フリーアナウンサーの古舘伊知郎さんが4月16日、客員教授となった母校・立教大学(東京・池袋)で初の講義をした。科目名は「現代社会における言葉の持つ意味」。古舘さんは講義の中で、現代の学生らの就活戦線に対して矛盾を指摘した。
授業は、全学部の学生が受講の対象となる共通科目として開講され、284人の登録定員に対して1000人以上の履修希望があった。文字通りの”人気講義”だ。
「皆さんは選ばれし者だよ」と、笑いながら講義は始まる。
まずは、古舘”教授”自らの経歴をVTRで紹介。アナウンサーとしてスポーツ実況や報道キャスターを経験したことを踏まえた上で、自らを「最強のおしゃべりおっちゃん」と称し、「入社試験で広辞苑の丸暗記を披露した」と明かした。
自己紹介を終えて、講義は本題へ。
古舘さんが初回のテーマとして取り上げたのは、「仏教」「脳科学」「情報化社会」「言葉」の4つ。中でも最も多くのウェイトを占めたのが、仏教だった。
釈迦の生い立ちから話し始め、「自我」と「無我」の違いについては「自我はエゴ、無我は人を立てること」という自らの考えを説明。
古舘さんはさらに「『自分とは何か』って考える時に、『自我って何か』って考える時に、仏教って重要になってくるんです。自我をゼロにしろなんて極論を言っている訳じゃなくて、(例えば)悩みがあった時に仏教ってのは物凄く大切なんです」と学生らに説いた。
現代の若者の言葉の使い方についても、「言葉っていうのは、(読み方に)何が正解っていうのはないんですね。例えば両方あったり、新しい、もしくは間違った言い方の方が定着すれば、それが正しい言い方で僕なんかの古い言い方が間違えかもわからない。だからまさに、現代の言葉の使われ方も、仏教の精神で言えば”諸行無常”なんです。言葉っていうのは流行りですから」と、仏教に関連づけて持論を展開した。
現在の若者の”就活”に言及「はっきり言って大矛盾」
古舘さんが「あの時間が一番よかった」と振り返ったのが、授業終盤。6分間の質疑応答の時間だ。
学生から「古舘さんは、(仏教を引き合いに)自我を主張することを少し減らした方がいいとおっしゃいました。でも僕らの就職活動では今、自分とは何か、自らのアイデンティティを増やすことが求められています。それって、矛盾していませんか?」と質問された。
古舘さんはその質問に対し、「はっきり言って大矛盾ですよ。仏教が説いていることと、今の就職戦線は基本的に矛盾しています。そもそも仏教は、”本当は自分なんていない”と説いている。でも今の学生たちは確かに、どんどん自分で答えを見つけようとさせられて、(その事に)ヒートアップしている。だから、自我を出そう出そうとするその熱をちょっと鎮めてみたらどうかな?っていうことを私は言いたいんです。あと、(自分をよく見せる為に)ウィキペディアで情報をすぐ調べたりもいいけれど、そればかりじゃなくて例えば、”情報のラマダーン”として週に1回スマホを捨ててみたらいいんじゃないかと思う」と語り、学生たちに提言した。
「心のリゾート地を持った方がいい」
講義終了後、古舘さんはメディアの囲み取材に答えた。
授業の目的について「人生というのは過酷な旅。実社会に揉まれていく若い人にワクチンを打ちたい。心のリゾート地を持った方がいいと伝えたい」と語った。
「人間関係をはじめ、これからは怒涛のように悩みは襲ってくると思うんですよ。加えて労働は今後AIに取られるかもしれない。うかうかしてはいられない世の中だけれども...。人間、長い人生でずっと戦い続けていくのは無理なのだから、”戦うために休む”、”休むために働く”そして”働くために休む”、それでいいんです。仏教ってのは、”いい加減のススメ”なんです。だから就職戦線で加熱しすぎたら、仏教に戻ればいい。そして少し休んで、また戦いに戻ればいいんです...」
「初めて学生を評価する立場になります。どう評価しますか?」と私が聞くと、「評価は、数学のような正解がないから難しい。ただ字が汚くても情熱がこもっていると感じさせてくれれば、評価は高い。情熱を持って、思考を一生懸命している人を評価して上げたい」と明かした。
講義を受けた学生に話を聞くと、「最初はノートを取ろうとしたけど早々に諦めました。けど、仏教は自分に馴染みがないけど、戦ったらちゃんと休んでいいんだというのを聞けて、少し気持ちが楽になりました」と話した。
100分ノンストップの″古舘節”で説いた、”いい加減のススメ”。
メモは取れずとも、しっかりと彼らの心にワクチンは効いていたようだ。