包装ゼロのスーパー「Original Unverpackt」に行って感じたデザインの敗北と可能性

仕組みから考え、形作りメッセージを伝えること。それがデザイン
Original Unverpackt店内
撮影 萩原ゆか、小松﨑拓郎
Original Unverpackt店内

ベルリンにきてから、やけに“ビン”の容器が多いことが気になった。ジャムはもちろんのこと、すぐ使い終わるパスタソースやヨーグルトまでビン。ドイツといえばビールだが、ビールもビンが主流(缶もあるけど)。

驚いたのは、ベルリン生活でみない日はないというほど愛されている「ヌテラ」(ヌテラのお菓子もあるよ!)。パートナーの好物で日本でも食べていたので、こっちでも買ってみるとこれもずっしり重い。日本ではプラスチックの容器でも、ドイツではビンなのである。

はじめは「なんでだろう?」「ビンは少し重いな」くらいにしか思っていなかったものの、先日ずっと行きたかったフンボルト博物館に行き、そこでみた環境問題のブースが心に引っかかった。

石油・プラスチックのゴミが海に流れることで起きる問題をアートの要素を入れて展示しているもので、それまで散々生き物の展示を見てきたあとだったので環境へのメッセージの重みをすごく感じた。
展示を見終わったあと、なぜプラスチックを使わないのか気になって調べてみたらドイツには「包装法」というものがあるようだった。

包装法ができた背景にはリサイクルされないプラスチックゴミが海に漂流し、海を汚しているのが一つの要因のようだ。この話はドイツに限った話ではなく日本でも度々耳にする話だった。

気になる話題だったので、そのまま調べていると世界初の包装を使わないスーパーマーケットOriginal Unverpacktがベルリンにあるという情報をみつけ、早速行ってみた。

クロイツベルクにある「Original Unverpackt」は“棄物ゼロのライフスタイルに特化した世界初のスーパーマーケット”というコンセプトで、取り揃えられた商品はオーガニックナチュラル・そしてサステイナブルなものにこだわっているそう。

店内にはドライフルーツなどのお菓子、小麦粉、お米、シリアル、ナッツ類、調味料、など比較的保存のきくものが中心に取り揃えられていた。
食品のほかにシャンプー、掃除道具など日用品もある。

固形物のほか、オリーブオイルやアーモンドオイルなどの液体も量り売り可能で、ピーナッツクリームはその場でペーストにしてくれるようだった。

普通のスーパーで買えるものがほとんどだが、大きく違うのはそこには“パッケージ”“包装”は一切なかった。

品物は透明な容器に、液体は遮光の容器に入っていて、お客さんは自分の持っている容器に自分に必要な量の品物を詰め、買い物をする。

周りのお客さんを見ていると、家から持参した空き瓶を使うでもいいし、その場でビンも売っているのでそのビンを使うでもOKらしい。
お客さんは何度も来ているような様子の方が多く、日常のスーパーとしての機能を果たしているように見えた。

量り売りされる商品
撮影 萩原ゆか、小松﨑拓郎
量り売りされる商品

実際に買い物してみて、
パッケージや容器がなくても「問題なく買い物ができる」というのが正直な感想。

容器は透明なので大体の品物が視覚的に何だかわかるし、液体物はドイツ語で品物名が書かれているため、翻訳にかけないとわからなかったが数回行けばだいたいのものは理解できると思う。

普段の買い物でもドイツ語が読めないので、パッケージとにらめっこし日本で買い物をするよりも2倍ぐらいの時間がかかる。透明な容器は中身が見えるので一目で商品の中身がわかり、外国人である私でも問題なく買い物ができた。一つの品に対して一品しかないので、どのメーカーのものを選ぼうか、という選択が少なくて済んだ。

実は“問題なく買い物”ができる、というのはデザイナー的には問題なのである。パッケージや包装をデザインする時には、商品の良いところを整理したり、ブランドのコンセプトやメッセージを伝えるためにはどうしたらいいのか、と何度も話し合いを重ねたり、リサーチをしたり知恵を絞ってつくられてきている。

そのパッケージが一切ない世界を目の当たりにして、本当にパッケージデザインは必要なのか?と頭の中がグルグルした。私もパッケージデザインを担当させていただくこともあるので、そもそも自分がつくったものが環境や誰かを傷つけているかもしれない、ということにもハッとする感覚を覚えた。

完全にグラフィックデザインの敗北を味わった気分になった。
同時にメッセージやコンセプトを伝えるときは仕組みから考え、形つくっていくこと自体がデザインであるという光も得た。

Original Unverpacktの店内
撮影 萩原ゆか、小松﨑拓郎
Original Unverpacktの店内

「はじまり」には「おわり」があるのと同じで、「つくる」ということは「捨てる」も同時についてくる。今後「捨てる」までの設計を考えていくことがとても重要に思えた。

今回、そもそも「捨てる」を出さない設計のスーパーに行き、コンセプトやメッセージを伝える手段として「仕組み」の部分から考えることもまたデザインという学びを得た。デザイナーは表面的な部分のみ考えるのではなく、仕組みの部分から見直しできることを考えていく必要がありそうだった。

これから「つくる」者として、“人”や“社会”だけに目を向けるのではなく、“環境”などもう少し大きな枠組みで物事を考えられるようになりたいと思った。

Original Unverpacktで会計する様子
撮影 萩原ゆか、小松﨑拓郎
Original Unverpacktで会計する様子

本記事は、2019年4月8日のnote掲載記事

より転載しました。