ユネスコ(国連教育科学文化機関)の世界文化遺産に、大阪府の仁徳天皇陵などを含む「百舌鳥・古市古墳群」が登録される見通しとなった。ユネスコの諮問機関であるイコモスが「(世界遺産一覧表への)記載が適当」と勧告したと、文化庁が5月14日発表した。
6月30日からアゼルバイジャンで開かれる世界遺産委員会で正式に決まる見込み。決定すれば、日本の世界遺産では23件目。令和に入って初めて、かつ大阪府としては初の世界遺産登録となる。
◼️日本で23件目の世界遺産になる見通しの「百舌鳥・古市古墳群」とは?
登録されれば、日本では23件目の世界遺産登録となる「百舌鳥・古市古墳群」は、どんな遺産なのだろうか?
構成遺産として含まれるのは45件49基の古墳で、エリアが2つに分かれている。
大阪府堺市の百舌鳥エリアには、仁徳天皇陵古墳を含む23基があり、大阪府羽曳野市・藤井寺市の古市エリアには応神天皇陵を含む26基の古墳がある。
文化庁の資料によれば、百舌鳥・古市古墳群が造られたのは、古墳時代の最盛期であった4世紀後半から5世紀後半。当時の政治・文化の中心地のひとつとして、大阪湾に接する平野の上に造られた。
20メートル台の墳墓から長さ500メートル近くに達する前方後円墳まで、大きさと形状には多様性がある。
幾何学的にデザインされた墳丘は、葬送儀礼の舞台であり、外観は埴輪(はにわ)などで飾り立てられた。「百舌鳥・古市古墳群」は、墳墓によって権力を象徴した日本列島の人々の歴史を語る上で顕著な物証であると考えられている。
◼️評価されたポイント・理由は?
今回、なぜ「百舌鳥・古市古墳群」は世界遺産登録にふさわしいとの評価を受けたのか。 評価を受けた理由とポイントを整理する。
文化庁が発表したイコモスの勧告の概要によると、百舌鳥・古市古墳群における45件49基の構成資産は、傑出した古墳時代の埋葬の伝統と社会政治的構造を証明しており、一連の資産は顕著な普遍的価値を証明していると考えると説明されている。
日本ユネスコ協会連盟によれば、世界遺産として登録されるためには、次のような基準をクリアする必要がある。
・「世界遺産条約履行のための作業指針」に記載されている(i)〜(x)までの10の登録基準のうち、1つ以上に合致すること
・遺産が「顕著な普遍的価値」を持つこと
・「真実性」や「完全性」の条件を満たしていること
・締約国の国内法によって、適切な保護管理体制がとられていること
これらを踏まえ今回の登録勧告は、以下の登録基準(iii)と(iv)が適用された。
(iii)現存するか消滅しているかにかかわらず、ある文化的伝統又は文明の存在を伝承する物証として無二の存在(少なくとも希有な存在)である。
(iv) 歴史上の重要な段階を物語る建築物、その集合体、科学技術の集合体、あるいは景観を代表する顕著な見本である。
文化庁文化資源課の小林万里子課長は、ハフポスト日本版の取材に対し、「顕著な普遍的価値とともに、古墳群の歴史性や保存状況などの点でも真実性がしっかり認められている点も評価された」と語った。
一方、今回世界遺産に登録される49基の古墳のうち、29基が歴代の天皇皇族の墓として宮内庁が管理し、一般の人の立ち入りは禁じられ、真正性を実証するための学術的な調査が制限されていることが専門家の間などで議論となっている。
小林さんは「その点については、こちらからは明確にお答えはできない」と明言を避けた。
イコモスが発表した概要では、真実性について、「古墳の歴史性や保存状況にもとづき、真実性は満たされていると考えるが、その程度には多様性が認められる」と記載されている。
今回遺産に登録される見込みである古墳群は、一部が住宅地の近くに位置している。
世界遺産登録を機に住宅地が観光化されるなど、今回の登録が及ぼす影響や懸念について、小林さんはこのように語る。
「まず、必ずしも観光地が世界遺産になるわけではありません。地元である大阪府の堺市などが個別に環境の整備に向けた努力を進めていますが、それぞれの遺産と観光化のバランスを取ることは必要になってくると思います」
◼️地元・大阪の受け止めは?
今回の登録勧告を地元・大阪ではどのように受け止められたのか?
大阪府と古墳群のある堺市・羽曳野市・藤井寺市が合同で設置する世界文化遺産推進室の担当者は、「イコモスからの勧告を受けて、長年訴えてきた主張が認められる評価に喜んでおります」と喜びを語り、地元の声についても「全体的に今回の登録を祝福する声が多い」とした。
古墳群の周辺の住宅に住む人々への対応については、「地元の人々も、清掃やボランティア活動などに意欲的です。現状では反対の声は少ないと思います。登録実現に向けて、引き続き取り組んで行きたいと思います」と語った。