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「週休3日制は、人間が働くのにちょうどいいバランスなんです」
アレックス・スジョンーキム・パンさんはこう話します。パンさんは、レストフル・カンパニーの創業者で、米スタンフォード大学の客員教授です。
AIをはじめとするテクノロジーの進化により、人間の働き方が大きく変わることが予測される一方、人手不足問題を抱える日本の「働き方改革」はまだ始まったばかり。
今後、「働き方」はどのように変わっていくのでしょうか? 週休3日制のメリットや、実際に導入するためのポイントを聞きました。
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週休3日制なら、いい仕事をしながら自由な時間も手に入る
アレックス:まず、週休3日制を推奨する理由を教えてください。総労働時間を減らすのが目的なら、たとえば週休2日のまま、1日4時間勤務でもいいのではないでしょうか?
パン:何事も一歩一歩です。100年前の経済学者たちが、将来的には週15~20時間労働が実現するだろうと考えていたように、いつか1日4時間勤務を実現できるかもしれません。
でも、現実問題として今のところは難しいですよね。
パン:多くの人にとって、週休3日はちょうどいいバランスなんです。いい仕事をしながら自由な時間も手に入る。このバランスは、フレックスワーク(*1)の仕組みにはあまりないものです。
(*1)フレックスワーク:労働開始時間や終了時間や働く場所を、従業員が柔軟に選べる制度。
フレックスワーク制度がストレス軽減につながるとは限らない
アレックス:ワークライフバランスを求める人にとって、フレックスワークはありがたい制度のように思えますが。
パン:フレックスワークは、しかるべき方法で、社内で広く使われるのであれば、非常に有効です。
でも、米国と英国における最近の研究で、思わぬ結果が明らかになったのです。
アレックス:思わぬ結果......。
パン:1つは、フレックスワーク制度を使う人が少ない場合は、フレックスワークを選ぶ人に対して、文化的ペナルティが与えられるということです。
具体的には、おもしろい仕事は与えられず、出世も遅くなるということです。また、21時まで会社にいる人に比べて、「仕事に打ち込んでいない」と考えられるふしがあるのです。
アレックス:労働時間が長い人のほうが「仕事熱心」で、「仕事中心の生活を送れる人」と思われてしまうということですね。
パン:そうです。もう1つのマイナス点は、特に子どもを持つ女性に、かなりのストレスがあることです。
生物学的数値でストレスを測定する研究が先日発表されました。全般的な結論は、2人の子どもがいて、柔軟な働き方をしている女性のストレス値は、子どものいない男性に比べて40%、子どもが1人いる女性よりも20%高いということがわかっています。
フレックスワークがストレス軽減につながる証拠は、不十分だということです。
パン:フレックスワークをするには、ほかのメンバーとの調整に多大な労力を割かなければならないんですよね。同僚への情報共有の責任がありますし、仕事を滞らせないことを証明しなければいけません。
アレックス:たしかにスケジュールを調整するために、同僚と交渉もしなければなりませんね。
パン:この心理的な苦労は何重にも入り組んでいます。でも、週休3日制の場合は生じません。なぜなら、たいていみんなが月~木でオフィスにいるからです。
アレックス:週休3日制の場合でも、何かしらの調整が必要なのでは?
パン:週休3日制の導入によって、会社全体で達成しなければならない課題はあります。でも、経営状態のいい企業は、結果、予想外のコストが発生するどころか、利益を得ることができます。
アレックス:成功した会社はどのような利益を得たのでしょう?
パン:広告業界は徹夜や夜中までの過重労働が伝統みたいなものですが、私が見た広告代理店の多くには、社員が20%の労働時間を削減しながらも、これまで通りクライアントを離さず、新規顧客も獲得していました。
労働の質に加え、クライアントとの関係の質も上げられたんです。週休3日制がいかに有効か、決定的に証明していますよね。
アレックス:いいことづくしだったんですね。
パン:従業員が最大1000人規模の企業を約100社研究した結果、この利益はどの会社にも見られました。しかし、サンプル数は決して多くありません。業界や企業の規模によって、結果が異なるかどうかはまだ断言できません。
週休3日制を成功させる3つのポイント
アレックス:週休3日制を実現するためには、どのような工夫が必要ですか?
パン:週休3日制のために会社がすべきことは3つです。
(1)効率よくミーティングをすること。
(2)1日をリデザインして、集中できるまとまった時間を確保すること。
(3)テクノロジーをうまくコントロールすること。
アレックス:詳しく教えてください。
パン:まず(1)について、会議の時間を短時間にする必要があります。全員出席の1時間の会議なんてやっている場合ではなくて、数人の重要なメンバーが10分ほど打ち合わせるようなスタイルにしなきゃいけない。
アレックス:短時間にする分、密度の濃い会議にする必要があるんですね。
パン:(2)は、1日の計画を立てるということ。午前中は最重要タスクに集中して、ミーティングは短いものだけにする。クライアントとのピッチやそのほかのミーティングは午後に回す、というようにね。
こうすることで、社員一人ひとりが集中する時間を3、4時間確保できます。
アレックス:生産性を上げるために、時間の使い方をデザインする、と……。
パン:その通りです。(3)についてですが、テクノロジーはとても重要な要素です。
テクノロジーのおかげで、今やメールやSlackをいつでもチェックできます。しかし、どれほどの時間を使い、何について、誰がコミュニケーションすべきなのか、しっかり考える必要があるでしょう。
アレックス:いつでもどこでもチェックできる分、自己管理が必要なんですね。
パン:(1)~(3)を実践した人々からは、高い満足度を得ていることも報告されています。だれもが、時計が17時を回った時に「そういえば今日、何をしたっけな?」なんて考えたことがありますよね。
そんなことが起こらないように1日をデザインすれば、みんなもっとハッピーになるんですよ。
クライアントもあなたの会社と同じ問題を抱えている
アレックス: (1)~(3)は社内での取り組みですが、社外に向けて実施すべきことはありますか?
パン:クライアントの期待をマネジメントすることです。
アレックス:週休3日制の導入についてクライアントを説得するのは、少し難しそうですね......。
パン:みなさん、とても心配するんですが、実際にやってみると、それほど大きな問題ではないとわかるものです。
ニーズを把握し、非常事態に備えておけば、クライアントは協力的になってくれるはずです。なぜなら、クライアントも同じ問題を抱えていて、あなたの会社が同じ問題解決をしていると映るからです。
アレックス:たしかに、「社員の幸福度を上げて、効率性と収益性を高めたい」という考えは、クライアント企業も抱いているはずですもんね。
パン:長年のビジネスパートナーであるのなら、クライアントはあなたの会社のカルチャーを理解しています。そして、あなたの会社が実行できるのなら、彼らもたぶん実行できるんです。
アレックス:クライアントの理解を得るためには、まず何から始めたらいいでしょうか?
パン:はじめに、「これは一定期間の実験で、いずれ終わりますよ」と伝えると、相手の理解も得やすいです。
早めにKPIを明確にしておくのも大切ですね。
「キャッシュフローはどうなっている?」「納期は守られている?」の確認も必要です。数字が安定、または伸びているのなら安心です。そうでないなら、もっと難しい決断をしなきゃなりませんが。
アレックス:成果を維持できていることを証明しないといけないんですね。
零細企業の取り組みが、5年後には有名企業に取り入れられているかも
アレックス:こういった実験は、大企業よりも、小さい企業のほうがやりやすいと著書に書かれていますが、なぜですか?
パン:小さい会社の方が、企業文化と業務プロセスの変革を試しやすいからです。
「大企業だからできない」というような障壁があるわけではないと思うのですが、企業文化の変革は、小さい企業から始まって、やがて大きな企業へと浸透していくというパターンが多い。
アレックス:たしかに。
パン:近年、企業がすぐにスケールするという事実があります。
ある土地の零細企業による風変わりな実験が、5年後にはフォーチュン100(*2)企業の間でニューウェーブになっているかもしれない。
オラクルやグーグルだって、週休3日制への移行を阻むものは何もないですよ。とても優秀な企業ですから、すぐにやりこなせるでしょうね。
(*2)米フォーチュン誌による企業ランキング
週休3日制なら、仕事で燃え尽きなくて済む
アレックス:日本では急速な少子高齢化が進んでいて、深刻な人手不足に直面しています。勤務時間の削減は、経済を停滞させませんか?
パン:もし生産性の維持が目標でしたら、経済は停滞しないでしょう。
長期的には2つの重大なインパクトがあります。
1つは、キャリアの寿命が延びることです。
多くの人は「週5日働くよりも週4日働いて3日休むほうがいい。ストレスが少ないし、体力も奪われない。」「燃え尽きて引退しなくて済みそうだ。自分の好きなことをしてるけれど、これを20年後もしている自分の姿が想像できるよ」と話しています。
大規模な組織にとって、労働力を長く引き止められることは、多大な利益となるでしょう。
アレックス:無理なく仕事を楽しめれば、年をとっても、仕事を続けられるということですね。
パン:もう1つは、勤務時間を短縮すると、会社でのテクノロジーの使い方を考え直すようになることです。
「従業員からどれだけ労働時間を搾取するか」という発想をやめて、「テクノロジーでどれだけ生産性を上げ、いかにして得たものを社員と分け合うか」という発想になります。
アレックス:ふむふむ。
パン:モバイルのテクノロジーは、社員に22時にメールする手段ではなく、社員が邪魔されずに仕事できる環境をつくり、1日の終わりに解放されるための手段だと考えましょう。
報酬に対する考え方を変えたら、週休3日制を取り入れられた
アレックス:日本には、残業代に依存する社員がたくさんいます。勤務時間の削減で、労働者は不利益をこうむることになりませんか?
パン:残業は廃止するか、残業が発生したときのルールを変更すべきです。
給料のかなりの額が残業代として支払われていることや、時給制の働き方は大きな問題です。
アレックス:現状に問題があると。
パン:長年、時間に対する報酬をクライアントに請求してきた法律事務所に話を聞きました。彼らにとって、週休3日制への移行は、想像を絶することです。
なぜなら、彼らには「クライアントに請求可能な時間数を最大化すべし」という考え方が刷り込まれているからです。
でも、時間でなく案件に対する報酬へと徐々に移行し始めたようで、週休3日制を導入する余地も生まれています。
アレックス:報酬が何に対して支払われるかの考え方を変えたのですね。
パン:はい。ですが、時間あたり報酬のうち、どれだけの割合で人材が実際に働いて稼いだものなのかは、よく考える必要があります。
アレックス:みんなが満足できるように週休3日制の実現するには、さまざまな制度や環境を整える必要がありそうですね。働き方を考えるためのヒントをたくさん聞くことができました。ありがとうございました。
翻訳:河崎環/編集:藤村能光、鈴木統子/執筆:Alex Steullet
本記事は、2019年4月24日のサイボウズ式掲載記事
より転載しました。