LGBTQの割合「13人に1人」ではなかった 「3%」という”下方修正”をどう見るべきか、研究者に聞いた

「数字を出すことで『たいしていないじゃないか』となるのが怖かった」という研究代表者の釜野さおりさん。でも、今は…
東京レインボープライド2019
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性の多様性を祝福する祭典「東京レインボープライド」(4月28・29日)が開催中だ。これに先立ち、LGBTQをはじめとする性的マイノリティーに該当するのは3%程度だという調査結果(速報)が発表された

これまでLGBTQは「13人に1人」とも言われてきたが、信頼性の高い調査で数字が下方修正されたかたちだ。どう受け止めればいいのか。

 LGBTAは3.3%、異性愛者は83.2%

「国立社会保障・人口問題研究所」の研究グループが大阪市の協力を得て行った調査。今年1月、無作為に抽出した大阪市内の18歳から59歳、1万5000人にアンケートを送り、4285人から回答があった(有効回収率28.6%)。

調査では性自認や性的指向(性愛感情を抱く相手の性別)を質問。

性的指向では「異性愛者」「同性愛者(ゲイ・レズビアン)」「両性愛者(バイセクシュアル)」のほかに、誰に対しても性愛感情を抱かない「無性愛者(アセクシュアル)」と「決めなくない・決めていない」「質問の意味がわからない」という選択肢も設けた。

この結果、「ゲイ・レズビアン・同性愛者」は0.7%、「バイセクシュアル・両性愛者」は1.4%、「アセクシュアル・無性愛者」と回答したのは0.8%だった。「異性愛者」は83.2%で、「決めたくない・決めていない」も5.2%に上った。

性自認についての質問では、0.7%が「トランスジェンダー」に該当。

「ゲイ・レズビアン」「バイセクシュアル」[トランスジェンダー]に当てはまる人は2.7%で、「アセクシュアル」を含めると3.3%となった。

さらに、性別に違和感がある人に配慮した「申請書類などの性別記載欄の見直し」や「パートナーシップを証明する制度」への取り組みに賛同する人は9割近くに達した。

「13人に1人」が下方修正されると影響は?

これまで、LGBTQの割合は「13人に1人」と言われてきた。

根拠となっていたのは、「電通ダイバーシティ・ラボ」が2015年に行ったインターネット調査だ。20〜59歳の6万人を対象に「体の性別」「心の性別」「好きになる性別」を質問し、LGBTQの割合が7.6%だと結果が出た。

電通は同様の調査を2012年と2018年にも行っている。2012年は5.2%、2018年は8.9%で、LGBTQの割合は少しずつ増えている。

電通によると、この調査の回答者は、調査会社のモニターの中から抽出した60000人。母数がモニターに偏っているが、日本ではLGBTQの割合を示す研究が他になかったため、報道や企業などがLGBTQに関して言及する時にはこの調査が論拠とされてきた。

「13人に1人」という数字が、性的マイノリティーに関する理解や政策を押し上げてきた一方、懐疑的な視点も常に付きまとってきた。

性的マイノリティーに対する社会の理解がある程度深まらなければ難しい調査で、信頼性の高い数字が示されたこと自体は画期的が、事実上”下方修正”されたことで影響はないのか。

研究代表者で国立社会保障・人口問題研究所の釜野さおりさんに、調査の背景を聞いた。

研究代表者の釜野さおりさん(厚生労働省 国立社会保障・人口問題研究所 人口動向研究部 第2室長)
研究代表者の釜野さおりさん(厚生労働省 国立社会保障・人口問題研究所 人口動向研究部 第2室長)
本人提供

ーー調査の意義は?

性的マイノリティーに関する社会的な関心が高まる中で、「SOGI(性的指向と性自認)別の人口割合を示すことができる公的調査があるか」という問い合わせを受けることが増えてきました。

広告代理店の調査は、調査会社のモニターを対象にしているので、大人数調べていてもどうしても偏りがある。この数字を日本全体に一般化して語ることはできないにも関わらず、「13人に1人」という数字が報道されることで一人歩きするようになってしまった。

人口に対する比率の推計には、無作為抽出による調査が必要です。日本の先行研究がほとんどないため、どのように質問したら信頼できる回答が得られるのか、調査項目やフォーマットを研究するところから始めました。

この点では、今回の調査が今後のたたき台となる研究になったと思います。

有効回収率は28.6%。現役世代を対象とした14ページもある郵送調査の回収率としては、よいものだと考えています。

ただ、どの調査もそうですが、回答しなかった方の状況は知りようがありません。自分には関係ないとして答えなかった人もいるでしょう。また当然ですが、性に関する問いに正直に書くことを躊躇する人は、回答しなかったか、実際とは異なる回答をした可能性は多いにあります。

今なら「後退ない」と信じられる

ーー「3%」という数字をどう考えていますか?

私は統計を扱う仕事についていますが、これまで、数字で性的マイノリティーの割合を出すことはあまりしたくないと思っていたんです。

そもそも複雑な性的指向や性自認のあり方を量的に捉えることができるのか、疑問もありました。一部のあり方をマイノリティーとして括ることで、それ以外の人の無関心を増長することも恐れました。数字が大きくても小さくても、性的マイノリティーは存在するし、偏見や差別を解消するための取り組みは必要です。数字を出すことで「たいしていないじゃないか」となるのが怖かった。

その意味では、「13人に1人」という数字が、性的マイノリティーに関する取り組みを推し進めてきた側面は否定できません。

けれども、今なら「3%」という数字が出ても、取り組みや社会全体の理解が後退することはないと信じていますし、信じたいと思っています。

ーー先行研究がない中での苦労は?

これまで日本では、こういう調査はできないと言われていました。

一般市民から無作為に抽出した人びとに、質問の意味や言葉を理解してもらえるのか、答えてもらえるのか、という疑問がありました。こうした項目を入れると、調査そのものへの回答拒否が増えるとも言われました。

そこで、事前に性的マイノリティーの方や異性愛者にも質問を見てもらい、どのように質問したらいいか、という研究から始めました。

質問の意味を理解できているかどうかも、今後の分析で他の質問への回答と照らし合わせることで、見えてくると思います。

ーー今後の展開は? 

今回の調査は小さな一歩だと考えています。無作為抽出による調査で性的指向や性自認のことをたずねても、一定数の方は回答してくださることが分かったのは収穫です。

それぞれ正社員なのか非正規なのか、働き方や職務上のポジション、経済状況、学歴、現在と過去の心身の健康状態、いじめの被害経験や家族の状況も聞いています。性自認や性的指向が生活や働き方とどう関わっているのか、分析していきます。

今回の結果を受けて、性的指向や性自認の項目の精査をします。そして、予算が取れたら他の自治体や全国でも行って、性的指向や性自認のあり方による格差を統計的に検証できるデータを蓄積していきたいです。

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