ドラマを見る楽しみの一つに、役者の新たな一面、新鮮な魅力を改めて発見する、ということがあります。
几帳面で真面目そうな印象だったのに、こんなお茶目な一面があったのか。いつもふざけてばかりいる役者かと思ったら、ふと見せるシビアな表情に色気を感じる……そんな発見をすると、視聴者は幸せな気分になります。
おそらく役者自身にとってもそうでしょう。自分自身にまとわりついた既存のイメージを時に解き放したり、ぶち破っていくような刺激的な作品、個性的な役柄に出会いたい……そう願っているはず。
なぜなら役者とは本来、色のついていない器のような仕事だから。さまざまな人格を流し込んでいく、入れ物だから。
という意味で、今期ドラマの中で期待できる作品がまず、『きのう何食べた?』(金曜夜0:12~テレビ東京系)。
西島秀俊演じる筧史朗(シロさん)と内野聖陽演じる矢吹賢二(ケンジ)、イケメン俳優2人がゲイカップルという設定。しかも2人の日常を、料理を中心に描いていくという実に新鮮な作品です。
まず、西島秀俊さんのイメージと言えば……ジェントルマンで二枚目で三つ揃えのスーツが似合う。誠実で真面目、スマートでクール。もちろん今回のドラマでも西島さん演じるシロさんは「二の線」には違いありません。職業は弁護士で、性格はきっちりしていて細かい。近隣のスーパーの底値を把握し価格を比べて数円でも安い方を買い、浮いた予算は貯金するという現実派です。
でもこのドラマには、そんなシロさんの「完璧さ」がふと崩れる瞬間が用意されている。それが実に味を出しています。柔らかい笑顔をかいま見せる瞬間。自然な活き活きとした表情。あるいは怒るシーンも、西島さんの冷静さやバランス感が揺らぐ危なっかしさがある。予定調和が破綻する感じがいい。見たことのない西島さんにふと出会える気がするから。
一方、内野聖陽さん演じるケンジは、シロさんとは対照的です。人当たりがよくて社交的、明るい美容師という設定。
では役者・内野聖陽といえば? 早稲田政経出身、文学座出のインテリ俳優でNHK時代劇『蝉しぐれ』の下級武士・牧文四郎役があまりにはまり役だった。それだけにどうしても純粋・清貧な剣士、といった印象が私の中にまとわりついています。
しかし、今回はそんなイメージと180度違う。手つき身のこなしもしなやかで、かわいらしいくて。ケンジがシロさんにじゃれていく、かけあいシーンが微笑ましい。好きだからつい、相手に甘えてしまったり。即興のような不思議な空気感が俳優2人の意外な側面を見せてくれる、優れた「舞台装置」となっているのかもしれません。
あるいは、NHK連続テレビ小説『なつぞら』でお茶の間に新しい魅力を知らしめたのがウッチャンナンチャンの内村光良さんです。声を張らず自己主張せず。物語の筋の説明よりも、ふわっと全体を見守るような、ほんのりとした暖かい口調。内村さんのナレーション力がこんな豊かだったの、と驚かされた人も多いのでは?
そして一話の終わりに必ず、呼びかけるようなナレーションが入りますが、こちらも余韻を残します。
「なつよ、思いっきり泣け」「なつよ、一体どこへ揺られてゆくよ」「今もお前と一緒にいるよ」
第9話になって初めて、その正体が亡くなったなつの父親であることが明かされました。そうなのです。あの投げかけは娘の背中へ投げる愛のエール。迷った時の道しるべ。ウッチャンの新たな魅力を、その声の中に発見した気がします。
一方、終わったばかりの深夜ドラマ『デザイナー渋井直人の休日』(テレビ東京系)もそう。オシャレでちょっぴり“痛い”中年独身デザイナーを演じた光石研さん。その愛らしさがサプライズを呼び起こしました。光石さんといえば大ベテランのバイプレイヤー、俳優歴は40年。しかし連ドラの単独主演は初めて。50過ぎてもまだまだ新しい魅力を発掘できるのが芝居という世界の豊かさであり、面白さでしょう。
さあ続々と始まる春のドラマでは、役者たちの新たな魅力をどれくらい見つけることができるでしょうか? サプライズ、待ってます!
「NEWSポストセブン」2019.4.13「西島秀俊と内野聖陽『きのう何食べた?』に不思議な空気感」より転載