本当にいいのか?と思う面もありますが、イギリスの男女比以上に、日本では女性の便器の数は必要になります。
──日本における公衆トイレ、現状の課題は?
2つあると思います。1つは、「多機能トイレ」の数が足りていないことです。
車いす利用者や障害者などが使用できる多機能トイレの機能面の充実は日本の特徴でもありますが、多くの車いす利用者は空いていない多機能トイレに遭遇しています。やはり数を増やしていかないといけないと思います。
また、社会が変化するとトイレに対するニーズも変化します。例えば異性の介助や子連れ、LGBTQなどの方も多機能トイレであれば安心して利用できる場合があります。その意味でも増やす意味はあると感じます。
もう1つは、「トイレをシェア」する取り組みがさらに進むことです。
単独の施設では限界があるので、コンビニエンスストアや街の商業施設をはじめ、街や地域全体が一緒になってトイレ環境を整えていくことがもっと必要だと感じます。
「外出先でトイレが見つからない」とか、「使えるトイレがないことでストレスを抱えてしまう」という事などがないように、知らない街に来ても、その点では安心できるようにならなければいけないと思います。トイレは街の魅力を測る指標だと思います。
──来年には東京でオリンピック・パラリンピックが開かれ、外国人の利用も増えると見込まれますが、懸念点はどこでしょうか?
これに関しても、大きく2つあります。
1つは、個室の小ささです。これはもう少し大きくするべきです。
例えば、車いすの利用者であっても多機能トイレではなく、少し広めのトイレであれば使用できる方は結構いると思います。ですが、今の日本の個室のサイズでは、なかなか難しい。
折り畳んだベビーカーやスーツケースを入れてもゆったり使用できるくらいの広さは欲しいところだと思います。
もう1つは、日本のトイレの操作が複雑すぎる点です。
高齢者や視覚障害者の方々からはすでに声が上がっていますが、オリンピックのためにやってきた外国人観光客も、操作が難しいと感じるかもしれません。
操作方法に悩んで時間がかかってしまうと、それは混雑を助長しますし、使い方を間違ってトラブルを引き起こす可能性もあります。