「『不起訴になったことで事件じゃないということだ』と言われ、そして今は会社を攻撃する加害者だとまで言われています」
「目をそらしてはいけない問題に対して、そらさないなら辞めろ。新生NGT48を始められないというのが、このグループの答えでした」
国際人権NGO・ヒューマンライツ・ナウの事務局長で弁護士の伊藤和子さんは「メディアも含め、瞬間的に盛り上がってすぐに忘れるのではなく、折に触れてきちんと問題点を指摘していくべきだ」と話す。
「声をあげた被害者が職場を追われる著しく不当な結論」
AKBグループの運営元であるAKSが、第三者委員会の報告について記者会見を開いたのが、3月22日。
その日以降、伊藤さんはTwitterなどで発信を続けてきた。「卒業」発表についても、「声をあげた被害者が職場を追われる著しく不当な結論」だと訴えている。
加害者が『有罪』とされていないことを理由に「事件ではない」と被害そのものを疑ったり、被害を訴え出た人が厄介者として冷遇されて所属組織の中で居場所を失ったりーー。
こうした構図は、AKBグループだけの問題ではない。アイドルグループでなくても、パワハラやセクハラを訴えた被害者が、所属組織やネット上で二次被害に遭う例は後を絶たない。
「被害に遭った」「怖かった」「同じことが二度と繰り返されないように」
当たり前の主張なのに、なぜこれほどまでに難しいのだろう。
「運営側に、山口さんを守ろうとする姿勢が見られなかった」
伊藤さんは、AKSの姿勢が一番の問題だったと指摘する。
「山口さんとAKSは実態からみて雇用類似の契約と考えるべきで、事務所は職場環境調整義務と安全配慮義務を負っています」
「山口さんから訴えがあった段階で、まずは会社でしっかり対応すべきだったのに、第三者委員会に丸投げした。会社として『こうした対応をとる』という軸も見えてこなかった」
山口さんのコメントが事実だとすれば、「不起訴=事件ではない」という考え方もおかしい。
伊藤さんは「刑事事件として立件されていないことと、被害に遭った所属アイドルの安全配慮はまったく次元が違う問題です」と伊藤さんは言う。
「職場の安全配慮義務がある立場の人間が、守るべき相手をトラブルメーカーとみなして責めるなどということは、あってはならないことです」
伊藤さんは『卒業』という言葉にも疑問を呈する。
「実態を見れば、解雇や違法な退職勧告に等しい」
伊藤さんは次のように強調した。
「スポンサーやメディアはこれを機に考えて欲しいです。単なるアイドルの問題として、『卒業』というキレイな言葉で終わらせてしまうのは絶対に良くないと思います。一般の人の関心も大きく、波及効果は大きい。守られるという安心感がなければ、被害を受けても安心して告発することはできないのです」
これまでの経緯を振り返ると・・・
山口さんは2018年12月に2人の男に自宅に押しかけられ、顔をつかまれるなどの暴行を受けた。2019年1月、SHOWROOMの配信で涙ながらに被害を告白。
NGTのメンバーの関与を示唆しながら、「1カ月待ったけど、何も対処してくれなかった」と事務所への不信感を訴えていた。
山口さんが被害を自ら発信し、事件が社会の耳目を集めるようになると、所属事務所のAKSは10日に公式サイトでコメントを発表。
「メンバーの1名が、男から道で声をかけられ、山口真帆の自宅は知らないものの、推測出来るような帰宅時間を伝えてしまったことを確認しました」と認め、「全グループメンバーへの防犯ベルの支給」など再発防止策を掲げた。
一方、山口さんは1月10日に出演した公演で騒動について頭を下げて謝罪。「被害者なのに謝らなくていい」と国内外で大きな話題となったが、後にこの謝罪は強要されたものだったと訴えている。
1月14日、AKSはメンバーの中に山口さんの自宅を教えた者がいると認めたが、警察に送検されたのが男2人だけだったことから、「メンバーの中に違法な行為をした者はいない」とする声明を公表。
3月22日には、第三者委員会による調査でも「事件そのものにNGT48のメンバーが関与した事実はなかった」と結論づけられ、ファンと繋がっていたメンバーへの処分は行われないこととなった。
だが、第三者委員会の報告書についてAKSが行った記者会見中、山口さんは次々とTwitterを更新。「なんで事件が起きてからも会社の方に傷つけられないといけないんでしょうか」「なんで嘘ばかりつくんでしょうか」とリアルタイムで反論。
翌4月22日のNGT48の公演で「卒業」を発表していた。
「卒業」発表を終え、25日には「アイドルは辞めてしまうけど、 1人の人として、皆さんにまた愛してもらえるような、強く優しい女性になりたいなと思います」と、長いメッセージをTwitterで公表。
5月8日には、最後の握手会を終えてTwitterに投稿した長文メッセージの画像の中でこう綴った。
「凄く苦しい5ヶ月間でしたが、『この日の為に私は生きてたんだ。』と思いました。それぐらい、皆さんと会ってお話できたことが幸せでした」
「私のことを見つけてくれて、会いにきてくれてありがとう。好きになってくれて、ファンになってくれてありがとう。皆さんに出逢えて、応援してもらえて幸せです。またお会いできるように、夢に向かって頑張ります。卒業公演で、またね」