CMが日本人蔑視と物議を醸していたドイツのホームセンター、ホルンバッハが4月15日、問題のCMについてドイツ国内のテレビ放映を取りやめ、公式YoutubeチャンネルのリストとFacebookから削除した。
このCMは、アジア系の女性がドイツ人男性の使用済み下着の匂いを嗅ぐ姿が描かれており、制作した広告会社は「日本の文化をもとにした」などと主張していた。日本人だけでなくアジアへの蔑視であるとして署名活動にも発展していた。
ただ、ホルンバッハ社が自主的にCMを取り下げたのかというとそうではない。
日本人や韓国人らから、ドイツ広告審議会にCMに対する抗議の声が寄せられ、広告審議会が「『CMのメッセージ性は、優しい目で見るべき』というよく使われる言い訳で、人種差別的なCMを正当化することはできない」として「人種、出身、性別に基づいて人を差別してはならない」という条項に違反している疑いがあると判断。
広告審議会からの指示を受け、ホルンバッハ社はドイツ国内でのCM放送を別のCMに差し替えたという経緯だった。
同社はTwitterでもCMの差し替えを発表したものの、動画を投稿したツイートの削除などはしなかった。
指示を受けたのがドイツの広告審議会だったため、周辺諸国のオランダやチェコ、オーストリアなどでは依然としてこのCMが流れ続けている。スウェーデンでは、支社独自の判断でこのCMを使っていなかった。
ホルンバッハ「全世界の多くの地域は、肯定的な反応だったが、このCMに反対する煽動的な活動や署名運動の勢いが増大した」
ホルンバッハ社は、3月28日に始まったCMの取り下げを求める署名活動が3万筆を超えた4月中旬にも、取り下げについては真っ向から否定していた。
4月上旬にはホームページ上で、「全世界の多くの地域からは肯定的な反応が寄せられた」と釈明。
CMの騒動について、最初の10日間は「例外なくほとんどポジティブな意見だった」とした。続けて「しかしながらこのCMに反対する煽動活動や署名運動の勢いが増大し、特に東アジア地域からの否定的反応に、当社は直面してしまった」と受け止めを説明した。
ドイツ国内では、地域によって反応は様々。
中央部のヘッセン州に住む日本人女性は、国内の反応について「今のところ、大きな問題として取り扱われているようには感じられない。ホルンバッハはきわどいCMで有名でした。そういうものだ、と思う感覚でドイツ社会はCMを特に問題視しなかったように思います」と語る。
女性は、ドイツ内で日本や韓国などアジア系の人々と共にCMをもとにした差別被害をまとめたり、ドイツ広告審議会の問い合わせに対する反応の進捗状況を確認するなどの活動を始めた。
このグループには、ドイツ語や英語の記事を他の言語に翻訳もしているという。
女性は「日本社会がこのような形で表現され、結果、CMを元にした差別的発言に遭う女性たちを見て、いつ身に降りかかるかわからない差別への恐怖を感じながら生活しています」と話している。
アジア系女性が受ける日常的なセクハラ。CMへの反応はドイツ語とアジア言語で全く違う
ホルンバッハ社がCMを掲載したFacebookの投稿には、同社が主張する通り、確かに肯定的な意見が多くあった。
それはほとんどがドイツ語で書かれており、ネット上ではきわどいブラックジョークをCM展開してきた同社の流れに乗り「面白かった」「この程度は差別じゃない」「くそ笑った」という反応がつづられていた。
一方で、日本語や韓国語、中国語のコメントは「気持ち悪い」「すぐに取り下げるべき」といった差別に対する怒りで満ちていた。
ただその中でも、日本語の投稿では「差別だと騒ぐレベルではない」「日本女の尻と頭が軽いのは全世界で共通認識だから仕方ない」という嘲笑の声もあり、差別や蔑視に対する欧米とアジア、そしてアジア間での温度差が浮き彫りになった。
ヘッセン州在住の日本人女性は、性被害は「被害者に非がある」と言われることの多い日本での状況を引き合いに出し、次のように語った。
日本社会で守られない女性なのに、日本でない土地で暮らす女性が自分では対処できない窮地に立たされたとき、誰が助けるでしょうか?
正誤の議論に終始し、本題が棚上げされたまま、という、日本社会のあらゆる問題が持つ根っこが頭によぎります。そのような枝葉の議論ではなく、署名や、抗議の声をあげ、状況を変えていくことが問題を解決するための手段であると強く思いました。
アジア系の女性が、ヨーロッパで懸念する差別的な被害とはどのようなものなのか。
韓国系ドイツ人アーティストで振付師をするOlivia Hyunsin Kimさんは「アジア系の女性は、日常的に特にたくさんの性的な被害を受ける」といい、次のように語った。
例えば、公園のベンチに座っていると白人男性が「一晩にいくらなの?」と聞かれる。本当に嫌だ、触るなと言っても、平気で触り続けてくることもある。
「アジアの女性は西洋人の男性を拒まない」「拒否して良いものではない」という偏見が強く、被害に遭っても警察が深刻に扱いません。
ドイツメディアも、ドラマなどでアジア系の女性が出ることもありますが、ほとんどが売春婦役。
そしてドイツにおいて、アジア人は移住の歴史が古いにもかかわらず、ほとんどドイツ語ができない役として描かれています。このCMは、率直に言えば「アジア女性は西洋人なら臭い下着でもいい」というメッセージを伝えています。
また「アジア人は西洋のものなら何でも良いものだと思っている」というメッセージでもあると感じています。
また、ドイツ在住の別の韓国人女性は「道を歩いていたら、いきなり『(性的な)マッサージショップで働かない?』と言われたり、アジア人を見れば『チン・チャン・チョン』などと言って目を指で釣り上げるしぐさを見せる。それは日常的な暴力としてある」という。
「このCMは今も存在するアジア人に対するステレオタイプを強化させ、再確認させるもの。在外アジア系人に深刻な影響を与えると考えています」と語っている。